エピローグ③

 あの戦いから12年の月日が経過した。俺の予想通り、コンストリア帝国との決戦後は目立った戦争が起こる事のない平和な時代が到来した。まぁそもそも、ハーンブルク連邦王国が強すぎて、他の国が戦争を起こす気にならないという状態にまで達していた。強力な陸軍や海軍だけでなく、ジオルターンで密かに研究が進んでいた新型戦闘機を主力とした空軍の存在は、ハーンブルク連邦王国の独走状態を証明していた。

 技術力の分野でも、アインを中心としたハーンブルク研究所は簡易的ではあるがコンピュータの作製に成功していた。現在は、より広い範囲での演算ができるように改良中とのことだ。

 そんな中、ハーンブルク連邦は順調に発展しているという事で、俺はある事を決意していた。


「さて、これで俺の仕事は終わりかな。」


【お疲れ様です、レオルド。本日も完璧でございました。】


「ありがとう、さてと・・・・・・」


 今日の政務を終えた俺は、棚の上に飾ってあった一振りの剣を取った。これは以前、俺がお父様から受け取ったもので、ハーンブルク家に代々伝わる家宝だ。

 そしてそのまま、隣の部屋へと向かう。


「レン、いるか。」


「ちょっと父さん!入って来る時はノックぐらいしてっていつも言ってるでしょ?!」


「あぁ、すまんすまん。」


 いつものやり取りを交えつつ、俺は息子の部屋へと入った。レンはもう18歳で、身長の方も俺と同じか少し高いぐらいになっていた。既に、次期国王としての教育過程はほとんど終えており、一人前の政治家と言える段階にまで成長していた。というか、アイ無しの俺なら、多くの部分で俺を超えていた。

 ただ、18歳の頃の俺よりも大人びて見えるのはどうしてだろうか。


【単純に、レオルドの心が幼いだけでは?】


 うるさい。というか、心を読むなよ。


【私を娶った事を、後悔させてあげるわ。】


「それで?こんな夜遅くにどうしたの?」


 何も伝えていなかっただけに、レンは不思議そうに首を傾げた。

 そんなレンを前に、俺は手に持っていた剣を手渡した。


「ほいっ。」


「え?」


「今日からこの剣はお前のだ。と言うわけで、今日から頑張れよ。」


 剣を受け取ったレンは、その場で固まった。この剣の存在は、以前レンに話した事がある。これは、ハーンブルク家当主の証であり、俺はその証を息子であるレンに託した。

 まぁ早い話、表舞台から姿を消そうと考えているというわけだ。明日はレンの18歳の誕生日であり、俺が引退するにふさわしいと考えたというわけだ。


「これは・・・・・・。まさか本気なのですか、父さん!」


「あぁ、お前も明日で18歳だしな、そろそろ家督を譲ろうと思ってな。」


「急すぎですよ、父さん!事前に連絡とか!事前に相談とか!他にもできる事があったでしょ!」


 レンに言われて、俺はいつも部下に言っている事を自分が守れていなかった事に気づいた。確かに今回の事は、前もって伝えておくべきだったのかもしれない。


「あー、突然の思い付きで相談する暇が無かったんだ。」


「父さん・・・・・・」


 レンは、呆れながらそう呟いた。


【え、もしかしてですけど、伝えてなかったんですか?レオルド!】


 あ、うん・・・・・・


【・・・・・・この国、大丈夫なんでしょうか。】


 まぁ大丈夫でしょ。


【軽すぎですね・・・・・・】


 伝え忘れていた事への罪悪感が無い事も無かったが、俺としてはこれが必要な行動だと考えていた。レンには、次期国王としてこの国を、そしてこの世界を引っ張って貰うつもりだ。このぐらいの問題、難なく突破してもらわないと困る。

 まぁきっと俺の自慢の息子なら、これぐらい突破できるだろう。俺にできるのは、レンを信じるだけだ。



 *



「聞きましたよあなた、レンに家督を譲ったんですって?」


「流石ヘレナ、相変わらず情報が早いな。」


 流石ヘレナというべきか、その日の夕食には彼女の耳に入っていた。


「ちょっとレオルド!それどういうこと?!私聞いていないけど・・・・・・」


「あ〜そういえば、イレーナにも言ってなかったかもな・・・・・・」


「私も聞いてませんよ?」

「私もです・・・・・・」


 イレーナに続いて、クレアとユリアも口を尖らせた。その隣では、リーシャとフィーナの二人も頷いている。


「確かに相談しなかったことは悪かったと思うけど、これは必要なことなんだ。」


「あなた・・・・・・」


「可愛い子には旅させろっていうしな。」




 これが、俺の選んだ選択だ。

 ________________________

 どうでもいい話


 エピローグは、もう1話続きます。

 公開は多分明日かな?

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