第4話 告白

 国家を運営する上で最も大切な事は何か、様々な候補が上がるが、実際に国を運営した俺が思うにやはり『金』、ではなく『教育』だと考えている。やはり、国の未来を担うのは子供達であり、彼らが成長できる環境を整えるのが俺の仕事だと考えている。そのためにも、新たな教育システムが必要だった。

 新婚旅行から戻ってきた俺は、早速教育制度の改革を始めた。手始めに、義務教育の無償化と新たな高等学校や連邦立大学を大量に建てた。幸いなことに、ハーンブルク連邦には大量の金があった。そもそも今は高度経済成長期の真っ只中であり、投資をすればするほどお金が湧いてくるような状況だ。このような絶好の機会を逃すわけにはもちろんいかない。


「レンの相棒、か・・・・・・」


【レン様にも、マスターにとってのヘレナ様のような心の支えとなる人物が必要だと考えております。】


「そういえば、ヘレナと出会ったのは6歳の頃だったよな・・・・・・」


「はい、レオルド様が6歳、私が8歳の頃の話だったと思います。」


 アイに言われて、俺は思わず手を止めてしまった。これからは教育に力を入れると宣言した以上、レンを支える相棒を見つけ出して育てる事は避けては通れない道だ。


「レンはまだ4歳になったばかり、早すぎるんじゃ無いのか?」


【はい、ですので今回は、あくまで準備段階でございます。実際に一緒に暮らさせてみて、仲良くなれば将来的な婚約者、または側近にするのがよろしいかと。こちらが、リストでございます・・・・・・】


 そういうと、アイは俺とヘレナに対して1束の冊子を渡した。表には極秘と書かれており、中にはレンと同じぐらいの名前の子供の名前と出身、親の職業や経歴についての情報が書かれていた。紙を一枚ずつめくり、それぞれに目を通した。そこには、政治的な理由ではなく能力や人柄によって選出されたメンバーが揃っていた。ちなみに、女の子の方は全員年上だった。


【親子で女性の好みは似ると言われていますので、レン様もマスターと同じように年上好きになると予想しましたが、余計でしたでしょうか。】


 ・・・・・・ノーコメントで。


【では、変更は無しで行きますね。】


 レンの正妻ということはすなわち、ハーンブルク連邦王国の次期王妃になるということだ。当然、選出は慎重に行わなければならない。ここで間違えば、それはひとえに立憲君主制のダメなところが浮き彫りになってしまう。


「なるほど、本当にエリート教育を叩きこむということか・・・・・・」


「あのアイさん、リストにはサクラやアオイといったレンにとっては腹違いの兄妹も含まれていますが、大丈夫なんでしょうか。」


【ご安心を、私の方で遺伝子の調整は既に行なっております。レン様がどなたを選ばれるかは分かりませんが、どなたを選んだとしても最善の結果となるように善処いたします。】


 この世界の貴族たちは、全員このように息子や娘の相手に頭を悩ませているのだろうか。

 考えるの面倒だから、ってことで王制を俺の代で終わらせる事も考えたが、残念ながらその選択肢は選べない。この国はまだ歴史の浅く、俺とアイの力でなんとか支えているが、どこかで破綻して内側から崩壊してしまう可能性もゼロじゃない。ならば、俺はより安全で確実な方を選択する。

 俺と、レンやハーンブルク連邦を担う次世代のリーダーたちの決定的な違いは、アイの有無だ。たまに忘れそうになるが、俺は前世の知識がある転生者であり、アイというアドバンテージがあったからこそ、ここまでの成功を得た。アイによる遺伝子操作が使えるのはレンの世代までで、それ以降の子達に関してはチートは使えない。

 だからこそ、俺はこの国を完成させる必要がある。

 何年かかるかはわからない、だけどそれが、俺の目標だ。

 創った者には、創った責任があるのだ。


「そうかそういえば、まだあの事は話していなかったな・・・・・・」


【そういえば、伝えていませんでしたね。】


「なんの話ですか、レオルド様?」


 そういえば俺は、自身が転生者である事を自分以外の誰かに話したことがない事を、今更ながら思い出した。自分の事に精一杯で、打ち明けることをずっと後回しにしていた。だが、もう後回しにする理由は無くなったように思えた。


「ヘレナだけには、伝えておこうと思う。」


「なんでしょうか・・・・・・?」


 話すと決めたはずなのに、土壇場になって言葉が出てこなかった。連邦市民への演説ならいくらでも思いつくのに、何と言えばいいのかわからない。

 俺は、緊張しているのだろうか。


「離したくないなら話さなくても良いですよ、レオルド様。貴方様がどのような秘密を持っていたとしても、私は貴方様を支え続けますから。」


「ヘレナ・・・・・・」


 先ほどまで紅茶を乗せていたおぼんを机の上に置いたヘレナは、後ろからゆっくりと俺に抱きついた。彼女は俺に甘えるのが上手だ。どこのお母様が入れ知恵しているのかはわからないが、俺のことをよくわかっている。

 大きく深呼吸をした俺は、伝えなければならないことを全て伝えた。

 これは、お母様にすら言ったことがない話だった。

 言い訳はせずに、事実だけを淡々と、もちろんそこにはアイの事も含まれていた。


「・・・・・・と、いうわけなんだ。」


「そうでしたか。」


 一通り説明すると、ヘレナは何かを納得したように頷いた。

 少し間が空き、不安になった俺はヘレナに尋ねた。


「幻滅したか?」


「そんな事、するわけないじゃないですか。ただ、どうせならもう少し早く伝えて欲しかったですかね。」


「そ、それはすまん。」


「ふふふ、良いですよ。むしろ知れてよかったとさえ思っております。夫の事は全て知りたいと思うのが妻というものですし、私はレオルド様の事を心から愛しております。この気持ちは、一生変わりませんよ。」


 ヘレナは、俺を安心させるような言葉を発した。それだけで、俺は少し安心を覚えた。俺は案外、単純な人間なのかもしれない。


「ところでレオルド様、アイさんに力を借りれば遺伝子レベルでのコントロールが可能なんですよね?」


「あ、あぁ、可能だな。」


「では、それを今夜私に証明してください。」


「え?」


「可愛い女の子をお願いしますね、レオルド様。」


流石の俺も、彼女が何を言おうとしているのかはすぐに理解できた。


【ファイトです、マスター】


 おいおい・・・・・・


 _______________________________

 どうでもいい話

 今日改札で通れませんされた。

 何気に初めてかも。

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