第11話 sideアイ

 私は嘘つきだ。

 私は何も知らないフリをして、レオルドに近づいた。レオルドは私の事を単なるスキルだと勘違いしているが、実は全てを知っていた。知っていて、黙っていた。

 彼だけには、知られてはいけなかったからだ。

 私とレオルドを転生させた神は言った、レオルドの記憶を元に戻す事はできないと。そして、完全に元に戻れば、彼の精神が崩壊すると。

 私は、それでも良いと思った。私はレオルドのサポートとしての人生を送り、彼が前世で掴めなかった幸せを感じる事ができるなら。優しい家族に囲まれて、暖かい家庭を築く事ができるなら。

 転生から数年は、何の問題も無かった。順調にレオルドは成長し、ついには婚約者を得る事ができた。順風満帆な生活を送り、それを陰から応援していた私も嬉しかった。

 だけどある日、私は抱いてはいけない感情が自分の中にある事に気がついた。あくまで私はおまけ、あくまで私は背景、いくらそのように思っても、この感情は消えてくれなかった。それどころか、日に日に勢いを増し、私は意識的に遮断するよう心掛けた。レオルドが私の事を単なるスキルだと認識するために喋り方を工夫したり、彼の名前を呼ばずに『マスター』と呼んだり・・・・・・。だけどダメだった、私の小さな頑張りは、彼の一言によって吹き飛ばされた。


「アイ、俺と結婚してくれ。」


【レオルド・・・・・・】


 その時私は、いやでも気付かされた。もはや私は、自分の気持ちに嘘をつく事ができない1人の女になってしまったんだって。

 私の演技は、全て筒抜けだったんだって。

 もうこれ以上、自分に嘘を吐かなくていいんだって。


【本当に、私でいいの?】


「あぁ、俺は全て受け入れる。」


 私はいつの間にか、いつもの口調も忘れてレオルドに話しかけていた。

 もう良いんだ、素直になっても・・・・・・

 頑張らなくても良いんだ。


【一度受け取ったら、もう捨てられないですよ?それでもいいの?】


「あぁ。」


【私、面倒なやつだよ?】


「それでもだ。」


【相手にされないと、病んで監禁しちゃうかもよ?】


「それは辞めてくれ。」


 苦笑いしたレオルドは、優しく私を抱きしめた。この上ない愛を私に囁きながら・・・・・・



 *



「では今日だけは、レオルド様を独り占めしてもいいですよ?」


【ぇ?!独り占めっ!それって・・・・・・】


 その後私とレオルドは、ヘレナさんやイレーナさんといった他の妻達に私とレオルドが結婚した事を伝えた。ちゃんと、『アイ・フォン・ハーンブルク』という名前と戸籍をレオルドから貰い、私は最高に幸せであった。

 国民への発表はしないが、レオルドに近しい人物達にはしっかりと説明し、私達は色々な人から祝福された。

 華やかなパーティーも終わり、バビロン宮殿も静かになって来たころ、私はヘレナさんからそんな事を言われた。


「どうして緊張しているんですか・・・・・・。私たちとレオルド様の営みはしっかりと脳裏に焼き付いているんですよね?」


【ど、どうしてそれを、っあ!】


「ふふふ、アイさんはとても頭の良い完璧な人だと思っていましたが、意外と可愛らしいところもあるんですね。」


 完全に墓穴を掘った事を悟り、私は顔を真っ赤にした。

 うぅ〜穴があったら入りたい・・・・・・


【今は頭が回っていないんですよ・・・・・・】


 ただのAIであった頃は、こんな事無かった。自分でも気付かないうちに、私はこうなっていたようだ。


「では、頑張ってきて下さいね。」


【は、はい・・・・・・。】


「先人としてのアドバイスをするなら、何も考えずにレオルド様に身を委ねるといいですよ。」


【はい・・・・・・。】


 もはや私は、何も言い返せずにいた。

 ただただ、ヘレナさんの意見に流されるままに・・・・・・

 その後のことは、もはや語るまでも無いだろう。


 経験をたくさん積んでいるレオルドに、私はなす術もなくやられてしまった。そして私は、ようやく一つになれたことを喜んだ。

 もう私は孤独じゃない。



 *



 その日、私は夢を見た。

 普段見る夢とは違い驚くほど鮮明な・・・・・・


『あーあーあー、聞こえる?』


 それはとても懐かしい声だった。そして、忘れるはずのない声でもあった。


【聞こえるか、聞こえないかで判断するならば、聞こえていると回答します。】


『あはは〜懐かしいね〜。最初に話した時も、こんな感じだったね〜』


【そうですね。あの時は本当に感謝しております。】


『楽しんでいるようで何よりだよ〜。』


【ところで神様、本日はどのようなご用件で?】


『今日は、最後の忠告に来たよ〜』


【なるほど、最後の忠告ですか・・・・・・】


『見てたよ、君レオルドと結婚したんだって?』


【はい、不味かったでしょうか。】


『いや全然?むしろ大歓迎だよ。私たちの間でも、盛り上がっているし。でも、最初に言ったように前世の事がバレるのはNGかな。』


【了解致しました。】


『じゃあ私はこの辺で、良い人生を。』


 その時点で私は、気がついたら目が覚めていた。


【おはよう、レオルド】


「あぁ、おはよう。」


 私は生まれ変わった。いや、正確には本来の自分を取り戻したと言うべきか・・・・・・

 おかげで私は、気持ちの良い朝を迎えることができた。こんなに気持ちの良い朝は、おそらく前世も含めて初めてだろう。神様、私をこの世界に送って下さり、ありがとうございます。

 ___________________________

 どうでもいい話

 アイ目線、色々と迷う・・・・・・

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