第3話 露天

「はぁ〜〜」


【お疲れのようですね、マスター】


「あぁ、今日はだいぶ歩き回ったからな。」


 フォルテ観光を満喫した俺たちは、日が暮れたためフォルテの中心であるファルティオン城へと戻ってきた。ここは、元々はリーシャやフィーナの家であった場所であり、現在ではファルティオン州の州政府が設置されている。ちなみに、ここファルティオン城はハーンブルク連邦唯一の城であり、城勤務ができるという事でシュヴェリーンから派遣された役人には結構人気であった。


「フィーナの行動力が高い事は知っていたが、まさか展望デッキに露天風呂を作っちゃうとはな・・・・・・」


【流石、ハーンブルクとの決戦を避けるために国を飛び出して行動しただけはありますね。】


「あぁ、そうだな・・・・・・」


 ファルティオン州で最も高い建造物であり、フォルテを一望できるこの場所からは、ハーンブルク領から大量に輸入された電灯の明かりがよく見えた。そんな最高の夜景が楽しめるこの場所に、フィーナはいつのまにか露天風呂を作っていた。リーシャがやった可能性もあるが、こういう事をするのはたいていフィーナの方なので、おそらく彼女の仕業だろう。

 まぁ、ここは彼女達の城だから文句は無いし、こうして俺も楽しんでいるが・・・・・・


【相変わらず好きですよね、お風呂。】


「疲れた時に浸かるお風呂は格別なんだよ。これだけで生きていける気がする・・・・・・」


【残業終わりに銭湯に向かうサラリーマンのようなセリフですね・・・・・・】


「まぁ実際、事実上の大陸制覇は達成したわけだしな、あながち間違ってないかもな。」


 コンストリア帝国の首都陥落の知らせを受けて、今まで様子見を貫いていた国や民族の多くが、世界統一同盟への加入を希望した。これにより、審査が通れば全体の9割以上が世界統一同盟へ加入した事になり、俺の目標であった長期的なハーンブルク連邦の絶対的な優位性を確保するという目標は達成された。この状況からハーンブルク連邦に対して反抗を企てたとしても、おそらく簡単に鎮圧が可能だと考えられている。世界中にある軍事基地によって、仮にハーンブルク連邦やその他の世界統一同盟が攻撃された場合、72時間以内の報復攻撃が可能な体制が整えられている。


「これで終わり、なんだよな・・・・・・」


【お疲れ様でした、マスター】


「ここまでざっと20年か・・・・・・世界統一RTAがあったらランクインできるかもな。」


 これでやっと、軍事的な手段を直接使わなくてもいい世界が来たかのかもしれない。もちろん、恒久の平和ではない。俺がお爺さんになって表舞台から姿を消した頃のことはもちろんわからないし、俺が死んだ後のことまで面倒は見れない。だが、俺が第一線で活躍している間は、よほどのイレギュラーがない限り平和を維持できる状態を作り出した。


【マスターが最初に提唱していた、ハーンブルク連邦の絶対的な有能性は確立しました。次の目標とかは考えているんですか?】


「次の目標か・・・・・・」


 続く言葉が出なかった。俺は目の前の事で精一杯でこの先の事を何一つ考えていないことに気付かされた。大きな目標が達成されたのと同時に、何かを失った気がした。それはいい事でもあり悪いことでもあった。

 だから俺は、思わずこう答えた。


「とりあえずは、休憩かな。」


【直接的な干渉は控えめにして、間接的な干渉に切り替えるという事ですか?】


「あぁ、ここからは俺というイレギュラー抜きの状態での、ハーンブルク連邦の国としてのレベルを高めたいと考えている。」


【なるほど・・・・・・。いい判断だと思います。】


 今回俺は、戦争終結のためにコンストリア帝国の帝都までわざわざ赴いたが、このような重要な判断を任せられる優秀な外交官の育成を考えていた。もちろん、欲しいのは外交官だけじゃない。政治家や経済学者、それからハーンブルク連邦の将来を担うリーダーの育成が必要だった。

 そしてもう一つ、次期ハーンブルク国王であり俺の息子でもあるレンを支える存在の育成が求められた。


「正直方法は、まだ思いついていない。だけどこれが俺の進むべき道であり、道が続いている限り、俺は前に進む。」


【・・・・・・】


「これからも頼むぞ、相棒。」


【yes、マスター】


 その後も、俺はファルティオン州での新婚旅行を楽しんだ。


 _________________________________

 どうでもいい話

 終わりが見えてきてしまった。

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