第8話 土塁

「我が軍とパラス王国軍が協力して戦線の突破を試みておりますが、突破できそうな兆しはありません。」


「ふむ、やはり厄介だな、ハーンブルクの銃とやらわ。」


やる気に満ち溢れていたゼオン獣王国軍であったが、思わぬ足止めを強いられていた。

いかにハーンブルク軍が強力であっても、自国の猛者たちの強さには自信を持っており、彼らならばハーンブルク軍も恐れるに足らないと考えていたが、初っ端からその自信を折られる展開となった。

亜人連合軍は人類連合軍の約2倍の兵士を投入していたが、戦況は拮抗していた。

正確には拮抗ではない、人類連合軍はほとんど死者がでていないのに対して、亜人連合軍側は今でも死体の山が積み上がっていた。


「はい、想像以上なようです。見知らぬ土地で、経験した事のない武器と四六時中戦うというのは、並外れた精神力が必要なようです。実際、少しずつ動きが鈍くなっているようですし・・・・・・」


「ふむ、これならばパラス王国軍が苦戦するのも納得だな。」


わざわざ遠くまで遠征に来たものの、ここまであまり良い結果を残せていないゼオン獣王国軍は何かしらの手を打つ必要があった。そこで、部下の1人が代表して王へと尋ねた。


「王よ、いかがいたしましょうか。」


「ふむ、私が出るとしよう。皆の衆、突撃の準備をせよ。」


「「「おうっ!」」」


誇り高き獣王であり、忠誠を誓った相手である獣王の決意に、その場にいた全員が賛同した。

彼らは皆、主君の強さを知っていたからだ。

その、圧倒的な強さを・・・・・・

そして、それはもちろん、情報収集能力の高いハーンブルク軍も・・・・・・





「情報によると、イレーナ様率いるハーンブルク軍は予定していた防衛ラインを放棄し、ガラシオル帝国側へと撤退したそうです。」


「そうか・・・・・・それで現状は?」


「はい、現在我が軍はガラシオル帝国と協力しつつ、徹底抗戦中のようです。最初の方は食料と弾薬不足に悩まされたようですが、エリナ様の働きで作られたシーレーンによって、解決したようです。」


「お母様が・・・・・・」


「はい、エリナ様によってかなり楽になったと、報告を受けております。ハーンブルク軍の兵士を代表して、エリナ様にお礼させて下さい。今回の遠征で補給船の大切さを改めて感じました。」


後から聞いた話によると、食料や弾薬以外にも、毛布などの防寒具や家族からの手紙なども送ったりしたそうだ。

これが、意外とためになっているようで、兵士達からはけっこう好評だった。


そして、俺が乗る『第一艦隊』はガラシオル帝国付近で待機する『第三艦隊』と合流した。


「全員、順序を考えつつ迅速に行動しろっ!斥候は先に行って付近の情報を集められるだけ集めて来いっ!」


「「「了解っ!」」」


「俺は先頭に立って『特異体』の対処をする、後方は任せたぞ。」


「はっ!第一艦隊は、命に換えても守り抜きます。レオルド様もご武運を!」


「あぁ・・・・・・」


すでに、電信を使ってある程度の情報は集めているが、やはり自分達で情報を集める事も大切だ。

俺の合図とともに、行動を始めた。


「目指すのは、『特異体』ただ1人、他は捨てて大丈夫だ!」


俺は、SHSの中でも飛び抜けて成績が良いエリート部隊を率いて、切り込んでいった。

弾薬をできるだけ節約しつつ、真っ直ぐガラシオル帝国軍の防衛ラインを目指す。


「な、何だこいつらっ!」

「一体何処から現れたんだっ!」

「がぁーーー!」


突然現れた俺たちに、亜人連合軍の兵士達は全く対応ができていなかった。まぁそれもそのはず、ここは最前線からは遠く離れた地点であり、敵の警戒心はかなり低かった。

それもあって、最初のうちはどんどん前へと進めた。

敵の対応が間に合う前に、前線の突破を狙う。まだ敵の防御が脆弱なうちに・・・・・・


「こちらを見て下さい、レオルド様。」


「これは・・・・・・土塁か?」


「はい、そのようです。しかもこれ、水を使って泥状にしてあった痕跡があります。もしこれが、全部隊に共有されればライフル銃の脅威は大きく低下します。」


「なるほど、これが早い段階から作られたとしたら、イレーナが押し切れなかったのも納得だな。」


俺は、足を止めずに走り続ける。時間をかけたくないので、戦闘はできるだけ避け、まるで風のように走り続ける。


「はい、それも一つではありません。私たちが確認しただけでも100はくだらないようです。」


「ならばなおさら、早く行った方がいいな。」


「えぇ。」


俺たちは再び、前へと進んだ。身体を動かしつつ、相棒と打ち合わせをする。

ここから先は、アイの力が必要不可欠だからだ。


【マスター、急いだ方がいいかもしれません。】


どうしてだ?


【想像以上にパラス王国軍の兵士が少ないです。この事から、パラス王国軍主力部隊及び『特異体』が攻撃を既に開始している可能性が高いです。】


まじかよ、それって結構不味いんじゃないのか?


【はい、急ぎましょう。イレーナ様であれば、万が一の事は無いと思いますが、ゆっくり行く理由はありません。】


あぁ、絶対に間に合わせてみせる。


________________________________

どうでもいい話


次話か、その次ぐらいにクライマックスかな〜

お楽しみにっ!

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