第9話 年貢

「『トモタカ』にある南方方面軍司令部からの報告です。嵐が発生したため、船の到着が遅れているそうです。」


「何かしら手を打つ必要はありそうか?」


「あった方が楽になるかと・・・・・・」


「そうか・・・・・・。サーマルディア王国に連絡して、食料を鉄道で運搬をしてもらえ。」


「了解致しました。」


航空機が発表されてから、1ヶ月が経過した。シュヴェリーンを含むハーンブルク領の主要都市全てに空軍基地が設置されたものの、航空機が活躍する機会は一度も無かった。

というのも、人や物の移動は鉄道や船で事が足りるし、航続距離の問題から長距離移動は難しく、戦争状態でない今、航空機の出番は無かった。

そんなわけで、実験と改良の日々が続き、航空機の製作技術は日に日に増していった。


それと同じくして、ハーンブルク領はある選択を迫られていた。


「さて、どうしたもんかね〜」


【元々不安定な状態だった問題です。各国からも疑問視されていましたし、そろそろ年貢の納め時なのかもしれません。】


「はぁ〜嫌だな〜これだけはなりたく無いと思っていたんだけどな〜」


ハーンブルク領は名義上、サーマルディア王国の一部であるという事になっている。勝手に外交しているし、税金納めて無いしで影が薄いが、一応はサーマルディア王国から伯爵位を貰っており、れっきとした貴族の一員だ。

以前独立をするよう提案されたが、一つの国として存在してしまった時の面倒くささ理由で独立を拒み、貴族として扱うようにお願いした。


だがついに、この体制の崩壊の危機がやって来た。


「ゼラストが言うには、さっさと退位して息子に王位を譲りたいそうだ。」


「は、はい?」


お父様が久しぶりに帰って来たと思ったら、出会い頭にそんな事を言った。


「もう一度説明をお願いできたせんか?」


「わかった。実を言うとだな・・・・・・」


どうやら、現国王で、お父様の親友であるゼラスト陛下が王太子の誰かに王位を譲りたいとおっしゃったらしい。

早々に俺にハーンブルク家当主の座を押し付け、最近は水を得た魚のように生き生きしているお父様を見て、自分もさっさと王冠を脱いで遊びたいと考えたらしい。

とはいえ、お父様のようなテキトーな性格では無いゼラスト陛下は、自身が退位する前に国内の問題を解決しようと考えたのだ。

そんなわけでやり玉に挙がったのが、ハーンブルク領どうするかという問題だ。サーマルディア王国の一つという位置付けでありながら、圧倒的な経済力と世界一の人口密度を誇るハーンブルク領について、どうにかしたいと考えたのだ。つまり王宮は、ハーンブルク家の独立を望んでいた。


「前回のように、上手いこと回避できたりしないんでしょうか。」


「すまんが今回は難しそうだ。次期国王になる予定であるサルラック王太子もハーンブルク領の事を疑問視しているようだし、俺も問題だと思う。確かに今までは、俺とゼラストの仲もあって何とかなっていたが、お前サルラック王太子と仲良く無いだろ?」


「・・・・・・」


何も言えね〜

確かに俺、サルラックとの関係はあまり良く無い。何故良くないか、その理由は実に簡単だ。

サルラックの誕生日パーティーを、6歳の時の一回を除いて全部無視したからだ。

それと、ハーンブルク領で行われたあらゆるパーティーの招待状をサルラックに向けて送らなかったからだ。

うん、俺は悪くない。


【これまでマスターが、面倒事を避けるために王太子との関係を断っていた事が原因ですね。申し訳ございません、マスター。流石の私もこうなる事は予測できませんでした。】


回避する手段は?


【武力で脅すのはいかがでしょうか。】


却下だ却下、他に方法は?


【買収するか、もしくは国を乗っ取ってしまうのが一番早いと思われます。】


嫌だ、独立だけは嫌だ。でもそれ以上に、面倒事が増えるのも嫌だ。

ただでさえ面倒なんだ、これ以上仕事を増やしてたまるか。


「何とかなりませんかね、お父様」


「う〜んと、まぁ可能性はない事も無いぞ。とは言え、ものすごく望みは薄いが・・・・・・」


「お、教えて下さい、お父様」


俺が久しぶりに頭を下げながらお願いすると、お父様は困ったような顔をしながら答えた。


「そんなに嫌なのか?」


「はい、できれば回避したいです。」


「問題なのは、次期国王であるサルラック王太子が、ハーンブルク領の存在を良く思っていない事だ。なら、代理を立てればいい。早い話、サルラックを廃嫡にして、別の国王を推薦するのだ。」


「な、なるほど、その手がありましたか・・・・・・ありがとうございました、お父様。何とかして、今の地位を死守できるように頑張りますっ!」


やるべき事をまとめた俺は、早速荷物をまとめると、サーマルディア王国王都のサーマルに行く事に決めた。


「全く、変な信念なんか持たずに、さっさと国を作っちゃえばいいのに、我が息子ながら変なやつだな・・・・・・」


去り際に、お父様のこんな呟きが聞こえた気がした。


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どうでもいい話


航空機の出番は、ちゃんとあります。ご安心を

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