第9話 個人

「そろそろ前線だ、間違ってもフレンドリーファイヤー(味方の弾に当たる事)するなよ。」


「了解っ!」


「んじゃ、行くか・・・・・・」


途中何度か休憩を挟みつつ、俺と俺が率いる遊撃隊は荒野を走った。ここから先は、本当に危ないラインだ。

下手に前に出て、味方の銃弾に当たった何て話になったら、洒落にならない。また、戦闘中のパラス王国軍、もしくはゼオン獣王国軍と遭遇しても面倒だ。現在の俺たちの目標は、いち早く特異体の元へ駆けつける事であり、雑魚に構っている余裕はない。


【方角のズレはありません、そのまま真っ直ぐです、マスター】


了解した。ところで、居場所の特定はまだできないか?


【申し訳ありません、エネルギーのキャッチには成功しているのですが、標的の正確な距離はまだです。分かり次第お知らせいたします。】


頼んだぞ。


【yes,master】





「王よ、正面に見えるのが、ハーンブルク軍の中でも特別防御が硬い部分でございます。おそらく、指揮官がいると思われます。」


「うむ、ならばあそこを余が崩せば、形勢が変わるやも知れないという事だな。」


「はい、その通りでございます。」


亜人は、人間よりも魔力持ちが多い。どのような理由でなのかはわからないが、ハーンブルク領の研究機関が行った調査によると、人間に比べて魔力持ちと魔法使いの割合が極端に多い事がわかった。

とは言っても、魔力量に関してはあまり差は無かった。魔力持ちの中だけで平均値をとれば、むしろ人間の方が僅かに高い。


だが、調査の過程で、ハーンブルク領の研究員達は驚くべき事実が発見した。

それが、『特異体』という存在。

通常の魔力持ちの魔力量のおよそ200倍、ハーンブルク領で最も魔力を持つ俺の10倍の魔力を持った化け物が、ゼオン獣王国に存在するという情報が入った。


その人物こそが、現代のゼオン獣王、ハーンブルク領が名付けたコードネームを借りるなら『特異体』であった。


「では其方の言う通り、余自らが軍を率いて突撃しようと考えているが、誰か反対する者はいるか?」


ゼオン獣王は、ためを作りながら家臣達を見回した。すると、部下の1人が手を挙げた。

その場にいた全員の視線が、1人に集まる。


「なんだ?」


「恐れながら王よ、我々家臣一同、陛下の実力は誰よりも信じておりますが、ハーンブルク軍のライフル銃も強力です。お気をつけ下さいませ。」


「あいわかった。では、行くとしよう。全員、武器を待てっ!」


「「「おうっ!」」」


獣王はそれほど頭が良いというわけでは無い。むしろ、ハーンブルク領を引っ張る存在であるレオルドやエリナ、イレーナと比べれて、かなり劣っていた。何かを発明するだけの知恵は無いし、自国の経済を成長させるだけの頭脳も無かった。だが彼は、ゼオン獣王国の中で誰よりも強く、そして誰よりも仲間を信頼していた。

それ故に、国家は安定し、部下からの信頼も厚かった。


「魔道封鎖解除っ!」


掛け声と共に、獣王は周囲の目を偽装するために行っていた、魔道封鎖を解除した。

これにより、獣王の身体から魔力のオーラを溢れ出た。


「突撃っ!」


「「「おうっ!」」」


掛け声とともに、前へと出た獣王に続いて、ゼオン獣王国の戦士達が一斉に前へと出た。

数はそれほど多く無いが、獣王を中心に塊となって突撃を行った。





「ほ、報告しますっ!正面およそ2km地点に、『特異体』と思われる強力な魔力を感知しましたっ!」


「プラン通り行くわよっ!全火力を特異体へと集中、砲撃開始っ!」


「「「了解っ!」」」


悲鳴のような報告が、ついに私の元へと届いた。

特異体というハーンブルク軍を持ってしても特別視されているゼオン獣王の発見を最優先事項に設定していたが、2km地点まで近づかれても気が付かないというのは、はっきり言って恐怖であった。

レオルドから情報は得ていたが、改めて『魔道封鎖』の恐ろしさがわかった。


私は、プラン通りに迎撃を試みる。


「『L-2』発射っ!」


「発射っ!」


凄まじい爆音と共に、中長距離攻撃用軽榴弾砲『L-1』の後継『L-2』が火を吹いた。

これは本来は敵の要塞や防御陣地を破壊する事を目的として設計されたものだが、それをたった1人を葬るためだけに使った。

私は、間髪を入れずに砲撃を繰り返すよう命じた。

思わず耳を塞いでしまうような爆音が続く。

数発砲撃した後で、観測手の1人が大声を挙げた。


「命中を確認っ!ですが、敵は以前として存命ですっ!」


「この攻撃を正面から受けておいて生き残る何て、笑っちゃうわ・・・・・・」


攻撃は、確かに命中した。だが、獣王の後ろにくっついていた部下が数名吹き飛んだだけで、肝心の獣王本人は無傷に等しかった。

消耗はしているだろうが、獣王が力尽きるよりも先に、おそらく到達されてしまう。


それでも私たちは、打てる手を打ちまくった。


新型の軽榴弾砲はもちろんの事、狙撃銃や手榴弾、小銃などあらゆる火力を集中させた。それらの攻撃によって、獣王の後ろにくっついていた者たちはほぼ全壊した。

だが・・・・・・


「其方が、ハーンブルク軍の指揮官であっているか?」


止まらなかった。


「だったらどうする?」


私は、内心震えながら答えた。頭の中で、まだ何か打てるのではないか、と思考を巡らせる。

ここはハーンブルク軍の本陣である事もあり、数だけを見れば有利な状況だった。だが、圧倒的な個の前に、ハーンブルク軍は粉砕されようとしていた。


「敵ながらあっぱれであった。見たこともない武器の数々、我が力を持ってしても、多くの部下を失う結果となってしまった。」


「私だけの力ではないわ。」


獣王の後ろにいた戦士達は、最初の10分の1も残っていない。


「では、一騎打ちと行こうか。」


「お手柔らかにお願いするわ。」


私は合図を出し、周囲の兵士達に銃を下ろさせた。そして、レオルドに以前貰った細剣を構えた。

もちろん、決闘をして勝てる要素はどこにもない。

まさに絶体絶命、だけど土壇場になって自然と恐怖心は何処かに消えた。

いや、むしろ消されたと言っても良い。


誰にかって?


そんなの説明するまでもない。


私の一番大切な人に。


「待たせたな、イレーナ。」


声を聞いただけで、自然と力が抜けた。


「遅すぎよ、あなた。」


______________________________

どうでもいい話


間に合った〜

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