第8話 航空

「これが上空から見たシュヴェリーンですか・・・」


バビロン宮殿のある『スズラン地区』のような花の名前を冠するシュヴェリーンの様々な地区が、まるで花壇のように並んでいた。

世間では、ハーンブルク領首都シュヴェリーンの事を『世界の花壇トップ・オブ・フラワーガーデン』と呼ぶらしいが、その名に相応しい美しさであった。

ちなみに、世界の中でも特に人や物が集まるシュヴェリーンとテラトスタとリアドリアを結んだ三角形の内側を『黄金の三角地帯』と呼ぶらしい。

俺が付けたわけじゃないが、中々に気に入っている呼び方だ。


「あそこに見えるのがバビロン宮殿で、あっちがシュヴェリーン駅ですね。」


「ずっと見ていれる美しさですね・・・・・・」


お母様は、すっかり景色の虜になっていた。目下に広がる美しい景色を楽しんでいた。

ちなみに俺は、景色を楽しむ余裕なんてなく、航空機の操縦に集中していた。今回の飛行テストはデータの収集を目的として行われており、同時にアイを使って様々な数値を計測していた。

もちろんお母様を乗せているという事も俺が緊張する要因の一つだ。ここでもしもの事があったら、ハーンブルク領や西方統一同盟の支配体制は数年のうちに破綻するだろう。ユリウスやイレーナが頑張ってくれれば、何とかなるかもしれないが、正直考えたく無い。

まぁ、常にアイが周囲の確認をしてくれているし、パラシュートもあるので、大丈夫だろう。


航空機計画が始まったのは、ディーゼル機関の鉄道が完成してすぐの頃だ。ディーゼル機関を作る過程で、石油を使った機関の存在を知ったアインは、この力を使って空を飛ぶ計画をお母様に提案した。

この話を知ったお母様は、すぐさま俺を呼び出し、秘密裏に航空機を作る事を命れ・・・・・・依頼した。俺が断れるはずもなく、アインの研究所で研究がスタートした。

俺は戦争続きだったので、アドバイスぐらいしかできなかったが、天才アインはライト兄弟もびっくりの速度で航空機を完成させた。


「航空機は、今後どのように利用するつもりなのですか?」


「最初のうちは観測用と緊急移動用ですかね。航空機はあらゆる障害物をスルーして飛ぶ事ができますが、滑走路が無いと着陸できないので、運用は限られると思います。」


無理やりであれば着陸できない事も無いが、着陸するたびに一機お釈迦になるでは流石に釣り合わない。

一応今の所、ハーンブルク領の主要都市には全て作る予定だが、どうなるかは未定だ。それに、搭乗可能人数が増える計画もある。欲を言えば、20人ほどをいっぺんに運ぶ事ができる機体が欲しいが、こればかりは技術の進歩に期待するしかない。


「という事は、もっと大勢が乗れる航空機が完成するまでは、領民の利用は難しいみたいですね。」


「いえ、そうでもないですよ。例えば燃料代を負担させて1時間空の旅、みたいな感じで募集すれば、大金を払ってでも空の旅を楽しみたいという人は多いと思いますよ。相場は分かりませんが、飛行のデータも取れるので一石二鳥です。」


前世でも、大金を払って宇宙旅行をするという企画があった。詳しくは知らないが、結構希望者がいたらしい。

それと同じ事を、空の旅でもやろうという事だ。


「なるほど、確かにそれは人気が出そうですね。あとは、航空機の操縦士の募集をしなければならないですね。一応軍部の中から目が良くて若い者を何名かリストアップしていますが、操縦士専用の学校が必要になるかもですね。」


「確かにそうなりますね。」


その後も、航空機の今後の利用について話し合いながら、30分ほどの空の旅を楽しんだのち、俺たちは滑走路へと戻った。





「我々は、とんでも無いモノ目にしているのかもしれないな・・・・・・」


「あぁ、我々は間違いなく、歴史的瞬間を目にしているな・・・・・・」


2人はそれぞれ、ハーンブルク新聞とハーンブルクラジオの運営チームから今日行われる公開実験についての取材をするように言われて訪れていた。

どのような実験が行われるか、内心ワクワクしながらやって来た彼らであったが、その場に集まったメンバーを見て言葉を失ったいた。


ハーンブルク家直属の諜報部隊SHSの代表、知る人ぞ知る有名人シェリングを始め、ハーンブルク軍の海軍大将や陸軍大将、有名な将校、ハーンブルク領の各庁長や部門長が勢揃いしていた。その中心には、レオルド様やエリナ様といったハーンブルク領の中でトップに位置する、まさに雲の上にいるようなメンバーがいた。

これなら、この警備の厳重さにも納得だ。


そしていよいよ、実験の瞬間がやって来た。

記者達は、それぞれペンを片手に身構える。実験の瞬間を見逃すわけにはいかないからだ。

だがすぐに、記者達は目を疑った。


物が浮いているのだ。


まるで、物語の中の出来事のように・・・・・・


幻想的で、記者達を含めその場にいた全員が目を奪われた。


「やっぱ俺たち、とんでも無い瞬間に立ち会っているんじゃ・・・・・・」


「相変わらずとんでも無いな、レオルド様は・・・・・・」

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