第14話 夜襲

「報告します。先ほどの戦闘で生き残った兵達が昨夜、敵本陣に最後の突撃を行い、全滅しました。」


「そうか。なら仇を討ってやらないとな。」


そう呟く俺の前方およそ500m地点に、サラージア王国軍の別働隊およそ2万5000が野営を行なっていた。

流石は慎重派のライカ将軍といったところか、森林地帯の夜間の移動は危険と判断したらしく。まだ日が高い内から周辺の木を切り倒し、即席の拠点を作って野営を行なっていた。


サラージア王国軍と国防軍の戦いから1日半が経過し、サラージア王国軍の別働隊が完全に森の中に入った。あと20kmほど前進すればハーンブルク軍が待ち構える国境がある。

つまり今日が、夜襲をかける最後のチャンスという事だ。


「作戦は全員覚えているな。」


「「「はっ。」」」


ここに集まったこういう時に便利なSHSメンバー1000名に、それぞれ新兵器を2つずつ装備させて、敵の野営地から500mほどの間隔を開けながら囲むように待機させてある。

合図は俺の『MK-V2』の銃声だ。


持ち運びできる時計はまだ存在しないが、『アイ』によると、現在の時刻は夜中の1時ごろだそうだ。辺りは静かになり、多少の見張りはいるものの、多くは寝静まったようだ。あんまり時間を掛け過ぎると、付近を偵察している斥候に見つかる危険性があるので、無駄な時間はかけない。


俺は、先ほどと同じように地面に『MK-V2』を設置すると、スコープを覗き込んだ。

流石に仮拠点の中に引きこもっているので敵の将軍は狙えないが、それなりの地位にいると思われる兵士を見つけ、狙いを定める。


アイ、頼んだ。


【照準を合わせます。・・・・・固定しました。】


いけ。


俺はゆっくりと、無言で引き金を引いた。

直後、先日も感じた凄まじい爆音と反動が俺を襲う。

放たれた弾丸は、『アイ』の計算通りの軌道を飛び、目標とした兵士の後頭部に命中した。おそらくこちらも即死だろう。


「お見事です、レオルド様。」


「まぁ流石に外さないか。」


「命令通り、SHSメンバーによる夜襲が開始されました。」


俺の放った『MK-V2』の銃声を合図に、250小隊1000名のSHSメンバーが襲撃を行った。

音にも速度があるので、多少のラグはあるかもしれないが、ほぼ同時に襲撃を開始した。


ここからでは現場の状況がどうなっているかはわからないが、が見えるだろう。



✳︎



「おい、起きろ。そろそろ交代の時間だぞ。」


「あ?もうそんな時間か。わかったわかった、今起きるよ。」


男は、目を擦りながら起き上がる。長距離の行軍と拠点の設営のせいで、体力をだいぶ消費してしまい、思わず寝てしまったのだが、そろそろ夜の番の交代の時間だ。

兵達は5つに分けられ、月の位置を基準に交代で仮眠を取っていた。


そして、そろそろ次の者を起こし、交代を行おうとしたその時、乾いた銃声が鳴り響いた。


「誰だよ、銃を暴発させたやつは。」


「いや、爆弾かも知れないぞ?」


「ま、どっちにしろ迷惑な奴だな〜」


「そうだな、ははは。」


彼らは、銃の音をしっかりと聞いた事が無かった。銃の存在は知っていたが、それが味方の銃声なのか敵の銃声なのかなど区別がつくはずが無く、味方の誰かが誤って暴発させてしまったと判断した。


そのため、暴発させた者を探すような事をする者はもちろんいなかった。


それから約3分後、再び大きな爆発音が聞こえた。だが、今度のは先ほどのようにはいかなかった。


「火事だ〜〜」

「全員水をかけて消せ〜」

「大変だ〜」


周囲から怒号が飛び交う。そして、少し遅れて次々と爆発音が周囲から聴こえてきた。

決して幻想なんかじゃない。

見渡してみると、あちこちで火の手が上がっているのが見えた。


「お、おい、俺たちも行こうぜ。」


「あ、あぁ。」


彼らは、とりあえず近くにあった水の入った樽を2人で持ち、消そうと駆けつけた。

しかし・・・・・・


「お、おいっ!消えないぞっ!」

「もっと水をかけろっ!」

「だがこの水をかけたら俺たちが飲む水が・・・・・・」

「バカやろうっ!火だるまになるぞ!」

「あついっ!あついっ!」

「助けてくれーー!!!」


彼らが駆けつけた時には、既に手遅れであった。既に、炎は木の柵や小屋などの様々な物資に燃え広がり、とても消せる状態ではなかった。



✳︎



合図からおよそ3分後、突然付近に爆音が鳴り響いた。

どうやら襲撃は成功したらしく、次々と同じような爆発音が鳴り響き、円を描くように小さな火柱が上がった。

1000名が1人2つずつこの新型の爆弾を持っていたので、合計2000発もの爆発が同時に起こった。


今回使った爆弾の種類は焼夷弾、つまりナパーム弾だ。

ナパームは石油のナフサ(ガソリン)に増粘剤を加えると作ることができる。俺は正直作り方なんて全く知らなかったが、そこは『アイ』に任せた。

それと、増粘剤には砂糖などの多糖類を使用した。

もちろんナパームを使わずに、爆弾と金属片だけでも手榴弾を作れるのだが、ただ殺傷する目的だけならば手榴弾よりも鉄砲や大鉄砲を使えば事足りる。

しかし、先日のハワフ島遠征でサトウキビとパーム油を大量に獲得できたので、利用しない手はなかった。

ちなみに肝心なナフサの方も、この世界の人々は、石油の真価にも気づいていないので、思ったより簡単に入手できた


もちろん、何度か実験を行い、十分に距離を取る事や火災に巻き込まれないようにする方法はSHSメンバーに伝授してある。

本家ほどの威力はでないが、その効果は絶大だ。




どうやら、計画は成功したらしい。

四方八方を火の海に囲まれ退路は完全に絶たれた。サラージア王国兵は、必死に水で火を消そうとするが、もちろん消えない。拠点をその場で切り倒した木で作ったため、安全な場所などなかった。そしてさらに、大火災は酸欠を引き起こした。

中には魔法を使ってこの窮地を脱出しようとする者もいたが、流石に酸欠だけはどうする事もできなかった。

例え火の海から飛び出せても、最新式のライフル銃である『MK-1』を装備したSHSメンバーの餌食となった。



歴史はこの出来事を否定するかもしれない。悪魔の所業だと非難するかもしれない。だがこれから先、この剣と魔法の世界で生きていくには、必要な事だ。


火災は明朝『アイ』が予測した通りに雨が降るまで続いた。

結果として、SHSメンバーおよそ1000名は、誰1人欠ける事なくサラージア王国軍の別働隊およそ2万5000を壊滅させた。



______________________________


どうでもいい話


ナパーム弾を作った事ないのでわかりませんが、多分これで多少は作動する?かな?

細かい所は『アイ』にお任せを。



どうでもいい話2


戦争はこれぐらいにして、次話から一旦内政に戻ります。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る