第6話 side フィーナ
「おはようございます、お姉様」
「おはようございます、フィーナ」
ファルティオン王国の中心、王都ファルティのシンボルでもある王城の一室に、2人の姉妹が優雅な朝のひと時を過ごしていた。
初雪のような白い肌に、赤のメッシュが入った思わず見惚れてしまうような美しい銀髪、そして吸血鬼族である事を象徴する鋭い牙を持つ彼女達は、目下に広がる美しい街並みを眺めながら朝食を楽しんでいた。
「ところでお姉様、例の東方亜人協商の件、本当によろしかったのですか?」
「ふふふ、痛い所を突くわね、フィーナ」
「も、申し訳ございません、お姉様」
フィーナと呼ばれた少女、すぐに頭を下げた。例え仲の良い姉妹でも、親しき仲にも礼儀あり、相手を不快にさせたなら謝る。
「そうですね・・・・・・今日一日、私の事をお姉ちゃんと呼んでくれるなら、許してあげます。」
「わ、わかりました。お、お姉ちゃん・・・・・・」
「ふふふ、全然怒っていないわよ、私の可愛いフィーナ」
「も、もぅ、お姉ちゃん、本当にわかっているの?」
フィーナは唯一の肉親である姉を誰よりも大切にしていた。常に彼女を、そして彼女が愛するこの国を愛していた。だからこそ、姉の選択を心配に思ったのだ。
彼女が盟主となって発足した東方亜人協商、亜人同士で仲良くし共に発展していこう、という表向きの謳い文句に関してはフィーナも賛成していた。しかし、目下最大の脅威となっている西方統一同盟に戦争を仕掛けたと思われるパラス王国の加入を認めた事に関しては反対であった。
「はい、わかっておりますよ。貴女が指摘するパラス王国の件も、メリットとデメリットのバランスを考えた時に、メリットの方が大きいと思い、加入を認めました。」
パラス王国の加入を認めるという事は、西方統一同盟に対して明確に敵対すると表明しているような物だ。確かに、自国の軍隊は優秀だが、それよりも戦争をしたくないという気持ちが強かった。もし戦争になれば、きっと目を疑うような被害が両陣営に出てしまう。それこそ、大陸中を巻き込んだ世界大戦に発展する恐れもある。
女王の妹として、最悪の事態だけは何としても避けなければならなかった。
「私の方でも何回か調べて見たけど、ガラシオル帝国とハーンブルク領の怒りの度合いはかなりのものよ。本当に戦争になったらどうするの?」
「ふふふ、安心したら下さい。ハーンブルク領との戦争を避けるためのプランはいくつもあります。それに、私にはパラス王国の国民を見捨てるという判断をする事ができませんでした。」
「お姉ちゃん、やっぱり・・・・・・」
何となく、そんな気がした。今回の件、例えパラス王国側が完全に悪かったとして、彼らを見捨てる事はできなかったようだ。
戦争を主導とした大王やその家臣が罰を受けるのならば、まだ納得はできる。戦争を引き起こしたという者は、その責任を取らなければならないからだ。
だけど、そこに住んでいる人々はどうなるだろうか。敗戦国の国民のその先に、良い未来は待っていない。例えハーンブルク家の当主が、聖人君子のような人だとしても、お咎めなしとはならないだろう。最悪、亜人であるという理由で、皆殺しもあり得る。
「この選択が、西方統一同盟やその加盟国に対して、悪い印象を与える事は分かっております。ですがそれ以上に、私は仲間達が安心できる組織が必要だと思ったのです。」
「お、お姉ちゃん・・・・・・」
両親の他界によって、12歳という若さで王位を継ぐ事となった姉を、私は誰よりも尊敬していた。ファルティオン王国という世界最大の国家を1人で支え、国民を笑顔にする事なんて普通の人にはできない。
同時に、自分はこの姉を支えてあげなきゃだなとも思った。
だからこそ、最悪を想定せずにはいられなかった。
「でももし、戦争になったら・・・・・・」
「最悪、この身を差し出せばあるいは・・・・・・」
「も、もうっ!お姉ちゃんっ!」
「ふふふ、もちろん冗談ですよ、フィーナ。ですが、ご安心下さい。どの道を進んだとしても、我が国の安全は保証できるます。だって私は、この国の女王ですから。」
レオルド・フォン・ハーンブルク、一体どのような人なのだろうか。
対立か、共存か、噂の英雄とどう渡り合っていくか、選択をしなければならない時が、すぐそこまで来ていた。
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どうでもいい話
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