おまけ3 平和ゆえの開発

「恐れながらレオルド様、平和になった今、本当にこちらを実用化する必要はあるのでしょうか。」


「あるに決まっているだろ、じゃなきゃ作らないよ。」


「は、はぁ・・・・・・」


久しぶりにハーンブルク研究所に訪れた俺は、昨日の夜に3時間ほどかけて作った新兵器の設計図を研究開発部門に手渡した。

すると、いつものように多くの研究員達が俺の周りに集まって来た。彼らはそれぞれ設計図を覗き込みながら、周りの仲間と話し合いをしていた。少しマイナスの意見が多い気がしたが、俺はそれを無かった事にしてこれを作る必要性と今後の展望について話した。


「俺は何としても、これを実用化させてみせるっ!」


【・・・・・・そのやる気をもっと別のところで活かして欲しいところですけど、レオルド様】


いいんだろ、別に?俺の人生だし。


【はぁ・・・・・・】





その計画は、いつもの突然の思いつきから始まった。


「移動、だる過ぎ。」


「いきなりどうしたんですか?レオルド様」


「俺さ、この前ハーンブルク家当主の座をレンに譲ったはずだよな?」


「はい、確かにレオルド様はレン様に家督をお譲りになりました。」


「だよな。だというのに、まったくと言っていいほど休めていないんだが。というか、国王辞めてからの方が忙しい気がする。」


俺の長男であるレンに家督を譲ってから約1年が経過したというのに、俺の生活は何も変わっていなかった。というか、国内での仕事が減って国外での仕事が増えた結果、移動距離が長くなった分以前よりも忙しくなった気がする。

どうしてこんな事になってしまったのか、実を言うと俺にも心当たりはあった。


「それはきっと、あなたがお人好し過ぎるのがダメなんだと思うわ。」


「いや、別に俺はお人好しじゃないが?」


「だってあなた、また民族問題に顔を突っ込んだんでしょ?」


「どうしてそれを・・・・・・!」


「はぁ、やっぱり。」


ソファに寝っ転がりながら、今月のサッカー雑誌を読んでいたイレーナは、そう言いながら呆れた。どうやら俺は、カマをかけられたようだ。

最近の俺の目は、国内のことをレンに任せる事ができた分、国外に向いていた。ポケットマネーで他国を手厚く支援するような事は、アイやレンから禁止されているが、世界各地に存在する民族問題や宗教問題を解決するために力を貸す事は許可されている。まぁ、依然としてハーンブルク第一主義を捻じ曲げるつもりはないが、それでも紛争が起きないための手助けぐらいはして来た。


「って、その話は別に良いんだよ。今議論すべきは移動の話だ。」


「そんなの高速鉄道網を整備するか、空港を置くか、もしくはその両方を採用するしかないんじゃないの?そんなに悩むことかしら。」


「悩むことだよ。公共交通機関の有無は、そのままその都市の経済に直結する。だから、俺が当主だった頃ならともかく、今の俺が勝手な判断で空港や鉄道を増やすわけにはいかないんだよ。」


「なるほど、確かにそうね。」


「だろ?だから迷っているんだよ。」


それに、作るだけなら何とかなるかもしれないが、それを管理、維持するのは流石に骨が折れる。だから、鉄道はともかく空港はこれ以上建設する予定はない。

ではどうすればいいか、こーなったらアレを開発するしかない。


「とかいいつつ、実はもう計画は出来上がっているんじゃないの?」


「あ、バレた?実はとっておきの奴があるんだよ。」


「・・・・・・相変わらずね、レオルド。」


再び呆れるイレーナを無視しつつ、俺は今回作ろうとしているモノの説明をヘレナとイレーナに行った。今すぐハーンブルク研究所に直行して製作に取り掛かりたいところだが、最近の俺は2人の許可が無いとやってはいけない事になっている。というわけで、俺は早速2人に許可を求めた。


「というわけで2人とも、研究所に行ってきていい?」


「私はこれがハーンブルクのためになるのなら反対しませんよ、レオルド様。」

「私も、ヘレナが良いって言うなら構わないわ。でも、一応レンには伝えておきなさい。何も言わずに始めたら、この前みたいに怒られるわよ。」


「その節は反省しております・・・・・・」


「それともう一つ、完成したら真っ先に乗せてくれること、それも条件に組み込んでおくわ。」


「あ、はい。」





その日からしばらく、俺は研究所と新居を行き来する日々が続いた。ちなみに、引き受けた民族問題の件はというと、イレーナが引き継いでくれる事になった。色々と文句は言われたが、美味しいケーキを手作りしてあげたら大人しくなった。おそらく今も、新居から派遣した視察団に対して指示を送っているところだろう。

約半年が経過し、民族問題の終着点が見え始めた頃、俺はついに実用可能段階の試作機を完成させた。そして今日、俺はさっそくシュヴェリーンの郊外スイセン地区にあるシュヴェリーン空軍基地で実験を行う事になった。昔は、バビロン宮殿の近くに空軍基地があってそこを活用していたが、地価の高騰による建物の高層化や騒音問題に悩まされた結果、移転することとなった。旧空軍基地は現在、陸海空軍の施設や各省庁のビルが立ち並んでいる。


「本当に、レオルド様自らが操縦なさるのですか?」


「当たり前だろ、大切な部下を死なせるわけにはいかないからな。」


心配そうに聞いてくる部下の一人に対して、俺は堂々と宣言した。


【とか言って、実は自分が最初に乗りたいだけですよね。】


ばれた?


【おそらく、ここにいる全員にバレていますよ。】


嘘ん。

後ろを振り返りヘレナと目を合わせると、彼女はにこりと笑った。どうやら、アイの言葉は本当のようだ。

気を取り直して、俺は目の前にある機体に目を向けた。耐Gスーツを着用した俺とヘレナは、それぞれ機体の前と後ろの席に座った。機材を一つずつチェックして、エラーが出ていない事を確認する。


「ヘレナ、準備はいいか?」


「はい、準備okです!いつでも行けますよレオルド様」


「オーケー、じゃあ行くか。」


システムに異常は無し、エンジン音も問題なし、視界は良好、管制室とのコンタクトも取れた。あとはこいつを、空に飛ばすだけだ。

ジェットエンジンによって加速した機体は、どんどん速度を増していく。

そして・・・・・・


「「take off」」


俺とヘレナの声が合わさった直後、機体は地面から離れた。プロペラ機とは比べ物にならない爆発的な加速力と推進力、機体はどんどんと速度を増していく。


「アイ、今の高度と速度は?」


【現在の高度7000、速度は900km/hでございます。】


「加速は可能か?」


【はい、いっさい問題ありません。どうせなら、フルスロットルで行きましょう。】


一応、高度と速度を測定する機械を搭載しているが、より正確な高度と速度を測るならアイに任せた方がずっと楽で正確だ。そしてその値を元に、機体に搭載された測定器の正確性を調べる。


「ヘレナ、測定器の方はどうなっている?」


「アイさんの測定との誤差は軽微、どうやら測定器は全て正常のようです。」


「今から加速フェイズに入るが、身体の方は大丈夫そうか?」


「はい、何ら問題ありません。行けるところまで行きましょう。」


「わかった、行くぞっ!」


ヘレナからのゴーサインを受けて、俺は一気に機体を加速させた。世界初のジェット戦闘機はX1-01は、自由な空を一直線に切り裂いた。


【高度9000、速度1100km/h、目標まであと少しです。】


航空機の技術はほぼ全てハーンブルク連邦が独占しており、この世界の国々に領空侵犯なんて概念はおそらく無い。そのため俺たちは、柵を感じる事なく自由に空を飛ぶ事ができた。

改めてわかった。俺は時代の先駆者として、この世界をより良い方向に導かなければならない。前世では、戦争によって魔力融合炉が爆発してしまい、人類はおそらく滅んだ。今世では、同じようなことを繰り返さないように人類を導いてみせる。


【レオルド様、高度10000、速度1225km/hに到達しました!】


「良しっ!」


「おめでとうございます、レオルド様」


俺たちを乗せた機体は、速度1225km/h、つまり音速に到達した。これがあればシュヴェリーンからフォルテまで、数時間で向かう事ができるようになる。まぁ、燃料がもてばの話ではあるが・・・・・・


「せっかくだし、コイツで国をぐるりと回ってから帰るか。」


「はい、そうしましょう、レオルド様」


その後俺たちは、人類史上最速の空の旅を楽しんだ。この日人類は、新たなステージへと進んだ。


____________________________

どうでもいい話

また書いてしまった。

こんな感じに、おまけエピソードをこれからもちょくちょく更新する予定です。

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