第15話 表裏
「投票お願いしますっ!」
「是非、この私に投票して下さいっ!」
「この私に投票して下さいっ!」
ハーンブルク領首都『シュヴェリーン』とジア連邦共和国首都『リアドリア』の中央ぐらいにある国境沿いの町の中心で3名の立候補者が声を上げていた。
国の最高意思決定機関である連邦議会すらまだ発足していない状況のまま、他国と戦争状態になるのは流石にまずいと考えたレオルドとエリナは、急ピッチで連邦議会の立候補者を募集し、10個の選挙区全てに立候補者を立てた。
最初は、20人集まらなかったらどうしようかと考えていたが、立候補期間の1週間で合計70人の連邦市民が立候補した。
被選挙権は25歳以上65歳未満で、宗教の信者ではない連邦市民のみとした。
しかし、連邦国ではまだ戸籍が完成していないので、25歳以上かとどうか確かめるすべがなく、年齢に関してはテキトーになった。
選挙権に関してはその選挙区内に住む25歳以上65歳未満の連邦市民とした。
こちらも同じくだいぶ緩い感じだが形にはなった。
ちなみにジア連邦共和国内の貴族にも投票権はないが被選挙権はある。対抗馬を与える事によって選挙に対する意欲や関心を煽った。
また、一応立候補が他国のスパイと繋がっていないかを1人ずつSHSを使って調べてあるので、そこはおそらく大丈夫だ。
連邦市民達の多くは、新聞を片手に耳を傾けた。
マスゴミどころか、ラジオすらまだ無い連邦国の選挙において、ハーンブルク家の発行する新聞は貴重な情報源であった。
何故ハーンブルク家がお隣の連邦国の選挙について報道しているかというと、実は今回の選挙に立候補した者の多くがハーンブルク領に本拠地を置く大小様々な商会の関係者であったからだ。
というのも、鼻が効く商人というのがハーンブルク領には一定数いるようで、連邦国が成立した直後に支店を各都市に配置し、生活必需品を安く提供する事によってその都市に住む連邦市民に好印象を与えた上で、今回の選挙を勝とうとするという天才的な事を行っていた商会が何個かあったのだ。
俺はそんな事全く想定していなかったが、『アイ』からしてみれば想定通りらしく、その事実を容認した。
ちなみに、新聞を持っていても文字が読める連邦市民は少ない。そういう人たちの多くはハーンブルク家が作った学校に通う子供達から文字を教えてもらっていた。選挙区となった10個の地区は全て元ハーンブルク領という事もあり子供の識字率だけは高いのだ。
「選挙というものは一見単純に見えて奥が深いものなのですね。」
「はい、私たちには思いつかないような奇抜な発想をして、議席を勝ち取ろうとする人たちが多くいます。」
馬車の中から遠くに見える立候補者の演説を聞きながらお母様が言った。
『リアドリア』に向かう途中であったが、お母様が選挙の様子を見てみたいと言っていたのでここに寄る事となった。
おそらく世界初となる選挙を目の当たりにして、お母様は大いに驚いていた。
「レオルド、ハーンブルク領の者はどのくらいの議席を確保できるでしょうか。」
「私の予想では、20議席中17席前後だと思われます。まともな教育を受けていない連邦市民は流されやすく、飴を与えればすぐに投票する傾向があります。」
「では、ハーンブルク家が持つ9席を合わせれば過半数である25席を超えるという事ですね・・・・・・」
「はい、ハーンブルク家の発言権は維持できたと思われます。このまま、連邦国の資源を安く買い、ハーンブルク領の商品を高く売る法律を作るように誘導します。」
俺は、表情を変えずに現状を伝えた。
自分で言うのもなんだが、やっている事は結構非道だ。だが、このような選択をするほど、俺は既にこの世界に染まっていたのかもしれない。
「相変わらずやる事がえげつないわね、レオルドは。これじゃあほぼ属国扱いじゃない。」
「いえ、一定の自由と安全が保証されているので属国よりもだいぶマシだと思いますよ。」
「でもその事に市民が気づかないというのは恐ろしいですね。私たちが支援をしている10個の民主主義の州はともかく、貴族が統治する州は大変な事になっているのではないでしょうか。」
「その辺もしっかりと考えてあります、お母様。まず、州間の人や物の移動を自由にした上で、民主主義の州に人口を集中させ、貴族の緩やかな弱体化を目指します。」
「やっている事がハーンブルク領と同じじゃないのっ!」
「まぁそれが1番簡単かつ確実だからね。結局は人口なんだよ。人が多ければその分生産力は上がる、単純な話でしょ?だからハーンブルク領では人口増加と維持の為に領内予算の内の3割ほどを使っているでしょ?」
「そういう事だったのね。」
現在、ジア連邦共和国では大改造を行なっている。米国のニューディール政策を参考に、10個の民主主義の州を整備された道で繋ぎ、さらにハーンブルク領のテラトスタとシュヴェリーンにも繋げた。
最近では人通りも増えて来た。
「お母様、そろそろ『リアドリア』に向かいましょう。陽が落ちるまでには着きたいので・・・・・・」
「わかりました。では、そろそろ馬車を出して下さい。」
お母様の合図で、止まっていた馬車はジア連邦共和国首都『リアドリア』へと再び進み出した。
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どうでもいい話
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