第14話 父親
結局、国王陛下は俺の要求を両方とものんだ。もちろん、ここにいる全員が俺の目的には気付いているようであったが、王国側が断れるわけがなかった。
賠償に関してはこれで手打ちとなり、続いて捜査権についての話になった。
王都内で起きた事件という事もあり王国としても無視できない話であったため、合同捜査が行われる事となった。ただし、まだSHSにしか持たせていないハンドガンとその銃弾については回収させてもらった。
このハンドガンには、ハーンブルク領の中でも最高峰の技術が組み込まれており、漏れるわけにはいかない内容も含まれていたからだ。
また、首謀者の炙り出しは王国が主導となって行われる事となった。サーマルディア王国内の貴族や商会のパワーバランスについては、向こうの方が詳しいので任せる事にした。
代わりに、実行犯の捜査についてはSHSが担当する事となった。諜報機関としての能力は、こちらの方が圧倒的に上だ。
「というわけでもう帰っていいよ、クルト」
「ちょ、酷くない?」
「え、だってもう用は無いし。」
「僕も当事者の1人だ。最後まで協力させてもらうよ。」
「・・・・・・手伝ってくれてもいいが、国王にはなれないぞ?」
クルトを国王にする必要は無くなった。それどころか、サルラックが国王になった方が都合が良い。それが俺とアイの出した結論であった。
「別に僕は、最初から国王になりたいだなんて思っていないよ。ただ僕は君たちの兄として、君たちを守りたいと思っただけだよ。」
「そうか・・・・・・。なら是非とも協力してほしい。」
国王の、サルラックに王位を譲りたいという発言、これに嘘は無かった。
だが決して、何処かのお父様のように遊び呆けたいという意味では無かった。むしろその逆、サルラックを自らの操り人形にする事で、サーマルディア王国内の中央集権をより強固な物にしたいと考えたのだろう。つまり、ハーンブルク家の除外、これが今回の件の最大の目標だったのだろう。
もし仮に、ハーンブルク家が外国になった時、一番得をするのは誰か、それはもちろんサーマルディア王国の王宮だ。外国という括りになれば、貴族は勝手に取引をする事はできなくなる。つまり、ハーンブルク領とのあらゆる取引をコントロールできるという事だ。
もちろん、ハーンブルク領がサーマルディア王国との取引を一切しなくなるという可能性もあるが、俺の正妻はサーマルディア王国の元王女だ。関係を断つ事なんてあり得ない。
推測だが、そう考えていたのだろう、少なくとも先程の会議が始まるまでは。
【ですが、先程のヘレナ様とイレーナ様の発言によって、彼らは考えを改めたと思われます。自分の娘は、父親である自分では無く、夫を選ぶようになった、と。】
俺の国王を挑発するような発言、あれはアイの指示だった。ヘレナとイレーナの口から、はっきりと本音を引き出すためのトリガー、全てはこの状況にもっていくための布石であった。
【政略結婚、恋愛に発展してしまえば、その意味を成しません。むしろ、手痛いしっぺ返しを食らう
2人が選んだのは、父親ではなく俺の方だったという事だな。
【しっかりと惚れられていますね。】
まぁ今回の勝負も俺の勝ちだったな。
何故、今回の事件の首謀者を特定するのを王国に任せたか、それには理由があった。
まさか誰も、ハーンブルク家邸を襲撃するように仕向けた首謀者が、俺自身とは気付かないだろうからだ。
【正確には、私が考案し、実行した作戦ですけどね。】
いいんだよ、そこは。
今回アイには、犯罪者グループにハーンブルク家襲撃の依頼をする役をしてもらった。
ヘレナとイレーナに隠し事をするのは少し心苦しかったが、作戦は完璧と言っていいだろう。
【作戦は完璧でしたね。計算違いがあったとすれば、エリナ様の怒り具合でしょうか。】
あー確かに、あれは怖かったな。
やっぱお母様を怒らせちゃだめだな。
*
翌々日
「レオルド様、こちらが新型の時限式爆弾でございます。」
「おぉ〜これがか。意外と重いんだな。」
試しに持ってみたが、思った以上に重かった。俺はあまり詳しくないので、どの種類の爆弾かはわからなかったが、強力そうな見た目をしていた。
「思う存分吹き飛ばしてくれ。こいつらをどう始末しようが、王国は文句を言えないようになっている。」
「了解でありますっ!レオルド様っ!」
「SHSの維持にかけて、やり遂げます。」
「ファイヤーっ!燃やせ燃やせ〜!」
何か1人、危なそうな戦闘メイドがいた気がしないでもないが・・・・・・
うん、きっと気のせいだろう。
お母様に言われて話し合いの時お留守番役になった俺の嫁とは別人なはずだ。
「終わりだな、これで。」
アイは証拠をいっさい残していないし、拠点を爆破してしまえば、もはや後追いは不可能だ。
これは最初から、勝ちが約束されたゲームなのだ。
犯罪グループは、証拠とともに跡形も無く消えた。
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どうでもいい話
全ては、騙された方が悪いのだ。
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