第17話 波乱

「これでひとまず終わりか・・・・・・」


【はい、終わりと言っても差し支えないでしょう。大陸西側における問題は、ミクロな視点ではまだ残っておりますが、マクロな視点で見れば、文字通り全て終わりました。】


実体モードとなったアイは、俺の隣に腰を下ろしながら答えた。身にはいつもの際どいメイド服をまとい、ちゃっかりと俺に寄り添っていた。

アイは体重の調節が可能らしく、しっかりと彼女の存在を感じられる。


「付近に敵は居ないか?」


【はい、私が観測できる範囲に、マスターの害となるような存在はいません。】


「じゃあ引き続き周囲の警戒を頼む。」


【了解です、マスター】


過剰防衛かもしれないが、今や俺も結構な重要人物であるわけで、色々と恨まれている可能性があるので念のためだ。


「何か久しぶりに暇な時間が訪れたな・・・・・・やっと肩の荷が降りた気分だ。」


【まだやらなければならない事はたくさんありますけどね。】


さっさと家に帰って、久しぶりの温泉に浸かりたい気分だが、こんな所に温泉なんかある訳ないし、マルカト城内のお風呂を使うのもちょっと危ないので辞めておいた。

暗殺されるような事は無いと思うが、娘を俺の嫁にしようと考えた貴族たちが大量に自分の娘を俺の下に送りそうだからだ。

これ以上嫁が増えるのは流石にまずい、多くても後1人か2人だろう。それ以上は本当にまずい気がする。


「はぁ〜ほんと俺って、働いてばっかな気がするな〜前世の記憶を1ミリも覚えてないけど、前世の俺もこんな感じだったのかな〜」


【マスターはこちらの世界に転生する直前までは20歳だったわけですから、就職していた可能性もありますが、おそらく大学生では?】


「確かに・・・・・・ならレポートに追われていたのかな〜」


思えば、前世の話をするのも久しぶりな気がする。転生してすぐの頃は、色々と思い出そうと頑張ったが、どうしても全くと言っていいほど、思い出さなかった。

それに・・・・・・


【はい、前世ではおそらく私は存在しなかったのでしょうから、自力で頑張っていたと思います。】


アイの記憶があるのは、俺がお母様のお腹の中にいる頃からだ。つまり、前世ではアイという存在はいなかったかもしれない。

だから何となく、アイのいる前で前世の話をするのは避けていた。

もしかしたら、アイという存在を忘れていただけなのかもしれないが、本当の事はわからない。


「じゃあ、前世の俺はどんな人間だったのかなぁ・・・・・・」


【予想ではありますが、努力のできる天才だったと思いますよ。】


「え?天才?俺が?」


そろそろ前世の話は辞めて、今後のことを話し合おうと思ったが、アイのコメントに思わず驚いて聞き返してしまった。

普段、ほとんど俺を褒める事がないアイの口から出た言葉とは思えなかったからだ。


【はい、まずはこの世界への適応力がとてつもなく高い点です。私のサポートがあるとはいえ、マスターのこの世界への適応力は驚異的です。仮に、マスター以外の人類が同じような立場となった場合でも、ここまでの成長を見せる事はとても難しいです。】


「そうなのか?」


【はい。例えば、物語の外の世界の住人が、物語の主人公と入れ替わったとして、その主人公が無事にヒーローもしくはヒロインと結ばれる可能性はかなり低いです。】


「なるほど、確かにそうかもな。台詞はトレースできても、表情や行動、癖なんかはトレースできないもんな。」


アイが言いたい事も理解できる。まぁだとしても、そこがフィクションの面白さといった所だろう。

現実ではあり得ない事、あり得そうな事を文字や絵にして、視聴者や読者を楽しませる。


【そして、マスターにはもう一つ才能があります、それは私自身の存在です。】


「どういう事?」


【マスターの記憶と照合した結果、前世における人間とこの世界における人間に大きな差が無いように感じます。もちろん、DNAや骨格などは違うと思われますが、脳の大きさや思考回路に大きな差は無いように思われます。】


「あ、そういうことか。」


【はい、私という存在を1つの脳でコントロールしている事になります。今の状態で言えば、何一つ不自由なく2つの身体を同時にコントロールしているという事になります。感覚といのは、視覚だけではありません。視覚、聴覚、触覚、嗅覚、味覚の五感に加えて、魔力を感知する第六感、そして、それらの情報を記憶し、命令を行っているのは、紛れもなくマスターの脳です。】


「確かにそれはすごいな。」


【はい、普通ならば処理が追いつかなくなり、稼働可能領域に制限がかかるか、最悪の場合は脳が麻痺します。しかしマスターの場合は、超人的な演算を行ったとして全く疲労を感じておりません。少しアホなところを考えても、十分天才と言えるでしょう。】


「最後の一言は余計だわ。」


その時、俺の頭にある一つの面白い仮説が浮かび上がった。


「じゃあアレだな、ここも物語の中の世界なのかもしれないな。」


【そうだとしたら、面白いですね。】


そこまで思考を加速させて、やがてこの思考の先に未来は無いと判断した。

何故なら、こちら側から外側の世界にアクセスできないし、そもそもそのような存在が本当にあるかすらわからない。

思考を辞めた俺は、ちょうど隣にあった柔らかそうな膝の上に寝っ転がった。

相変わらずここは最高だ。


そして、余計な事はあまり考えずに、気楽に行こうと考えた。




「あーー万事解決だぁーーー!!!」



何かが吹っ切れた俺は、思わずバンザイした。

とりあえず自分に、おつかれ様という意味も込めて。

すると、何処かから聞こえるはずの無い声が複数聞こえた。



「まだ解決していない重要な事が残っているわよ、レオルド」

「レオルド様、しっかりと説明して欲しいです。色々と、詳しく。」

「レオルド様、そちらの方はどなたですか?」

「・・・・・・」




「・・・・・・」


イレーナ、ヘレナ、ユリア、クレア、全員集合であった。イレーナはいつも通り、ヘレナは少しご機嫌斜め、ユリアは困惑、クレアは無言だった。


おい、周囲に誰か来たら知らせてくれるんじゃなかったのかよっ!


【敵ではないのでスルーしました。ご安心下さい、マスターとの会話は全て皆様には聞こえないようにしてあります。】


というか、まだ重要な問題が残ってたじゃねーかよっ!


【ミクロの視点であれば、まだ問題は残っていると説明したはずですが・・・・・・】


・・・・・・確かに言っていた気がする。


「あ、あ〜これはだな・・・・・・というか何でクレアまで付いてきているんだよ。」


「私がいてはダメでしょうか。」


「・・・・・・まぁいいや。じゃあ戻るか。」



「まだ話は終わってないわよっ!」

「まだ話は終わってないですよ。」

「まだ話は終わってませんっ!」



あ、あ〜何とかして、アイ。


【これだけは、マスターの手で解決すべきかと。頑張って下さいませ、天才マスター。】



はぁ・・・・・・

まぁ頑張りますか。






______________________________


これにて、第7章『統一編』は終了です。短いようで奥が深い第7章はいかがだったでしょうか。


え?全然統一できていない?


そこはほら、アレです。いつものやつです。


では、次章『追究編』も引き続きよろしくお願いいたします。次回更新は、おそらく2日後です。お楽しみにっ!



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