第7話 開拓


「もし成功したら、俺は今日を祝日にするつもりだ。」


「なるほど、では何としても成功させなければなりませんな。」


ヴァステリア共和国との交渉を終え、長距離列車を乗り継いでシュヴェリーンへと帰って来た俺は、数日間休憩という名のデスクワークに励んだ。

今や、世界の半分を支配していると言っても過言じゃないハーンブルク家の当主という事もあり、鬼のように溜まっていた書類との格闘の日々が続いた。

ちなみに、お母様とイレーナとユリアが手伝ってくれたおかげで2週間ほどでほとんど終わったが、彼女達が居なかったらと考えると恐ろしい。


そんなわけで、俺は久しぶりに外出が許される事になり、ずっと先延ばしになっていたことを片付けるべく、シュヴェリーンの北部にある『スイセン地区』へと向かった。

『スイセン地区』は、元々は何もない雑木林であったが、広く平らであった事を理由にある施設を置くのに最適であると判断され、整備したのち、研究所などが立ち並んだ。


「やあやあレオルド様、それにエリナ様、ヘレナ様、イレーナ様、クレア様、ユリア様よくぞお越しくださいました。今日は何だか賑やかですね。」


「久しぶりだな、アイン。今日は人類にとって記念すべき日になるかもしれないからな、歴史的瞬間を見たいか聞いたら、全員見たいと答えたから連れて来た。」


「なるほどなるほど、確かに、今日の実験は歴史的瞬間と言っても過言ではありませんな。」


俺たち家族以外にも、将校クラスの軍人だったり、新聞記者だったりと、多くの人々がその姿を一目見ようと集まっていた。

俺たちが到着した事によって、緊張感がさらに高まる。


「勝算はどれくらいだ?」


「五分五分といった所でしょうか・・・・・・」


「ふむ、十分だな。」


俺たちは、アインに先導されながら研究所の奥へ向かった。ここは、アインの研究所であると同時に彼の玩具箱でもある。

今回の発明品が保管されている特別室へやって来た俺たちは、ついに今回の実験対象とご対面した。


「何でしょうか、これは・・・・・・」

「車輪が付いているという事は、何かを運ぶ為の機械みたいだけど・・・・・・」

「人間が乗れそうな所があるので、何かはわからないけど乗り物のようですね。乗れるのは2人でしょうか・・・・・・」

「このプロペラは何に使うんでしょうか?」


「答え合わせは、見てからのお楽しみといくか。」


例によって、今日が何の実験なのか秘密にしていたため、お嫁さん達はそれぞれ予想を述べた。当たり前だが、これが何なのかわからないようだ。

まぁ、当たったらこちらが驚くが・・・・・・


「では、早速実験と参りませんか?」


「了解いたしました、エリナ様。では皆様、実験の準備は既にできているので、外へと参りましょうか。」


「外、ですか?」


「そうだな、移動するか。」


先ほどから、目をキラキラさせながら実験対象を見つめるお母様の訴えに負け、早速実験を開始する事になった。まぁ俺も、早く飛ばしたいという気持ちで溢れていた。

だけど一応・・・・・・


どうだアイ、大丈夫そうか?


【解析、完了致しました。滅多な事が無い限り、大丈夫だと思われます。】


そうか・・・・・・

じゃあ人類の歴史に、新たな一ページを作ろうか。





滑走路へと


「気分はいかがですか?レオルド様、エリナ様」


「問題ない、極めて良好だ。」

「こちらも大丈夫です。」


「最終的な確認が終わりました。いつでも行けます。」


まず、今のところ俺しか操縦できないので俺がコックピットに乗る。2人乗りなので、もう1人後ろに乗る事ができるわけだが、お母様が熱望し、お嫁さん達は譲った。

ノリノリで緊急時用のパラシュートを背負ったお母様は、誰よりも早く席へと座った。


コックピットの中は、思ったよりも快適だった。

ハンドルを握り、エンジンを付ける。すると、正面についているプロペラが回転を始めた。

プロペラの回転速度が、一定速度を超えた事を確認した俺は、手で合図を出した。

合図を受け取った研究員が、最後のストッパーを外した。


俺たちが乗る機体はゆっくり前へと進み始めると、どんどん速度を上げていった。

そして、ものすごい速度で滑走路を走る。


「take off」


「浮いた・・・・・・」


お母様の呟き声が後ろから聞こえた。

前世で俺が飛行機に乗った事があるかどうかは正直覚えていない、だけど間違いなくこの世界で初めて空の旅であった。

俺とお母様は、人類史上初めて空を飛んだのだ。


______________________________

どうでもいい話


私、飛行機一回しか乗った事ないです・・・・・・

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