第2話 運命
とてつもなく豪華で、無駄に煌びやかで、貴族というのはそういうものだと思っていた。少なくともレオルド・フォン・ハーンブルクとしてこの世界に転生するまでは、俺はそう考えていた。だけど、この世界の貴族や王族の、特に権力を持っている連中は意外と質素な人間が多い。もちろん、パーティーやなんかの儀式の際は無駄に煌びやか格好になるが、基本的にはシンプルなものが好まれる。
例えばハーンブルク領の中心、バビロン宮殿は白一色のシンプルな作りだし、王都サーマルにある王城もシンプルな作りとなっている。
だからこの世界では、煌びやかなものはあまり好かれていないと思っていたが・・・・・・
「す、すげえな・・・・・・あれ全部ファルティオン王国の連中なのか?」
「はい、あの紋章は間違いなくお姉様のものでございます。おそらく、あの馬車のうちのどれか一つに、お姉様がいらっしゃると思います。」
「流石は、現時点で世界最強の国だな・・・・・・」
俺は思わずそう呟いた。
この、大きな港町のメインストリートを埋め尽くすレベルの行列ができており、その行列は真っ直ぐ今いるこの屋敷へと伸びていた。
馬車は全て金、流石に本物の金は重いしそんなに使われていないと思うが、無駄に輝いていた。
「あら?世界最強の座を譲るのですか?」
「ハーンブルク領は国じゃないからな。世界最強の国となると、ファルティオン王国だろうな。まぁ、サーマルディア王国にハーンブルク領を含めるなら、話は違っただろうな・・・・・・」
隣に立ち、俺と同じように行列を眺めるフィーナの問いに、俺は条件付きで同意した。総人口およそ1200万人、総領土面積はサーマルディア王国とほぼ同じぐらい、領土全域が肥沃な土地であり、ハーンブルク領が異次元の覚醒をするまでは正真正銘世界最強の国だ。
だけどそれは、俺がこの世界に誕生するまでだ。
「随分と自信がおありのようですね、レオルド様。」
「まぁ、客観的な事実だな。」
「そうですか・・・・・・」
この日のために、俺は様々な準備をたくさんしてきた。その中にはもちろん、ハーンブルク領が周辺国や東方亜人協商の国々と戦争状態になったのシナリオも考えてある。その上で俺とアイは、西方統一同盟と東方亜人協商が戦争になった場合、防衛に専念すれば負ける事は無いという結論を出した。
*
ハーンブルク領からは俺とイレーナの2人が、ファルティオン王国からは女王姉妹が交渉のテーブルへとついた。
もちろん背後には両陣営とも10名ほどの護衛が付いており、厳重な警備体制の中ついに世界の運命を決定付けるかも知れない交渉が始まった。
「こうして顔を合わせるのは初めてですね。」
「あぁ、そうだな。海を1つ挟んだ向こう側にいるというのに、会う機会は無かったな。」
目の前に座る美女は、微笑みながらそう言った。容姿はフィーナと瓜二つで、彼女らがおんなじ服を着ていた場合、おそらく俺には区別が付かない。それほど、2人の容姿や雰囲気はそっくりだった。
そしてそれは、怒っている時の顔をも・・・・・・
顔は微笑んでいるのに、目が全然笑っていないんですけどっ!もしかして怒っている?
【もしかしなくても怒っているようですね。理由はほぼ間違いなく、マスターがフィーナ様を連れ去った事でしょう。】
いやいや連れ去って・・・・・・まぁ客観的に見れば連れ去った事になるのか。
【女王にとって妹であるフィーナ様は、唯一の肉親にして、唯一の理解者。おそらくフィーナ様ショックによって、相当なストレスを抱えておられるのでしょう。】
フィーナ様ショックって何だよ。新しい単語が生まれちゃっているじゃん。
【そして今、ストレスの最大の原因が目の前にいます。イライラゲージが相当溜まっているでしょう。】
イライラゲージって、なんかのゲームかよ。
【この話雰囲気を、何とか盛り上げようとした私からの配慮です。】
おいおい。
まぁいいや、とりあえずはコミュニケーションをとって、両陣営の緊張を和らげるか。
【それがいいかと。】
と、この時は思っていたんだけど・・・・・・
「私のフィーナとは、どこまで進んだのですか?」
「は?」
俺は思わず、そんな声を漏らした。
「私のフィーナとはどこまで関係を進ませてしまったのですか、と聞いています。さっさと答えていただけませんか?」
「ただの商売相手だ、言っておくが貴女が想像しているような事は一切無い。」
「嘘ですね。私のフィーナと半年近く一緒に暮らして、好きにならない男などいるはずがありません。」
少し立ち上がった彼女は、隣に座る妹を抱きしめながら言った。目は完全にこちらを睨んでおり、どうやら疑われているらしい。
もしかしなくてもシスコンかよ。
【もしかしなくても姉妹愛が普通の人よりも強いようですね。】
だけど、似た感情を持つ者がこちらにもいるわけで・・・・・・
「いい加減にしてくれない?私のレオルドが、そんなに簡単に誰かを好きになるわけがないじゃない。」
え?張り合うの?とは突っ込まない。
実はイレーナは、4人のお嫁さん達の中で一番愛が深い。
ヘレナが言うには、普段のツンツンした態度からは想像が付かないほど俺の事を思っているらしい。少し恥ずかしいけど・・・・・・
というかこの交渉、一応世界の運命を決定付けるかもしれない重要な交渉なんだけど・・・・・・
緊張感どこいった?
俺とフィーナをスルーして、女王とイレーナの論争は徐々にヒートアップしていった。
「いい加減にして下さい、お姉様。」
「フィーナっ!私は、その・・・・・・」
「そろそろ本題に入りましょう。」
「わ、わかりました。」
「イレーナも一体落ち着いてくれ。」
「わかっているわよ。」
俺とフィーナの仲裁によって、2人の論争は止まった。完全に止まるために、俺達4人はそれぞれ紅茶を1杯飲んで一息つく。
「じゃあ改めて、俺はこの交渉で、これからの世界の行く末について話し合いたいと思う。」
俺は、大真面目にそう宣言した。
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どうでもいい話
最初のうちは、大真面目な交渉を書いていたんだけどね・・・・・・
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