第5話 代理


「了解致しました、我々としても異論はございません。」


「そうか・・・・・・」


久しぶりのヘレナとのデートからちょうど1週間、ハーンブルク家が所有する貿易港の一つ、『サックナ』にてハーンブルク領とヴァステリア共和国とで正式な話し合いが行われた。

ハーンブルク領側の代表はもちろん俺で、ヴァステリア共和国側の代表は以前行われたヴァステリア共和国との話し合いの時と同じ女性が来た。

種族は吸血鬼族で、名前はサーシャというらしい。彼女はヴァステリア共和国における軍のトップ、共和国軍の総大将という役職についており、前線に出て戦うというよりは後方から指示を出すのが得意なブレイン的な存在らしい。

頭の回転が早く、俺との交渉はかなりスムーズに進んだ。


「では、ファルティオン王国に関しては干渉しないという事でよろしいですね。」


「その方針しか無いはずだ。俺の予想では、ハーンブルク軍とファルティオン王国軍の戦力はほぼ同等だ。向こうがちょっかいをかけてこない限り、こちらからは手出しをしない方向でいきたいと思う。」


「こちらとしても助かります。ファルティオン王国の強さは、我が国もよく分かっておりますので・・・・・・」


ハーンブルク軍は強力だが、ファルティオン王国軍も同じぐらい強力だ。兵器の質と兵站の質、参謀の質などはこちらの方が上だが、数や練度は向こうのほうが上だ。なんせ向こうには、こちらには無い長い歴史がある。

強力な騎士団や諜報機関もあるらしく、無闇に戦争をふっかけられる相手じゃない。


「ただ、直接は殴り合わないが、代理戦争という形で戦争をふっかけられる可能性は大いにあり得ると思う。」


「代理戦争、ですか?」


「例えるなら、ガラシオル帝国とパラス王国の戦争だな。近い将来、俺たち西方統一同盟は同盟国であるガラシオル帝国に多大な軍事支援をする事になる。それと同時に、東方亜人協商の国々も同じ陣営であるパラス王国に対して莫大な支援を行うだろう。そうすると、ガラシオル帝国とパラス王国の戦争ではあるが、実質的には西方統一同盟と東方亜人協商の戦争になるという事だ。そして、これと同じような代理戦争が、世界各地で発生してしまう事になるだろう。」


代理戦争、仁義無き戦いと呼ばれるそれは、元の世界でも存在した。

まぁまさか、自分が代理戦争をする側になるとは思っていなかったが、そのような未来が訪れる事は容易に予想する事ができた。

この世界にも、世界各地に火種は存在しており、それらが戦争に発展する可能性は大いにあった。


「つまりレオルド様は、西方統一同盟と東方亜人協商の関係の溝は深まるとお考えなのですか?」


「あぁ、東方亜人協商がパラス王国を陣営に加えた時点で、2つの陣営が争うのは確定事項だな。向こうもらそれがわかった上で陣営に加えたはずだ。」


「・・・・・・否定する材料が見つかりませんね。パラス王国に対する支援が、既に行われているという噂もあります。今のところは、前回の敗戦によって弱体化しているため王都に引っ込んでいるようですが、近いうちに戦闘が再開されるでしょうし。」


彼女は少し考えてから、そう言った。


「そういう事だ。いい感じに落とし所が見つかればいいが、このままいけばまた泥沼の戦争となるだろう。どのように未来が進むか、見極める事が大切だ。」


「そうですね・・・・・・」


結局は、そこにいきたく。相手が何を望み、それに対してどのような事ができるか、常に考えなければならない。

俺の選択一つで、天国にも地獄にもなるのだから・・・・・・


「よし、それじゃあ今日はこれぐらいにしてお堅い話はやめにして、もっと平和的な会話をするかっ!」


「と、いいますと?」


「夕食をご馳走するよ。」


気持ちを切り替えた俺は立ち上がると、俺の後ろに控えさせていたクレアに、夕食をとって来させる事にした。

ジア連邦共和国産の高級牛肉を、ヴァステリア共和国代表の使節団全員に振る舞った。やっぱり、高級牛肉は正義なのだ。


「な、何ですかこの美味しさっ!」

「何だこれは・・・・・・」

「う、上手い・・・・・・」


先程まで黙ったままであった彼らは、大声をあげながら、その美味しさを讃えた。美味しいお肉を食べるという幸せは、世界共通だ。


わかるぞ〜わかるぞ〜その気持ち。

苦節10年、研究に研究を重ねて頑張ったかいがあった。このお肉は、俺の努力の結晶と言っても過言じゃ無い。


【マスターが頑張ったわけじゃ無いですけどね・・・・・・】


その辺は美味しければ何でもいいんだよ。


【まぁ、美味しい事は否定しませんが・・・・・・】


ちなみに、厳密には牛ではなく、牛もどきの肉だ。前世とこの世界では生態系が違うので性格には牛肉ではないが、前世と同じぐらい美味しい。


「美味しいですね〜このお肉〜。吸血鬼は、あまり食事をしない種族ですが、これなら無限に食べれそうです〜」


吸血鬼って、血しか食べないと思っていたが、普通に食べられるらしい。

って、今さらか。

さっき普通にお菓子も食べていたし、何なら全部食べちゃったし・・・・・・


「レオルド様っ!こちらのお肉、貿易とかはしていただなるのでしょうか・・・・・・」


「あ、あぁ考えておくよ。」


「是非お願いしますっ!」


ヴァステリア共和国とは、仲良くしておいた方がいい。単純に、東方亜人協商側に寝返られた困るし、亜人の情報を得る上で、多種族国家である彼らの情報は大いに役に立つ。


「まだたくさんありますから、どんどん食べて下さいね。」


「は、はいっ!ありがとうございますっ!」


俺は先ほど、戦争をしないように行動すると言ったが、アレは嘘だ。

俺は、何が何でも大陸におけるハーンブルク領の覇権を確定させなければならない。

未来の俺の子孫達が、平和に暮らせるように・・・・・・

最近は、その気持ちが強くなって来ている気がした。

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