第10話 相棒

「ギリギリだったわ、レオルド」


「はぁはぁはぁ、待たせたな。」


俺は、息を整えつつ、今にも倒れそうな顔をしていた妻の頭を軽く撫でた。安心したのか、自然とイレーナの顔が綻んだ。


「れ、レオルド・・・・・・」


「もう大丈夫、安心しろ。」


「う、うん・・・・・・」


疲れが溜まっていたのか、俺の方へと倒れ掛かって来た。どうやら彼女は、もう限界のようだ。とは言え、俺もそろそろ限界だった。


俺の身体は、相棒であるアイがコントロールしてくれている。だから、普通の比べて体力があったり、体幹のバランスが良かったりする。

だが、100km超を不眠で走り続けた結果、俺の身体は限界にかなり近い所まで来ていた。魔力のアシストがあるとはいえ、消耗はかなり大きかった。


「その、珍しき藤紫色の髪、察するに其方が?」


「あぁ、俺がハーンブルク家当主、レオルド・フォン・ハーンブルクだ。そっちは、ゼオン獣王で合っているか?」


「いかにも、余はゼオン獣王だ。それで?余の相手は其方という事で合っているか?」


「あぁ、そのつもりだ。だがちょっと待ってくれ、準備する。」


「良いだろう。」


イレーナの身体を優しく持ち上げた俺は、近くの木の下に彼女を寝かした。


「剣借りるぞ?あとは任せろ。」


「うん、あなた・・・・・・」


イレーナからとっておきの武器を借りた俺は、立ち上がると獣王の方へと向いた。


「待たせたな。」


「では、勝負と行こうか。」


「あぁ。」


俺とゼオン獣王の一騎打ち、おそらくこれは戦争の勝敗を決定づける最も重要な対決だ。

亜人側には、ゼオン獣王本人を除いてハーンブルク軍のライフル銃を突破する方法は無く、人類側にもおそらく俺以外にゼオン獣王を葬る方法は無い。

つまり俺が負ければ、ハーンブルク軍は大陸南西側における影響力を完全に失う事となり、俺が勝てば、いくつかの亜人国家が崩壊するだろう。


ダメだ。負けた時の想像なんかするな、今は勝つ事だけを考えろ。


「行くぜっ!」


「来い。」


最後の力を振り絞って、一歩を踏み出した。手に持つのは、昨年のイレーナの誕生日に俺がプレゼントした剣、軟鋼をタングステンで加工した、おそらくこの世界で最強の剣。

イレーナ用に特別に作った剣なので、少し短めではあるが、不自由は無かった。


「はああぁぁぁっ!」


「ふむ、悪くない剣筋、だが甘いな。『硬質化』。」


「あぶねっ!」


俺の後ろには、まだ大量の仲間がいる。例えここで力尽きても、こいつさえ潰せば何とかなる。だから俺は、今残っている全体力を振り絞って斬り込んだ。


対する獣王は、自身の魔法である肉体の硬質化を駆使して、俺の攻撃を防いだ。

同時に、利き手である右手で拳を振り翳した。何とか反応が間に合った俺は、紙一重の所で横へとかわす。


やっべーなまじで、久しぶりのチャンバラってのもあるけど、身体の負担が流石に大き過ぎる・・・・・・

それとゼオン獣王、この男、想像以上に強い・・・・・・


魔力で強化されているからか、純粋なパワーは桁違いだし、スピードもおそらく向こうの方が上だ。

唯一俺に利があるのは、武器の性能と頭脳ぐらいだろう。

俺は、何とか反応して、防御を続ける。


「ふむ、なかなかやるな。少なくとも、余の国のどの戦士よりも強い。」


「そっちは俺が戦った中で間違いなく一番強いよ。わりとまじで。」


「そうか・・・・・・だが、そろそろ終わりにしよう。」


軽口を叩いている間も、戦闘は続く。そしてだんだんと、俺が力尽きるのが先か、ゼオン獣王の硬質化が間に合わなくなるのが先かの勝負となった。

俺たちの決闘を、その場にいた兵士達全員が固唾を飲んで見守っていた。近くにいた者たちは武器を下ろし、いつの間にか戦意を失っていた。


「名残り惜しいが、そろそろ終わりにさせていただこう。お前の動きは全て見切った。」


獣王の言葉を聞いた俺は、思わず獣王から距離を取った。


「はっはっはっ・・・・・・」


「どうした、何がおかしい。」


「いや、すまない。まさか本当にこの台詞を聞くとは思っていなくてな・・・・・・」


「・・・・・・」


そして、俺は耐えられなくなって不覚にも笑ってしまった。まさか今この場所で、緊張感を吹き飛ばすようなお決まりの台詞を聞くとは思っていなかったからだ。

変に疲れが溜まっていたせいか、笑い過ぎて痛くなったお腹を抑えつつ、俺は呼吸を整えた。

俺の動きを見切ったというゼオン獣王の台詞は、おそらく本当の事なのだろう。つまり、ここから俺が逆転する手は、ほとんどないという事だ。

だが、まだ一つだけ勝機が残っている。


「これで、チェックメイトだ。」


俺は、自身の身体の主導権を彼女へと渡した。もうこうなれば、俺の敗北はあり得ない。


【最初からこうしておけばよかったんですよ、マスター】


いや〜ごめんね、本当に。

少しぐらいは、自分の力で戦ってみたかったんだ。


【まぁお陰様で、データは十分に揃いました。最短で叩き潰します。】


「【踊り狂え。】」


それは、あまりにも美しい連撃だった。まるで、人が変わったかのような・・・・・・

同じ速度、同じパワーなはずなのに、ゼオン獣王の対応が、極端に追いつかなくなった。

攻撃は全ていなされ、リーチの差はあっという間に無くなった。


そして俺の剣は、ゼオン獣王の身体に大きな傷を付けた。


「俺の、勝ちだ。」


致命傷では無いが、アイは確実にゼオン獣王を戦闘不能にした。

もはや、亜人側に勝ち目は無い。

_________________________________

どうでもいい話


第一章終了、かな・・・・・・

もう少しで

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