第9話 sideフィーナ3

「報告します。パラス王国の王都が陥落、パラス王国はハーンブルク軍に対して降伏しました。」


「え?」


パラス王国の国境まであと2週間に迫ったある日、ファルティオン王国軍の総大将である私の下に、最悪と言ってもいいレベルの情報が舞い込んで来た。

これから援軍として向かうはずであったパラス王国は、私たちが到着する前に降伏を決意してしまった。


「パラス王国には百数十万人の兵士がいたはずです。その全てがハーンブルク軍に討ち取られたのですか?」


「いえ、フィーナ様がおっしゃっるパラス王国軍本隊は、ガラシオル帝国軍と拮抗状態になっておりました。しかし、ハーンブルク軍は同じ西方統一同盟の加盟国であるゼオン獣王国を経由して最短ルートで強襲を仕掛けたのだと思います。」


「そんな事が・・・・・・」


「パラス王国はおそらく、王都が襲撃されている事に気付けなかったのでしょう。」


私は報告を聞きながら、少し申し訳ない気持ちになった。私が率いる12万の援軍が間に合えば、防げたかもしれない出来事だ。

だけど、今更後悔しても仕方がない。大事なのは、この経験をどう活かすのかだ。


「将校を集めて下さい、軍議を行います。」


「はっ!」


まずは、情報の共有と現状の把握からだ。できる事を一つずつ、着実に処理していこう。

私は部下にそう告げると、次に何をすべきか考え始めた。





数時間後、私の下に十数人の将校が集まった。それぞれが、ファルティオン王国内では名の通った名将であり、お姉様が直々に選んだ優秀な人たちだ。

私は中央に地図を広げて、全員の注目を集めた。


「ハーンブルク軍はパラス王国に対して次の3つの要求を行い、パラス王国はそれに合意しました。」


私は、今さっき入って来た情報も合わせてここに集まったメンバー全員に現状を伝えた。


「1つ、パラス王国軍とハーンブルク軍の両軍は、一切の戦闘行為を停止すること。1つ、王都に残っているパラス王国軍及び貴族は王都を放棄し、パラス王国軍本隊と合流すること。1つ、ハーンブルク軍はパラス王国の民間人に危害を加えないこと。」


内容は、その3つのみであった。少なくとも私の耳には、その3つの条件を下にパラス王国は降伏したと入って来た。多少の誤差はあっても、この条約が大きく違う事は無いはずだ。

そしてこの条約は、私たちを驚かせた。


「本当にそんな緩い要求だったのですか?」


「はい、少なくとも私は、そのように報告を受けました。私たちの諜報部隊が間違った情報を掴まされた可能性はもちろんありますが、私はかなり信憑性が高いと考えております。」


「そんな事が・・・・・・」

「降伏の条件としては甘すぎる、一体どうなっているんだ・・・・・・

「レオルド・フォン・ハーンブルク、一体何を考えているのか・・・・・・」


私を含め、その場にいた全員がハーンブルク軍の行動に疑問を持った。王都襲撃、確かに有効的で、ある程度のダメージをパラス王国に与える事ができる。だが王都襲撃は、国家元首である国王が王都にいる状態になる事で最大の効果を発揮する。

ハーンブルク軍ほどの強さがあれば、戦線をこじ開けてガラシオル帝国を勝利に導く事ができたはずだ。そうじゃなくても、王都を占領して、パラス王国に滅亡に近いダメージを与える事ができたはずだ。

だけど彼らは、そうしなかった。

何故?どうして?

いや違う、彼らは選べなかったんだ。

私たちが、私たちファルティオン王国軍が、パラス王国に向けて進軍中だったから。

このまま私たちが戦場に到着すれば、どのような未来が起こりうるだろうか。待っているのは、私とお姉様が危惧した最悪の戦争。

そして、その最悪を想像したのは、私とお姉様ともう1人・・・・・・


「そうか、そういう事だったんだ・・・・・・」


「フィーナ様?」


「進路を変更します。私たちはこれから、急いで神聖チータ帝国の帝都へと向かいます。全員、準備して下さい。」


「「「了解っ!」」」


レオルド・フォン・ハーンブルク、彼も西方統一同盟と東方亜人協商の対立を防ごうと考えたんだ。

その答えが王都襲撃、全ては私を交渉のテーブルに引っ張り出すための布石。


何という人だ・・・・・・

彼は和平の道を残しつつ、戦争を止めた。さらに、西方統一同盟が勝利する道も残したのだ。

ハーンブルク領には、遠くにいる人と会話する事ができる装置があると聞いた事がある。

私たち亜人には無いその装置があれば、本土から自由に援軍を呼ぶ事が可能だ。船を使えば、海岸沿いなら何処からでも攻撃ができる。彼の指示一つで、それこそパラス王国を全方向から攻撃する事だって可能だ。


なら、私がやるべき事は一つだけ、レオルド・フォン・ハーンブルクとの交渉を上手くまとめ、一時的でもいいから平和を掴み取る事だ。


「紙を3枚用意して下さい、手紙を書こうと思います。」


「了解しました。ところで宛名はいかがいたしますか?」


「お姉様と神聖チータ帝国の皇帝とレオルド・フォン・ハーンブルクでお願いします。」

______________________________

どうでもいい話


ダメだ、やっぱりフリック入力の方が速い

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