第7話 親子

式が無事終了すると、すぐさま披露宴会となった。

俺たちがパーティー用の服に着替えている間に、豪華な料理が並んだ。

世界中から取り寄せた高級食材や美食の街センレバスから呼び寄せた一流のシェフ達が、それぞれ自身のベストを尽くした。

今日は、それぞれ無礼講で自由にパーティーを楽しんでもらう事になっている。

早速俺も、お嫁さん達に囲まれながら食事を楽しもうかと思ったんだけど・・・・・・


【挨拶回りがまだですよ、マスター】


・・・・・・そう言えばそうだった。


今回のパーティーの主催者は俺であり、主催者としての義務を当然ながら果たさなければならないのだ。

というわけで、今回のパーティー参加者の中で1番立場が上の人間である、サーマルディア王国王太子のゼラストさんの所へ向かった。もちろん、ヘレナも一緒だ。


「結婚おめでとう、ヘレナ、レオルド君。」


「ありがとうございます、ゼラストさん。」

「ありがとうございます、お父様。」


ヘレナと揃って、軽くお辞儀をする。ふと横を見ると、彼女はとても嬉しそうな顔で、涙をこらえているのがわかった。

それと同時に、最初に感じた違和感、この正体に初めて気付いた。


家族同士の繋がりが浅いんじゃない、ヘレナとゼラストさんは、接し方がわからないんだ。


【考えてみれば簡単な話です。彼女は、王城での暮らしが嫌で、シュヴェリーンに逃げて来ました。なので、親子の絆を深めるであろう10年間が空白なのです。】


そうなのだ。ヘレナは、人生の半分以上をハーンブルク領で過ごしているのだ。ある意味、俺の責任とも言える。


「本当に、綺麗になったな、ヘレナ」


「お父様・・・・・・」


「・・・・・・」


かける言葉が見つからないのか、お互いに黙ったままであった。周囲の声が、嘘のように聞こえなくなるほど、緊張が高まっていた。

お互いに、一歩も引かずに見つめ合う。


ここ、俺が間に入るべきだと思うか?


【ヘレナ様の配偶者となったなら、愚問です。】


尋ねておきながら、俺もその質問がもはや応えを聞くまでもない事に気付いた。ここで何をすべきか、すぐにわかった。

すぐさまヘレナの近くに立つと愛すべき妻の耳元でそっと囁く。


「ヘレナ、泣きたい時は素直に泣いていいんだぞ。」


ため込んでいたモノをそっと吐き出すように。

彼女の目からは、涙が溢れ出ていた。


「お、お父様・・・わ、私・・・私、幸せになれたよ・・・・・・」


涙をこぼしながら、感情を前面に押し出しながら、彼女は父親の背中に手を回した。

もしかしたら、これが初めての、親子の抱擁なのかもしれない。


「大好きな人と、一緒になれたよ。」


「ヘレナには、妻が亡くなってから、ずいぶんと迷惑をかけたな・・・・・・私は、父親として心から嬉しく思う。」


これまで何もしてやれなかった父親は、優しく自分の娘へと語りかけた。そして、今度は俺の方を向くと、父親としての言葉を俺に言った。


「頼むぞ、レオルド君、娘を・・・・・・ヘレナを幸せにしてやってくれ。」


「はい、もちろん。一生大切にします。」


「よろしく頼む。」


未だに抱擁したままのヘレナをその場に残して、俺はサーマルディア王国宰相のギュスターさんの所へと向かった。


俺が姿を現した時には、すでにイレーナとギュスターさんが特別に用意されたテーブルに向かい合いながら座っていた。


こちらも、かなりピリついており、周囲の者達は、とてもじゃないけど近づけない状態が続いていた。

俺は、その緊張をほぐすように、イレーナの頭を優しく撫でながら、隣に座った。俺に気付いた2人が、思わず声を漏らす。


「あ、レオルド・・・・・・」

「おぉレオルド君。」


「こんにちは、お義父さん。」


俺は初めて、ギュスターさんをお義父さん、と呼んだ。

少し恥ずかしいが、悪い気はしない。


「あんなに小さかった子供が、こんなに立派に成長するとはな、どうやら私の目に狂いはなかったようだ。」


「お父様・・・・・・」


「イレーナ、レオルド君をしっかりと支えてあげなさい。彼はまず間違いなく、この時代の英雄だ。他の追随を許さない、思考力、発想力、行動力を持っている。だからそれと同時に、少し危うくもある。」


危うい?

少し引っ掛かったので、心の中で呟くと、その心の呟きを唯一聞こえる人物が、頭の中で余計な事を言った。


【ハニートラップに弱いって話なんじゃ無いですか?】


おいおい。


「だからイレーナ、妻として彼を支えてあげなさい。」


「はい、お父様・・・・・・」


「それとレオルド君、娘をどうか、よろしく頼む。少し天邪鬼で、可愛いところが少ないかもしれないが、根はいい子だから、大切にしてやってほしい。」


「ちょっと、お父様っ!」

「はい、お義父さん。」


「レオルドっ!あんたも何か言い返しなさいよっ!」


「何でやねん。」


何か言い返せと言われたので、関西ツッコミをしておいた。

すると、ギュスターさんにとってはツボだったようで、珍しく大声で笑った。


「はっはっは〜それはあれか、近頃ラスベスタで流行っているという落語と呼ばれるやつか?」


「ま、まぁそんなところです。」


「もう・・・・・・」


それを聞いたイレーナは、不満そうに口を膨らませた。うん、可愛い。

その後も、3人で談笑を楽しんだ。途中から、軽食をとりに行っていたイレーナの母親も混ざって楽しんだ。

数分が経過し、そろそろ次の親子が待つ所へ行かなきゃいけないと思って席を立とうとしたところで、ギュスターさんに呼び止められた。


「あぁ〜ちょっと待ってくれ、レオルド君。一つ、言い忘れていた事があった。」


「何でしょうか。」


「我がイルフェルン家の跡取りの話だ。」


「はい。」


現状、ギュスターさんにはイレーナしか子供がいない。イレーナの母親はまだギリギリ、産めなくもない年齢だが、高齢出産には命の危険があるので、できるだけ避けたい。


そうなると、イレーナしかいないわけだが、イレーナは俺の元へ嫁ぐ事になっている。

従兄弟などはいるらしいが、できるだけ自分の子供に継がせたいという話は聞いていた。


「色々と考えたのだが、君たちの子供に、イルフェルン家を継いでもらう事に決めた。だから、夜の方もよろしく頼むぞ。」


「よ、夜の///・・・・・・お父様のバカっ!」


ギュスターさんのセリフで恥ずかしくなったイレーナは、父親を平手打ちした。

とてもいい音が鳴り響く。


俺はというと、どう反応していいかわからず、ギュスターさんを見つめた。

きっと今、俺の顔もイレーナ同様赤く染まっているのだろう。


【・・・・・・】





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どうでもいい話


たくさんのコメントありがとうございます♪

ハードルが高くなっていくのを少し感じつつ、ラストスパート頑張りますっ!


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