ss人気投票5位イレーナ


「ここが、シュヴェリーン・・・・・・」


「ええそう、ここが、ハーンブルク領の首都『シュヴェリーン』よ。目的の場所はこっちよ。いきましょ。」


「は、はいっ!お願いしますっ!」


レオルドとヘレナが、新たな鉄道路線を建設するために、ジア連邦共和国へ行った日、私は初めてこの都市を訪れたユリアを案内する事にした。


情報通な彼女なら、シュヴェリーンの噂を何度も聞いた事があるはずだが、実際に見たのは昨日が初めてだからだ。

まずはどこに行きたいか、ユリアに尋ねると、サッカーが見たいと答えたので、私たちはとある場所へと向かった。


「おぉー監督っ!お久しぶりでございますっ!」

「おいみんなっ!監督がいるぞっ!一旦練習を中止して集まれっ!」

「ホントだっ!それと隣は・・・・・・」

「噂にあった、ユリア様じゃ無いか?」


とりあえず私たちは、FCTの練習用グラウンドへとやって来た。ハーンブルク領で最も熱いスポーツであるサッカーを知ってもらうには、ここが1番わかりやすいと思ったからだ。


ちなみにだが、私は軍務についた頃からFCTの監督を辞めている。軍務と監督の両立は不可能と判断したからだ。もちろん、レオルドも引退している。

両チームとも、次の監督にはそれぞれのチームのヘッドコーチが就任している。


「全員、練習に戻りなさい。私はちょっと、この子にサッカーを教えようと思って来ただけよ。」


「「「は、はいっ!」」」


私の言葉を聞いて、蜘蛛の子を散らすようにメンバー達は散っていった。

ただ1人残ったFCTのキャプテン、スルマがこちらに近付いてくる。


「お久しぶりでございます、監督っ!」


「久しぶりね、スルマ。元気にしていたかしら。」


「はい、監督もお元気そうで・・・・・・ところで本日はどのようなご用件で?」


「さっきも言ったでしょ?この子にサッカーを教えようと思ったのよ。そうだわ、何でもいいからボールを1つ持ってきてちょうだい。」


「は、はいっ!これをお使い下さい。」


私が言うと、スルマは持っていたボールを蹴って渡した。少し取りにくい位置に渡されたが、戦争に行っていたからといって身体は鈍っておらず、上手くトラップできた。

そのままヒールリフトを使って、ボールを手元へと持ってくる。

久しぶりにやったが、上手く成功したので、少し嬉しい。


「お見事です、監督っ。」


「馬鹿にしないでちょうだい。」


私がそう言うと、彼はチームの練習へと戻っていった。

受け取ったボールを前に持ってくると、私たちらは芝生で向かい合った。少し距離を取り、ボールを地面に置く。

まずは軽く、基本のインサイドを使って真っ直ぐユリアの足元へとボールを転がす。


「これが、サッカーボール・・・・・・私が以前見た奴よりも大きくて丸いですね・・・・・・」


喋るだけの余裕はあったようで、彼女は右足を使って、ボールを上から止める。

流石にトラップなどは知らないようだ。


「おそらくそれは、練習用か、粗悪品ね。サッカーボールって、単純に見えて結構作るの大変なのよ。だからハーンブルク領の外へ輸出するほど多くは無いはずよ。」


「なるほど、確かに精密な作りになっていますね。我が国では作れないと思います。」


そんな事を言いながら、今度はユリアが同じくインサイドを使って私にボールを返す。

私はもちろん、それをノールックで止める。


サッカーは、色々な国に広まったものの、まだプロチームはハーンブルク領でしか誕生していない。

サーマルディア王国は、サッカーの普及に力を入れ、サッカー場の建設などを行ったが、プロチームが発足する前に国が戦争状態に突入してしまい頓挫した。

現在、最も可能性が高いのはジア連邦共和国だ。まだ開通はしていないが、レオルドが考える鉄道が開通すれば、ジア連邦共和国内の行き来がかなり楽になるはずだ。

そうすれば、スポンサーさえ集まれば、すぐにでもサッカーのプロリーグが誕生するだろう。

そんな事を考えながら、私はユリアとパスの練習をしていた。

少しずつ、トラップを慣れさせながら、インフロントやアウトフロント、ちょっとした小技を教えていく。

レオルドが天才と呼ぶ彼女は、やはり飲み込みが早く、教えた事はすぐに吸収していった。

2人の間隔も、最初は5mぐらいだったが、今では15mほど離れた位置でパス回しをしていた。

そして、いつの間にか私たちの話題は、サッカーの事から別の内容へと変わっていた。


「だいたいあいつが悪いのよっ!私たちと結婚するーって言ったくせに何も進歩していないしっ!」


「そ、それは・・・・・・確かにちょっと傷つきますね。」


先ほどから、私しか言っていない気がするが、気のせいだろう。

私は、相手が初心者である事を忘れて、溜まったもやもやを、ボールにぶつけた。


「思わせぶりな態度を取るくせに、私にはご褒美くれないしっ!」


「私ももらってません・・・・・・逆に国を1つ押しつけられましたし・・・・・・」


「私だってっ!ヘレナみたいに甘えたいのにっ!」


「ヘレナさんはすごいですよね・・・・・・」


「たまに2人きりで夜出かけるしっ!」


「それは知らなかったです・・・・・・」


「結婚式もするって言ったのにっ!ウェディングドレスだって選んだのにっ!」


「私もやってもらってません・・・・・・」


「あぁーーーも〜何なのよぉーーっ!」




結局、お昼頃までサッカーをして過ごした。お昼は、シュヴェリーン内でランチを食べ、そこでも日頃の愚痴を聞いてもらった。

最初の趣旨と微妙に変わってしまったが、楽しい時間だった。



______________________________


どうでもいい話


3位のクレアに関しては、本編でご褒美をあげたいと思います。

内容は察して下さい。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る