第22話 夜会

「夜分遅くにすみません、レオルド様」


「あ、うん。全然大丈夫だよ。」


「あの、私はどうすれば・・・・・・」


王城の一室を借りて、リトア王国の新たな法律について頭を悩ませていた頃、寝巻きに着替えたユリアが部屋にやって来た。

何処か恥ずかしそうな様子で、やって来た彼女は、部屋に入る所までは良かったものの、何をすれば良いか分からずあたふたしていた。


「とりあえずそこに座って。」


「わ、わかりました。失礼します。」


俺に言われて、ユリアさんはゆっくりと俺が座るベッドに座った。

お互いに恥ずかしくなり、前だけを見つめる。


「先程はどうもありがとうございました。それでその、結婚の事なのですが・・・・・・」


「あ、うん。」


「・・・・・・」


「・・・・・・」


何というか、気まずい。


【マスター、ここは男性としてリードしてあげて下さい。】


あ〜そういうのジェンダー差別って言うんだよ?いけないんだ〜


【この世界には、そのような考え方はありません。そもそも個人よりも全体が優先されるので、男尊女卑になるのは当然です。】


俺の周りだけ女尊男卑になってないか?


【気のせいです。】


そんなどうでもいい話をしていると、お互いに無言の状態が耐えられなくなったのか、ユリアさんが口を開いた。


「本当に私なんかがレオルド様の妻になってもいいのでしょうか。」


「え?そっち?」


「やはり、ハーンブルク家の次期当主様が、田舎の小国の王女なんかと結婚するのは迷惑なのかなと・・・・・・」


嘘だろ?気するとかそこか?


【これは予想外の反応ですね。】


「王太子殿やリトア王国の国王陛下は結婚について賛成なのか?」 


「は、はい。お父様もお母様もお爺様もお婆様も喜んでおられました。リトア国のような小国の王女が、大国のトップと結婚できるというのは喜ばしい事なのです。今日の夕食は、私の誕生日の時よりも豪華でしたし・・・・・・」


な、なるほど。国民全員の生活がかかっているわけだし、そういう考え方もあるのか。

でも・・・・・・


「じゃあ君は?」


「え?」


「君は幸せになれそう?」


「私は・・・・・・」


そう言って、ユリアは言葉を詰まらせた。反応から推測するに、自分の事を後回しにして動いて来たのだろう。


俺は、隣に座る金髪の少女をじっと見つめた。話では、俺よりも2歳年上と聞いている。

先程の彼女の提案、あれは長い年月をかけてハーンブルク家や世界情勢についてを研究したからこそできる提案だと考えている。

自分の国の状況をしっかりと理解した上で、どのようにすれば生き残れるかを考えていたのだろう。

少なくとも俺とアイはそう判断した。


それで本当にそれだけの才能があるならば、是非ともハーンブルク家に欲しい人材だと思った。彼女ならば、ハーンブルク領を大いに発展させてくれるだろうと判断した。

でもそこには、本人の気持ちは含まれていない。

さらに言えば俺もだ。ほぼ初対面の相手と結婚なんてどうかしている。と、日本人的思考の持ち主である俺は判断してしまう。

確かにお見合いや婚約から始まる恋愛もあるとは思うが、ハーンブルク領では一応恋愛結婚を推奨している。


俺もイレーナはともかく、ヘレナと初めて会ったのは婚約が成立した後だ。


だが、今の俺は2人とも愛していると断言できるし、ユリアも同じように、と考えている。


だから・・・・・・


「勝手に結婚する事しちゃった事は申し訳ないと思っている。でも、俺はユリアさんを幸せにしてみせるよ。」


「レオルド様・・・・・・」


俺が声をかけると、ユリアさんはこちらを振り向いた。


「俺と結婚して良かったって思わせる。絶対だ。」


「・・・・・・はい。私も、レオルド様が私と結婚して良かった、と思えるように頑張りますっ!」


そう言うと、俺たちは2人で微笑み合った。

まだ、お互いにぎこちなさが残る。まぁ当然だ、今日初めて会った同士だし、出会ってから1時間足らずで結婚だ。

だが、お互いがお互いを自分と似た存在だな、と心の何処かで思った。

本当に忙しくなるのはこれからだ。

彼女は、ボロボロに壊れてしまったこの国の、先頭に立って国民を引っ張り、復興させなければならない。

俺も、まだポラド王国とギャルドラン王国が残っている。


「じゃあ、今日はもう遅いし戻りな。」


「は、はい。今日は話せて良かったです。」


「うん、俺も話せて良かったよ。」


「では、おやすみなさい。」


「あぁ、おやすみ。」


俺がそう告げるとユリアさん、いやユリアは部屋を出て行った。

きっと彼女はこれからも成長するだろう。

俺は、そんな事を考えながらベッドに横たわった。

頭を使ったからか、少し眠い。

このまま、寝ちゃいそうだ。


すると突然、閉じたばかりの扉がノックされた。俺はどうぞ、と答える。


「失礼します。レオルド、お手紙が届いております。」


部屋の中に入って来たメイド服姿のクレアは、寝っ転がった俺の前に立つと、一通の手紙を差し出した。


「誰から?」


「ヘレナ様からです。」


「うぉっ!」


危ね、急に目が覚めたは。


手紙を受け取った俺は、恐る恐る手紙を開き、内容を頭に入れる。

そこには、シュヴェリーンの様子が描かれていた。研究班が新たに発明した商品の紹介や、料理班が新たに発表した新作レシピなどが並ぶ。

そして最後には、早く帰って来て欲しいという趣旨の文が書かれていた。



ふう、嫌な予感は当たらなかったみたいだな。



っとここまでは良かった。


「それとレオルド様、ヘレナ様より万が一の時のための手紙を預かっております。」


「はい?」


そう言うと、クレアはもう一通手紙を取り出した。いや、手紙というよりはメモに近い。


「では、失礼します。」


メモを渡し終えると、クレアはすっと部屋から去っていった。

俺がメモを広げて読んでみると・・・・・・



追伸


もし万が一、レオルド様がお嫁さんを増やすような事があったとしても、私はそれを認めます。

その代わり、夫婦間で隠し事は無しですよ。


貴方のヘレナより




・・・・・・


最後まで読んで、考える事を辞めた俺は、そのままベッドに倒れ込んだ。


少し、いやだいぶお怒りのご様子に違いない。


「はぁ〜ど〜すっかな〜」



俺は、リトア王国の法律を作る作業を忘れて、ヘレナがどうしたら機嫌を直してくれるかを考えるのだった。




______________________________


どうでもいい話


いかがだったでしょうか。


第5章はこれにて完結となります。

今章では、主人公レオルドの成長と、ハーンブルク領周辺の国の選択を描きました。


第6章は、『制覇編』の予定です。

引き続きよろしくお願いします。




追伸


私は基本的にコメントは全て返す派なのでどんどんコメントして下さいっ!

レビューも待ってますっ!

それと、ブックマーク6000突破しました。ありがとうございましす😊

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