第8話 前座

「さてと、仕事もいよいよ大詰めといった所か・・・・・・」


ハーンブルク軍の第二部隊3師団は、一直線にパラス王国の王都に向かって攻め込み、ほとんど無傷のまま王都の包囲に成功した。

その間、ハーンブルク軍の先遣隊1師団は見事に囮の役割を果たしてくれた。およそ7万弱の敵兵士からの攻撃に遭うも、艦砲射撃やLシリーズ(榴弾砲)、Mシリーズ(小銃)による必死の抵抗によって、何とか敵の注意を引きつける事に成功した。多数の負傷者を出したものの、死者数は2桁に留まり、王都の包囲が完了した直後に輸送艦に乗ってトモタカへと帰還した。パラス王国の兵士達は、陽動作戦に引っかかっている事にはもちろん気づかず、ハーンブルク軍が撤退した事を勝利と勘違いして喜んだ。

また、第三部隊1師団は、第二部隊が上陸した地点の防衛を努めたが、特に戦闘は無く終わった。

正直言って、ここまでは完璧と言ってもいいような内容であった。

さて、最後の仕事に取り掛かるか。


「敵の残存兵力は?」


「SHSの報告によると、およそ5000と思われます。その他にも、およそ40万の住民がそこに暮らしております。」


「40万か・・・・・・」


パラス王国は、典型的な中央集権国家だ。国家元首である大王が国を治めており、中央集権国家であるため、自然と王都と王都周辺の人口が多い国だ。

以前は80万近い人口を誇る大都市であった王都だが、度重なる戦争によってかなり人口を減らしており、今ではその半分ほどの人口しか暮らしていなかった。

王都守備隊に関しても、ハーンブルク軍の先遣隊によってその多くが釣り出されたため既にまともな軍隊は残ってるおらず、もはやハーンブルク軍の勝利は確実であった。


だが、ただ勝利をすれば良いというわけではない。王都陥落のために切るカードを、しっかりと考える必要があった。


「一番面倒なのは、トリアス教国戦の時のように民兵が誕生して、撤退抗戦される事だ。その展開は百害あって一理なしだ、だから何としても避けなければならない。」


「それは分かったけど、どうするのよ。亜人同士の団結力の強さはあなたも知っているでしょ?」


「もちろん知っている。だから今回は、大王が王都内にいない事を利用した作戦を立てようと思う。」


「大王が居ない事を利用した作戦?」


現状の最優先事項は、ファルティオン王国軍が来る前にパラス王国を陥落させる事、目的のためならば、俺は手段を選ばない。


「手っ取り早く陥落させたいなら、これを利用しない手はない。さっさと片付けて、次に行こうか。」


【了解です、マスター】





それから1週間、俺はほとんど最高司令本部から出ずに過ごした。

作戦は、物凄く単純なものだった。

それは、パラス王国王都に暮らす亜人達の心をへし折るというもの、圧倒的な戦力の差を見せつけて不安を煽るというものだった。


Lシリーズによる正確な射撃によって、王城と貴族街を焼け野原にする勢いで攻撃を続けた。

それと同時に、ゼオン獣王国の獣人を通して王都に住むもの達に対して降伏勧告を叩きつけた。もちろん、ゼオン獣王国軍の兵士はここには誰にもいない。だが、王都周辺はSHSによる徹底的な情報封鎖が行われており、パラス王国王都にいた者たちは孤立していた。

そのためパラス王国は、ハーンブルク軍とゼオン獣王国軍の連合軍に攻撃されたと勘違いしていた。

ちなみに、ゼオン獣王国軍には現在、獣王国の東側に軍を移動させるように言ってある。僅かな可能性ではあるが、パラス王国陥落の知らせを受けたファルティオン王国が、報復措置としてゼオン獣王国を攻撃する可能性があったからだ。おそらくそんな事は起こらないが、念のためである。


それはともかく、情報を断たれ孤立した王都はこれによって完全に追い詰められる事になった。不安を抱いたのは国民だけでなく、その輪は貴族や王国上層部にも広がっていた。

文字通り、あと一押しという状況、最後のピースは、『恐怖』だった。


「1週間後、ハーンブルク軍が総攻撃を行うという情報を王都中に広めてくれ。それと、降伏しなければ酷い目に遭うかもしれないという情報もだ。」


「了解しましたっ!」


「これで、決まったな・・・・・・」


俺は、SHSに対して命令を出した。これによって、勝敗は決しただろう。俺が信用するSHSならば、求められている事を正確に実行してくれるはずだ。


【十中八九、これでパラス王国は陥落したでしょう。ですがこれは、始まりでしかありません。本当に大変なのは、ここからですよ、マスター。】


あぁ・・・・・・


大王不在のパラス王国上層部が、ハーンブルク軍の出した降伏勧告を受け入れた事を聞いた俺は、その日の最終列車に乗ってシュヴェリーンを出発した。


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どうでもいい話


ワンサイドゲームをツラツラと書いても良かったのですが、これは前座って事でバッサリカットしました。

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