第12話 世界

「だが、道が完全に無いわけではない。」


まずは状況を整理してみよう。俺の目的はハーンブルク領の勝利であり、家族が無事なら他国や他領の事なんてどうだっていい。これまでもこれからも俺の行動の軸にはこのような考え方があった。

反対に、ファルティオン国王姉妹の目的は大陸内の全亜人が幸せ暮らすだ。人間と一部の亜人の団結に対抗して、東方亜人協商という派閥を作るという選択をとった事から分かるように、この姉妹は全ての亜人が平和に暮らせる世界を目指していた。

ファルティオン王国だけであれば、西方統一同盟に加入するという選択肢があるが、全ての亜人の幸せとなると、その道は選べない。


だから姉妹は、俺に新たな選択肢を求めたのだろう。彼女達が思い付かなかった、別の道を見つけるために。

妹の方が直接俺の所にやって来たのは、東方亜人協商の舵取りを任せるため。こう考えれば、姉妹の言動に筋が通る。


では、俺とハーンブルク領は何を提案すべきなのか。

俺とアイが導き出した最善策は・・・・・・


「戦争をしようか。」


「え?」


「西方統一同盟と東方亜人協商とで、一度本気でぶつかってみる事を俺は提案したい。」


「どういう事ですか?!先ほど、戦争をしなくてもいい道があるとおっしゃっていたではありませんか!」


彼女は、声を荒げながら立ち上がった。どう考えても、怒っているようだ。

俺の発言の意味を理解したのか、先ほどまで空気のような存在であった彼女のお付きの者達も、こちらを鋭い眼光で睨んできた。

ちょっと、いや普通に怖い。


「落ち着いてくれ、もちろん理由はあるし工夫もある。期間を設けて戦争をするという案だ。具体的には、2年間戦ってそれで終戦する。」


「どういう事ですか?」


「この世界は、今まで一度も大陸中を巻き込んだ世界大戦が起きた事がない。だから誰も、その恐ろしさを知らない。」


過去にも、ヴァステリアの元となった国やその周辺国が大きな戦争を引き起こした事は何度かあった。しかしそれらは、所詮大きな戦争であり、大陸全土を巻き込む大戦争とはわけでは無い。

だから無いのだ、種族の存続を賭けた文字通り世界を2分する世界大戦の記憶も記録も。


「だから一度正面からぶつかって、世界中の人々の心に刺激を与えるって事ですか?」


「そうだ。」


「貴方が、人為的に戦争を引き起こすんですか?」


「そうだ。」


「・・・・・・」


彼女は、声を詰まらせた。

当たり前だ。このような展開になるなんて、彼女は全く想像していなかっただろう。それだけに、ショックは大きい。

俺はこれが、必要な戦争だと考えた。人は、学び成長して行く生き物だ。だからここは、戦争をしておいた方がいい。何年先の未来になるかはわからないが、この選択がプラスに働く時がきっと来る。


だから俺は、迷わずその道を選んだだろう。

彼女がこの場にいなければ。


「これが、俺の考える最善だ。・・・・・・だが、見たところこの案には反対のようだな。仕方がないから別の案を用意してやる。」


「っ!」


そこまで言って、彼女はやっと顔を上げた。

俺は、何事も無かったかのように話し続けた。


「戦争とて外交手段の一つ、とてもシンプルで単純な解決方法がある。パラス王国、ガラシオル帝国、西方統一同盟、東方亜人協商の主張が一致すれば良い。」


「でも、そんな事が・・・・・・」


「ガラシオル帝国は、国境を戦争以前へと戻す代わりに、戦費の賠償を求めている。西方統一同盟としては、ガラシオル帝国に任せるという判断が下った。後は、そちら側の問題だ。」


この提案は、ユリウスとカレンの活躍があったからこそ出来た事だ。この新婚夫婦が、俺不在の西方統一同盟をまとめておいてくれたおかげで、スムーズに物事が進んだ。

特に、西方統一同盟所属の亜人国家を上手くまとめてくれた点については感謝しかない。


そして、ガラシオル帝国に対してはユリアが交渉してくれた。向こうの宰相との協議の結果、現在占領中の領土を返還する代わりに賠償金を要求された。ガラシオル帝国の貨幣とパラス王国の貨幣はもちろん違うので、ハーンブルク領が建て替える事となった。

ちなみに、帝都ベネサとその周辺にある主要都市をぐるりと一周する鉄道を建設して欲しいと言われたので、鉄道建設と10年間の整備補償、おまけの食糧援助の3つで納得してもらった。

彼は、失った人々の事を嘆くのではなく、今を生きる人達のために投資した。


「・・・・・・もしかして先ほどのは、ブラフだったんですか?」


「半分な。だが俺としては、どちらの選択をしても尊重したつもりだ。君達姉妹が、どういう思考回路を持っているかのテストでもあったしな。」


「そ、そうですか・・・・・・」


正直俺は、最初に提案した茶番戦争をした方が良いと思っていた。世界大戦というものを、身をもって知っていた方が今後のためになると。


「それで?この提案に乗るか?」


だけど、彼女に会って、考えが変わった。


「それでお願いします。」


「そうか、では具体的な交渉に入るとしよう。」


____________________________

どうでもいい話


最近、忙しい・・・・・・

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