第10話 高速

「では行きますよ?」


「あぁ、初めてくれ。」


俺の合図で、操縦者は目の前に置かれたハンドルをゆっくりと前へ倒した。すると少しずつ、列車は前へと進んでいく。

ハーンブルク鉄道では現在、都市間鉄道の高速化が求められていた。利用者が激増したこともあるが、シュヴェリーンからジオルターンに行くのに、1日以上かかってしまうこの現状を打開すべく、時速100kmの壁を越える事を目標に研究が勧められた。そしてついに、ハーンブルク研究所はハーンブルク鉄道の要求値を大きく上回る車両、高速鉄道の開発に成功した。

来月あたりから導入が開始される予定で、今回はその試走回と言うわけだ。


「相変わらず素晴らしいな、ハーンブルク研究所は。」


「お褒めに預かり光栄です、レオルド様。ですがこれも全て、レオルド様やアイン様といった素晴らしい方々がいたおかげでございます。」


「謙遜はいい。君たちはもう、ハーンブルク連邦を代表する立派な研究者だ。もっと自分の功績を誇れ。」


「レオルド様・・・・・・」


ほんとこの国の奴らは、どうしてこう謙遜する奴らばかりなのだろうか。昔の発明家たちに見せてやりたいぐらいだ。


「ありがとうございます!レオルド様!」


今回の鉄道高速化計画の主任研究員の一人が、泣きながら頭を下げた。後ろを見ると、彼の部下と思われる者たちも同じように泣いていた。

うちの研究員たちは、アインの癖が移ったのか、すぐに泣いてしまう奴らばかりだ。


やがて夢の高速鉄道試作は、遠い向こうへと進み、消えていった。

シュヴェリーン駅のホームでその様子を見ていた俺たちを置いて。





世界は未来へと進んでいた。

今日を生きるのに必死になるのではなく、ずっと先にある輝かしい未来を夢見て、日々努力する人が増えた。人々の生活は一新し、世界は大きく変わった。


「はぁ・・・・・・」


【・・・・・・】


同時に俺は自分自身の限界を感じていた。

もちろん、前世の記憶から持って来れる新アイテムや新兵器は存在する。しかし、急激な技術の発展の必要性が無くなった今、俺には別の考え方が生まれていた。それは、俺はあまり干渉せずに大人しく技術の進歩を見守る事だ。教科書に載せてしまえば、たった数ページ分にしかならない技術の進歩でも、教科書をただ読むのと実際に体験するのでは全然違う。

俺は、人類の技術の進歩を追体験する思いで、研究者達を優しく見守った。技術の進歩は美しい。


「あとはアレをどうするかだな。」


【濃縮ウランですね。】


「あぁ、ここで間違えれば最悪人類同士の核戦争に発展する未来だってあり得る。核の取り扱いについての判断は、絶対に間違えられないな。」


【そうですね。】


人類の科学の発展について、俺は自身が関わる事をできるだけ少なくしようと考えていたが、唯一核については核に関する知識のある俺が導く必要があると考えていた。

核は人類にとって必要なものであり、多くのポテンシャルを秘めているが、使い方を間違えれば最悪の核戦争へと歴史を進めてしまう可能性だってある。俺は人類のリーダーとして、方針を定めるべきだと判断した。

今の技術力では、色々と足りない事があったり、必要なものが揃っていなかったりするが、そこは俺とアイの知識でカバーするつもりだ。アイはもちろん、核に関する多くの知識を保有している。それこそ、その気になれば10年以内に核兵器を完成させる自信があると言っていた。俺も、彼女なら本当に作れてしまう気がしてならない。


【それが、私のする最後の仕事なのかもしれないですね。】


アイはどこか寂しそうに、静かにそう呟いた。

アイはこれまで、様々な方面で活躍してくれた。あらゆる分野の科学はもちろんのこと、戦争や政治経済など幅広い分野で活躍しており、ハーンブルク連邦がただの貴族であった頃からずっと支え続けてくれた。だけどそろそろ、アイがいなくても何とかなる段階まで来ようとしていた。優秀な研究員や参謀は既に揃っており、だんだんとアイがいなくても大丈夫な状態が作られた。

それは偶然ではなく必然的な事で、俺の政策はハーンブルク連邦の拡大ではなく、アイが居なくなても成り立つ国の構築へとシフトチェンジしていたからだ。

俺とアイは、ハーンブルク連邦が誕生した段階で、このような世界が来ることを望み、予想していた。だからこれは、良い傾向なのだ。

だから・・・・・・


「全て片付いて、俺たちが必要とされない時代が来たら、アイはどうしたい?」


【え?】


それは、遠くに消えていく高速鉄道をみて、ふと思ったことだ。

俺は、アイにこれまで散々助けられてきた。だから、そのお返しをしたいなと思ったのだ。今まで感謝を込めて・・・・・・


「よかったらだけど、俺と一緒に暮らさないか。」


【それは・・・・・・】


このままでも、もちろん一緒に入れる。

だけどもう一歩、より近い関係になりたいと思った。


「俺はお前を、AIじゃなくて一人の人間としてみたいと思う。」


もうここまで言えば、十分伝わっているだろう。だが俺は、あえて直接アイに愛を伝える。


「アイ、俺と結婚してくれ。」


・・・・・・】


それは、一つの誓いであった。

そして同時に、宣言でもあった。

アイは、道具なんかじゃない、一人の女の子だ。


_________________________________

どうでもいい話

将来AIが発達したら、AIに人権が与えられて、AIと結婚する人が誕生するかもですね。

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