おまけ2 突然の報告

「さて、家族会議を始めようか。」


 レンに家督を譲った翌々日、家族全員をシュヴェリーンの中心、バビロン宮殿に集めた俺は今後の発表を行うことにした。


「突然だが、引っ越しをしようと思う。」


「「は?」」

「「え?」」

「「っ?!」」


 俺の突然の発表に、家族達はほぼ全員が驚いた表情をした。驚かなかったのは、事前に相談をしていたアイと、レン、リーシャの頭良い組の3人だけであった。


「ちなみに、引っ越しをするのは全員じゃない。俺は新居に移る予定だが、他のみんなは各々の判断でここに残るか、新居に移るか選んでくれ。」


「お父様、質問です。確かに家族は増えましたが、まだまだ空き部屋はあります。どうしていきなり、引っ越しすることを決断なさったのですか?」


「引っ越しの理由は部屋の数ではなくて、俺がレンに家督を譲ったことだ。これからはレンがこの国を率いるわけだから、政治の中心であるバビロン宮殿に俺が残るわけにはいかないんだ。」


「なるほど・・・・・・」


 俺はアオイの質問に対し、全体に向けて答える。レンに王位を押し付け、上皇となったがバビロン宮殿に残るのは色々と不味い。残ってもよからぬ事を考える輩を増やすだけだ。

 それにハーンブルク家には電話がある。何か困った事があれば、すぐに相談する事ができるのも、今回の引っ越しを決めた理由の一つだ。


「それで?いったい何処に引っ越すの?」


「どーせなら、田舎の真っ黒くろすけが出て来そうな古い民家にでも引っ越して自由気ままな隠居生活でもしようかなと思ったが・・・・・・」


「真っ黒くろすけが何かはわからないけど、今の貴方が田舎で隠居生活なんてできるわけないでしょ?最低でもテラトスタか、ジオルターンぐらいの大都市じゃないとダメね。」


 俺の希望に対して、イレーナは真っ向から否定した。わかってはいたが、どうやら俺に自由なんてものは無いらしく、俺の田舎で隠居生活の夢はほんの数秒で消えた。

 ここまでは想定内、俺はギリギリのラインを探る。


「だから、シュヴェリーン郊外で我慢しようと思ってな。もちろん、首都特別地域の内側のつもりだ。」


「それも却下よ。ハーンブルク高速鉄道の駅から徒歩15分以内圏内じゃないと困るわ。貴方だけじゃなくて、私やヘレナ達も住むのよ。」


 首都特別地域というのは、日本でいうところの東京23区のようなものだ。ニューヨークのように、シュヴェリーン市を作っても良かったのだが、元日本人ということもあり、前者を採用した。首都特別地域は花の名前を冠した14の地区から構成されており、例えばシュヴェリーン駅やサッカー場、バビロン宮殿などがあるスズラン区や、様々な政府機関が集まるアジサイ区などが存在する。


「わ、わかった。なら、ユキノシタ駅の周りはどうだ?」


「確かにユキノシタはハーンブルク高速鉄道の駅だけど、あそこはオフィス街よ。広い平屋を作るだけのスペースを見つけるのは大変だわ。」


 世界一のオフィス街は何処か聞かれれば、10人中8人か9人は全ての鉄道の終着駅であるシュヴェリーン駅周辺を挙げるが、残りはおそらくスズラン区にあるユキノシタ駅周辺を挙げるだろう。この世界で数少ないビルが立ち並ぶ場所であり、様々な企業や商会のオフィスが立地している。

 ちなみに、ユキノシタ区というのが別に存在するが、ユキノシタ駅があるのはユキノシタ区ではなくスズラン区だ。イレーナやお母様からは、どうせならユキノシタ区に作れば良かったじゃないと言われたが、これだけは外せなかった。


「大丈夫だ、安心しろ、対策は考えてある。」


「対策?」


「タワマンに住もう。」


「「「は?」」」



 *



 ちょうどいいところにあったハーンブルク家傘下のビルを一つ買収し、俺はそのビルを自分好みのビルへと改造した。たまたま完成した直後で、たまたま買い手が見つかっていないビルが転がっていたため、例の会議から1ヶ月で引っ越し完了となり、新居生活が始まった。

 屋上を含めた上から3フロアが俺たちの居住スペースで、その下の2フロアはバビロン宮殿に残る組が泊まりに来た時用の部屋。そのさらに下はこの倉庫や応接室、使用人や料理人の部屋なんかが置かれており、低層階は警察署になる事をなった。ちなみに屋上にはヘリポートやプールがあり、またしても無駄に広いかつ豪華な家となってしまった。


「素晴らしい眺めだな・・・・・・」


「そうですね〜これぞまさしく、100万ドルの夜景ですっ!」


 どうやらユリアは、高所恐怖症とまではいかないものの、高いところがあまり得意ではなかったようだが、見ての通りすっかり慣れていた。

 引っ越した直後は、全く新しい新居に慣れていないメンバーは、新居とバビロン宮殿を行ったり来たりするような生活をしていたが、最近はこちら側の生活にも慣れて来た。最近の困り事といえば、エレベーター問題ぐらいだろうか。

 これだけはどうにもならなかった・・・・・・

 まぁ、これも含めてタワマン暮らしに慣れたと言っても過言ではないだろう。


「住む前は新しい生活に少し不安がありましたが、ここはバビロン宮殿と同じぐらい良いところです。利便性だけを挙げるなら、こちらの方が上ですし。」


「確かに向こうは、気軽に外に出れるように作られていないからな・・・・・・」


 バビロン宮殿は、王家の住むところというだけでなく、政治の中心としての役割も持ち合わせている。現代風にいうならば、皇居と国会議事堂と首相官邸が一緒にあるような感じだ。

 敷地面積は、スズラン区の12%ほどを占めており、かなりの大きさと言えた。そのため、設計した人に文句が言いたいレベルで移動が大変で、とてもではないが真夏に外を歩くのは避けたいレベルだ。

 それに比べてここは、移動は全て室内であり、全てではないがほとんどの部屋でクーラーが効いている。それだけで、バビロン宮殿での生活に戻りたくないと思えるほどであった。現代人にとって、クーラーは必須アイテムと言えた。


「それにしても、こんな良いところが偶然、空いていたなんて、奇跡でしたね。」


「・・・・・・いや、実は奇跡じゃなくてだな。」


「え?奇跡じゃないんですか?!」


「俺の行動を読むのが得意な奴が、俺がレンに家督を譲る事からユキノシタ駅周辺でビルを探す事になる事まで全て予測していてな。」


「流石の一言ですね・・・・・・」


「あぁ・・・・・・」


 ビルを買う際、相手の会社名を見た俺は、自分が彼女のシナリオ通り動いている事に気が付いた。なんせその会社名が、『LOVE未来社』であったからだ。LOVEは日本語で愛、つまりは俺の相棒が俺の行動を見越して数年前から建てていたらしい。

 その事を俺が問いただすと、彼女は微笑みながらこう返した。


【予想通り、ですね。】


 と。


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 どうでもいい話

 タワマンか、ど田舎の古い屋敷だったら、タワマンを選びそう。

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