第11話 手探

「さて、まずは何から話し始めましょうか。」


「人間の言葉を使うんだな。」


「これでも一応、王族の一員ですから亜人語も人間の言葉も嗜んでおります。ですので、会話は人間語でお願いします。」


「わかった、そうさせてもらうよ。」


かなり流暢な共通語、思いの外聞き取りやすい人間の言葉を話して来た事に驚きつつ、俺は相手の出方を探った。


「では、まずはパラス王国の事について話しましょうか。」


「文句でも言いに来たのか?」


「いえ、むしろ感謝したいと考えております。先ほどの対応はどうもありがとうございました。」


彼女の対応に、素直に驚いた。まさか、感謝の言葉を伝えてくるとは思わなかったからだ。俺の行動の意図が伝わったのだろうか。


「何を言われるか冷や冷やしたが、まさか感謝されるとはな。感謝されるような事は何もしていないつまりだが・・・・・・」


「ご冗談を。貴方様のおかげで、正面衝突という最悪を回避する事ができました。東方亜人協商にとっては痛手かもしれませんが、私にとってはかなり良い展開だと考えております。少なくとも今回の一件で、パラス王国を含む東方亜人協商の国々は、無闇に戦争をしたらどうなるか思い知った事でしょう。無論、このまま上手い方向に話が進んだら、ですが・・・・・・」


目の前に座る美女は、にこやかに微笑みながら答えた。


【色香に惑わされて変な事をしないで下さいね、マスター。】


こちとら妻子持ちだわ。どんな事があってもハーンブルク領を優先するに決まっているだろ。


【お隣にクレア様がいらっしゃる事をお忘れ無きように】


へいへい。


「戦争を止めるために国を一つ犠牲にするというのは、安い買い物じゃ無いと思うが・・・・・・」


「いえ、まだ国を一つ失ったという事が決まったわけではありませんよ。」


「なるほど、まだ諦めてはいないって事か。」


ファルティオン王国の女王がとても優秀という噂を聞いた事があったが、どうやらその妹である彼女も優秀なようだ。

だんだんと、彼女が持っていこうとしている方向が見えて来た。どうやら、結構頭が回るようだ。


【油断せずに、手札はできるだけ使わないようにお願いします。まずは方向性の確定からです。】


おーけー相棒。


「はい、交渉次第では、双方にメリットがある落とし所が見つかると考えております。それに、パラス王国はまだ完全に占領されたというわけではありませんし。」


「まぁ確かに、俺達が占領したのはパラス王国の王都と東側だけで、それ以外はパラス王国領のままだな。」


「それと、どうやらパラス大王陛下もご存命のようですし・・・・・・」


「そうか、生きているのか。」


「えぇ、部下からそのような報告を受けております。彼、王都を占領された事をかなり怒っていたようですよ。」


やはりまだ生きていたか・・・・・・

王都陥落の際に、混乱に乗じて王都を脱出しようとした一団がいた。もちろんSHSがそれを見逃すはずがなく、すぐに捕縛された。

その中には王族と思われる者達がおり、まだ確定はしていないが王太子と王妃もいた。だが、予想通り大王本人はおらず、行方がまだ確定していない状態だった。


「ははは、そりゃあそうだ。自国の王都を占領されて、怒らないやつはいないだろうな。だが、元々はパラス王国側から始めた戦争だと聞いたぞ。奴とて覚悟の上だったんじゃないのか?」


「さぁ、それはどうでしょうか。私には戦争をする国の気持ちなんてわからないし、わかりたくもないですので・・・・・・」


「まぁ確かに、俺も自分から戦争を仕掛けるような事をする奴はあんまり好きじゃないな。」


【・・・・・・】


いやいや、俺からは仕掛けて無いよな。

確か・・・・・・


「それなら話は早いですね。」


「というと?」


「私は今回、今後起こりうるであろう東方亜人協商と西方統一同盟との全面戦争を回避すべくやって来ました。」


彼女の瞳からは、その真剣さが伝わって来た。どうやら、嘘偽りなく本気なようだ。


【99%本心であると考えられます。彼女の言葉に嘘は無いと言ってもいいでしょう。】


「まさか、こんなに早い段階で本心を話すとは思わなかったな。」


「誠に勝手ながら、信用に足る人物と判断しました。」


「そうか・・・・・・」


完全に信用されているわけではないようだが、少なくとも平和に向けて一緒に歩いていける人物と判断されたようだ。

いや、むしろ俺が平和を望まない限り平和はあり得ないと判断されたのかもしれない。俺は一応、有志以来初めて人間と亜人の架け橋となる派閥、西方統一同盟を作った人物だ。そんな俺に、東方亜人協商と人間の架け橋の役割を担ってもらいたいのだろう。


「俺たちとしても、全面戦争を避けたいと考えてはいる。だが、実際のところは難しいというのが本音だ。」


ヴァステリア共和国とその周辺国が上手い具合に西方統一同盟に加入できたのは、勝者に従うゼオン獣王と戦争を避けたいという考え方が強いヴァステリア共和国がいたからだ。

この路線では、君主制の国が多い東方亜人協商では、少し難しいと言える。


「だが、道が完全に無いわけではない。」


______________________________

どうでもいい話


引っ越しって大変ですよね。

現実逃避したい・・・・・・

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