第13話 責任

サーマル王城の一室に、サーマルディア王国の中でもトップクラスの重要人物が揃っていた。


「じゃあ、さっさと始めるか。」


「うむ、役者は全員揃った。始めるとしようか皆の衆。」


話し合いは、緩やかに始まった。テーブルのこちら側半分の上には、俺も良く知るハーンブルク領発祥の菓子が並べられていた。おそらく、ハーンブルク領に所属する商会の何処かが出店したやつだろう。

一体誰がこんなものを・・・・・・

って1人しかいないよな。

そう、俺の隣に座り、何も喋らずに菓子をつまんでいるお母様だ。

俺が襲撃されたという話を聞いて、朝一番の列車でシュヴェリーンを出発して王都サーマルへやって来たらしい。顔は笑っているが、目が笑っていない。そして何より、怖い。

おいおい嘘だろ?

こんなに怖いお母様、見た事ないぞ。


「じゃあまずは、私の方から今回の件の経緯を説明させていただきます。ハーンブルク時間でいう所の昨日の午前3時頃、王都内のハーンブルク邸が犯罪者グループに襲撃される事件が発生しました。結果として、ハーンブルク側の被害は屋敷が少し壊れた程度、そして襲撃を行った実行部隊の構成員は全員死亡。また、ハーンブルク邸周辺に配置されていた護衛の内15名が死亡、半数以上が重軽傷を負う結果となりました。」


国王の後ろに控えていた秘書官のような男が、淡々と事実だけを述べた。一つも間違っていないし、指摘はなかった。


「サーマルディア王国としては、ハーンブルク家に対して謝罪させていただきたいと思います。つきましては・・・・・・」

「つきましては?まずは王国としてだけじゃなくて、国王本人の謝罪が先ではありませんか?」


司会の進行役を遮って、お母様が声を掛けた。

嘘だろ?相手国王だぞ?

俺は、内心冷や冷やしながらお母様を見ていた。一応は所属国の国王なのだが、お母様は一歩も引く様子は無かった。


【流石、女傑と憧れたお方なだけありますね。胆力が高く、想像以上に迫力があります。これが息子を思う母親の力なのでしょうか。】


そう言えば、聞いた事がある。お母様が、『女傑』と呼ばれ人々から恐れられる理由を。

当時、お父様と結婚をする前のお母様は、たった1人で国王に抗議した過去を持つ。その逸話はかなり有名で、物語にもなっているらしい。


「そ、それは・・・・・・」


「違いますか?国王陛下。」


「ふむ・・・・・・確かに、其方の方が正しいな。」


お母様の眼力によって、サーマルディア王国側は国王本人以外は何も言えない状況になっていた。文字通り、独壇場であった。


「王都の安全を守るのは国王の責務だ。レオルド殿、其方を危険に晒してしまった事、国王として深く詫びよう。すまなかった。」


国王は王冠を脱ぐと、深く頭を下げた。

果たして一国の王が、ここまで深く頭を下げた事が過去にあっただろうか。

それも、ただの謝罪じゃない。相手は所属国の貴族、つまり明らかな格下であった。


「謝罪してくれている所悪いけど、俺は謝罪とかいらないから。あんたが頭下げても、嬉しくない。」


【マスターもマスターですね・・・・・・】


いやいやだってさ、おっさんの謝罪なんて需要無いでしょ、正直。


【・・・・・・しっかりとお母様の血が流れているようです。】


まぁ、否定はしないかな。

処世術は、お母様に教わったと言っても過言じゃないし・・・・・・


俺の発言に、誰もが驚いた顔をしていた。驚いていないのは、お母様とヘレナの2人だけ。

お母様だけは、ずっとにこやかに笑っていた。


「俺が求めているのはどう責任を取るか、だ。国王の謝罪一つで、許せるわけないだろ?」


「私も、謝罪一つではお父様を許せそうにありません。下手を打てば、私たち全員亡くなっていたかも知らないんですよ?」


「ヘレナ・・・・・・」


国王陛下は、自身の娘の発言に驚いた顔をしながら、彼女を見つめた。もしかしたら、これがヘレナの初めての反抗かもしれない。


「私も、自分や自分の夫が危険に晒されて黙っていられるほどいい子じゃないわよ。」


「イレーナ・・・・・・」


イレーナも、大きく目を開きながら自身の父親に訴えた。彼女の睨みも、中々にインパクトがある。机の向こう側に座る国王、宰相、秘書官の三人衆は、すっかり怯えてしまっていた。

ちなみに、机のこちら側には俺、ヘレナ、イレーナ、お母様、そして何故かクルトがいた。


うん、何でこっち側にいるの?

君向こう側でしょ?

え?こっちがいいの?


【どうやらクルト様は、エリナ様と対峙したくなくてこちら側にいるようですね。】


まぁ確かにそれは共感できるかも。俺もお母様と対立とか無理だわ。


「で、ではどのように・・・・・・」


「そうだな。正直言って俺は、今のサーマルディア王国に求める事は何も無い。」


俺は、そうはっきりと告げた。

遅れながら、俺はもう一つハーンブルク王国誕生を阻止する策を思いついたのだ。クルトを国王にする方法ばかり考えていたが、何も彼を国王にする必要は全く無い。確かに確実な方法ではあるが、それ以外にも道はあるのだ。


それは、執行猶予を設ける事だ。


「故に俺は、『西方統一同盟の加盟国が国家元首を変更する場合、加盟国の過半数の承認を必要とする』『西方統一同盟の加盟国が新たに建国する場合、加盟国の過半数の承認を必要とする』という2つの国際法を新たに追加させていただこうと思う。」


つまり、ハーンブルク王国誕生を防ぐと同時に、サルラックが国王の誕生も防いだというわけだ。後は、何かと言い訳をつけて東方亜人協商とのいざこざが終わるまで待ってと言えば、10年ぐらいは稼げる。


我ながら、ヤクザみたいなやり方だが、成立はしているはずだ。


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どうでもいい話


わ〜い、ないせいかんしょ〜

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