第16話 sideエリナ6
「奥様、レオルド様から手紙が届きました。非常に重要かつ、極秘事項だと聞いております。」
「ご苦労様です、リヒトさん。」
子供たちを送り出してから数ヶ月後、音沙汰が無い日々が続いていたある日、私の手元に手紙が届いた。
朝食を食べ終わり、最近多くなってきていた政務を片付けようとした時の事であった。
子供たちからの手紙は、家で帰りを待つ母親にとって最大の楽しみと言っても過言ではない。今までは姉弟4人全員が同じ家で暮らしたが、最近は4人中3人は既に家を出ていき、残ったレオルドも色々な仕事が山積みで、家を空ける事が多くなった。まぁ最近、新たにお嫁さんが2人来たので家にいるメンバーは私を含めて4人になったが、息子夫婦は現在旅行中だったので私は1人だった。
普段なら、子供たちからもらった手紙はお風呂に入った後でゆっくりと見るのだが、今回は至急という事でその場で開いた。
届けられたのは手紙だけで無く、茶封筒に入れられた十数枚の紙が入っていた。もちろん真っ白な紙ではなく、文字がぎっしり詰め込まれていた。
私はとりあえず、手紙の方に目を通す。
「よかったわ、上手くいったみたいね。」
1枚目は、航海の記録とデュークス家との話し合いをまとめた内容だった。
航海のメインの目的はデュークス島に軍港を築く事であったが、第二の目標として強襲上陸からの拠点設営を想定した軍事演習を行った。
そして、その結果と改善点が簡潔に書かれていた。流石、世界一の天才と言っても過言ではない私の自慢の息子であるレオルドなだけあり、挙げられた問題点はほぼ無かった。
だとしたら不思議な事がある。同時に届いたあの茶封筒の中身は何なのか。
てっきり私は、今回の演習で発覚した問題点を指摘した上で、改善策を提案したのだと思っていたが、どうやら違うらしい。
手紙の2枚目に目を向けると、とんでもない事が書いてあった。
「嘘っ!ギャルドラン王国の海軍の主力に圧勝だなんて・・・・・・」
そして、海戦の記録が淡々と書いてあった。
ハーンブルク側
『春雨』・・・被弾ゼロ
『秋雨』・・・被弾ゼロ
ギャルドラン側
撃沈及び大破・・・18
捕縛・・・2
逃亡・・・0
思えば、これがハーンブルク家にとって初めての海戦であった。結果は圧勝、しかも敵側は20隻という大軍に対してこちらはわずか2隻だというのに文句なしの圧勝であった。
私の自慢の息子であるレオルドが提案したアウトレンジ戦法と、それを実行できるだけの性能をもった『レインシリーズ』は、化け物のような活躍をしていた。
「ギャルドラン王国は確か、海軍が強いことで有名だったはず・・・・・・しかもそれを20隻もなんて・・・・・・」
海戦はあまり詳しくない私でも、兵力差10倍をひっくり返すというのがどれほどすごいか分かる。
おそらく海軍だけなら、世界最強クラスの実力を持っているという事がわかった。
そして3枚目、最後の紙には更に驚くべき事が書かれていた。
それは・・・・・・
「やっぱり来たみたいね。でも思ったよりも遅かったかしら・・・・・・」
サーマルディア王国からの参戦要請であった。まぁ実は、これに関しては予想通り、むしろ少し遅かったな、というのが正直な感想だ。
SHSからの情報で、戦争が泥沼化している事は聞いていたので、遅かれ早かれ参戦要請は来ると思っていた。
問題は、レオルドが出した王国に要求する報酬の案だった。
「独立を蹴って、統一国家の設立?」
『統一国家』聞きなれない言葉だ。私はとりあえず、指示の通りに茶封筒の中に入っていた紙の束に目を通した。
そして、レオルドの構想に触れる。
レオルドが出した案は、一言で表すなら完璧であった。
どこまでも用意周到、そして完全無欠、私は最近のレオルドの行動を振り返りながら読んでいった。
何故西側大陸各地の沿岸に軍事拠点が欲しかったのか、
何故河の上流でしかないリトア王国に軍事拠点が欲しかったのか、
何故ジア連邦共和国をハーンブルク家の手駒にしたのか、
何故ジア連邦共和国内に大量の道路を造らせたのか、
何故外国に恩を売り、出来るだけ敵を作らないようにしたのか、
何故大都市圏構想を行ったのか、
何故エラリア王国とジオルターンの間に鉄製の橋をかけたのか、
何故無線による遠距離通信の研究を急がせたのか、
「全て繋がる・・・・・・」
全ては、統一国家を作るための布石。
そう考えれば全て辻褄があう。
レオルドは、情報の伝達速度を以前とは比べものにならないほど早くした上で、軍隊を大陸西側のあらゆるところにすぐに送れる体制を作ったのだ。
同時に、敵側西側を攻撃する時に穴になりそうなところにハーンブルク家の軍事拠点を配置して対応する方法を計画した。
また、人と物の行き来を活発にして、大陸西側の団結力を高めようとした。
他の国や地域の、文化や生活に触れさせる事によって、旅行や出稼ぎという文化を作り出した。
鉄道を作り、海路だけでなく陸路による大規模高速輸送を可能にした。
否定する要素はどこにもない。レオルドは、最初から全部計画していたのだ。
どうやら、レオルドは私とは比べものにならないほど天才なようだ。
「やっぱり私の自慢の息子だわ。」
私はそう呟くと、愛する自慢の息子に対しての返事を書く事にした。
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どうでもいい話
お盆という事で部屋の模様替えをしました。
心機一転、以前よりも面白い話が書けるようになったかもわからん。
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