第12話 処理

「結構やられたな・・・・・・」


「私たちが全員無傷だった事ぐらいしか、喜べる事が無いわね。」


襲撃から30分もしないうちにサーマル内で諜報活動中であったSHSメンバーが応援に駆けつけてくれたので、直接俺が引き金を引く前に片付いた。追撃に備えた俺たちは、交代で休憩を取りながら常に臨戦体制のまま一夜を過ごす事にした。

そして太陽が昇り始める頃、サーマルディア王国騎士団がやって来た。SHSと比べると来るのがかなり遅かったが、まあそこは責めてもしょうがない。俺たちはそのまま騎士団の事情聴取を受ける事になり、遺体や負傷者の処置が行われる事となった。

結局、95人の暗殺者グループは全員死亡、クルトが雇った100名の護衛の内15人が死亡し、半分以上が怪我を負った。

後から聞いた話によると、今回俺の屋敷へ襲撃を行った暗殺者グループは、王都でも名の通ったグループらしく、騎士団の者達は驚いた表情をしていた。

それでも、護衛達の中には犠牲者が出てしまったが、ハーンブルク組が全員無事であった事を喜ぶべきだろう。


「サーマルディア王国の騎士団が捜査してくれるみたいだが、SHSの方でも進めといてくれ。」


「既に、敵のアジトと思われる場所の特定は済んだおりますが、いかが致しますか?」


「リストアップしていたのか?」


俺が、昨夜の戦闘によって生じたと思われる弾丸の跡を眺めながら考え込んでいると、SHSのサーマル支部長に任命した男が、俺の下へとやってきていた。若いが腕は一流で、サーマルディア王国内の諜報活動の指揮も取っている彼は、今回の事件についてSHSが掴んだ事を端的に告げた。

俺は、頭の中で整理しながら、シナリオ全体を考察する。


「はい、サーマル王都内の犯罪組織は基本的にリストアップが済んでおります。話し合いの結果、攻撃命令は出されませんでしたが、主要メンバーの調査などは完了してあります。」


「攻撃したい気持ちはわかるが、ここはサーマルディア王国だ。向こうから要望が無い限り、勝手に何かをするのは問題がある。こちらからできるのは、情報提供と嫌がらせぐらいだ。」


報復攻撃したい気はやまやまだか、残念ながらそれはできない。まずは王国に責任を追及が先だ、絞れる所からしっかりと絞ってからだ。

それと、今回の件には首謀者がいるはずだ。だからその特定もしなければならない。


「了解しました。部下にも、報復は無しと伝えておきます。それで、嫌がらせというのは?」


「聞きたいか?」


「はい、お願いします。」


「敵のアジトを、爆弾の実験場にさせてもらうんだ。」


「なるほど、まだ運用データが足りていない爆弾の、ちょうど良い標的にさせてもらうという事ですね。」


「もちろん、痕跡は残すなよ?それと、何人か捕まえて、首謀者を吐かせなきゃいけないから、全員は殺すなよ。」


「了解致しました。すぐに、シュヴェリーンから取り寄せます。」


そう告げると、彼らは納得して帰っていった。

流石に不味かったかな〜と思いつつも、王国側が文句を言えるはずがないだろう、と自分の中で納得する。

確か先日、ハーンブルク研究所の軍用兵器研究部門が、新型の爆弾の開発に成功したという話を聞いた覚えがある。まだ、実験は数回しか行っていないはずなので、これがちょうどいい実証実験になるかもしれない。


「良かったの?あれで・・・・・・」


「あいつは優秀だが、アインと同じぐらい愛領者だからな。暴走するよりはずっといい。」


「このままじゃきっと、王都の地図が変わるわよ。」


隣へとやって来たイレーナは、彼の背中を見ながらそんな事を呟いた。

いやいや、流石に地形を変えちゃうほどの爆発力は無理でしょ、とは突っ込まないでおく。でも、アジトが壊滅するぐらいなら普通にあり得そうな話だ。まぁ、やり方は彼らに任せる事にしよう。

そんな事よりも、俺たちには俺たちにしかできない事をやらなきゃいけない。


「そっちはSHSに任せて、俺たちはさっさと王城に行くか。」


「それもそうね。お父様には、覚悟してもらうわ。」


「っ!」


「何よっ。」


「あ、いや、イレーナがこっちよりだなーって思って。」


「私はあなたの妻なのよ?当たり前じゃ無い・・・・・・やっぱ今の無し。」


急に恥ずかしくなったのか、途中で彼女は目線を逸らした。顔が若干赤くなっていて可愛い。

その様子を見て、彼女の幼馴染は微笑みながら後ろから彼女に抱きついた。


「ふふふ、可愛かったですよ、イレーナ。」


「ちょ、ヘレナっ!」


イレーナは、慌てながらヘレナを受け止めた。


「さぁ行きましょ、私もレオルド様の妻として、お父様に抗議をしなければなりませんので。」


そう答えるヘレナの顔は、とてもかっこよかった。





その頃王城では、ハーンブルク家の屋敷が襲撃されたという情報が、人々に恐怖を与えていた。

一応は同じ国に所属する仲間ではあるが、ハーンブルク領ははっきり言って外国とそう変わらない。

つまり、未遂とはいえ、自国の犯罪者グループによる襲撃を許してしまったのだ。


そしてその情報はもちろん国王の耳にも・・・・・・


「それは、本当の事なのか?」


「はい。既に、派遣した騎士が確認しております。幸い、ハーンブルク家の者に被害は出ませんでしたが、クルト様が雇った護衛が十数名殉職したという報告が届いております。」


「何という事だ・・・・・・」


国王は、思わず頭を抱えそうになった。それほど、問題であった。


「即刻、首謀者を特定して吊し上げろっ!これは、最優先事項だっ!それと、レオルド殿に謝罪がしたい、王城に来るように命じておいてくれ。」


「承知しました。では・・・・・・」


部下が出て行った後で、国王は静かにため息を吐いた。


「どうして、こんな時に・・・・・・。」


今までの人生の中で、最も目覚めの悪い朝かもしれない。


____________________________________

どうでもいい話


国王「胃が痛い・・・・・・」

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