第3話 獣人
「報告しますっ!各戦線で我が軍は勝勢、敵の防衛部隊をものともせず、支配領域を拡大させているとの事ですっ!」
「報告ご苦労、下がっていいぞ。」
「はっ。」
「やはりこうなったか・・・・・・」
獣人、亜人の一種でここゼオン獣王国の90%以上が獣人に分類されている。
ただし、見た目は違うものの身体能力に関しては俺たち人間と比べても、実はあまり変わりはない。
猛獣の尻尾や耳などによって、多少三半規管が強化されてはいるものの、人間の身体能力の限界を超越するレベルの動きはできない。
例えば、ハーンブルク軍のメイン装備である『M-3』の弾丸はもちろん貫通するし、それ以外の兵器も有効だ。
だが、身体能力以外であれば違う所が無い事もない。
例えば文化、より同族を大切にし、自分自身の命よりも仲間の命を守ろうとする心は亜人の精神面における特徴とも言える。
そしてもう一つ、人間とは大きく違う点がある。それは、魔力持ちや魔法使いの多さだ。実際に統計を取ってみないと詳細な数値はわからないが、人間に比べて3〜5倍ぐらいとかなり多い。
だが俺たちは、そんな魔法使い達に対して、一方的な戦闘を行っていた。
「魔法使いだけの部隊がいると聞いて、幼い頃にどんな興味を持ったが、これでは興醒めだな。」
「えぇ、はっきり言って、相手にもなりませんね。敵は、少数で分散しながら防衛しているようですが、正直紙同然の防御力です。これならば、予定通りに敵の王都を制圧できると思われます。」
「油断しないように行くぞ・・・・・・」
「わかっております、レオルド様」
亜人の特徴でもある魔法に対して絶対の自身があったのか、自信満々に防衛陣地を築いて守りを堅めていた彼らであったが、俺たちは思ったよりも簡単にそれらを捻り潰す事ができた。
戦闘は、全ての戦線で圧倒的な戦力差を見せつける展開になっていた。ライフル銃との戦闘経験が無い彼らは、反撃するどころか対応する事すらできていなかった。
また、亜人がどのような行動をしたとしても、たった1つのイレギュラーを除いて、この圧倒的な差を覆す事は不可能だという事は既に研究されていた。
ゼオン獣王国への強襲上陸に成功したハーンブルク軍は、陸の上でも海の上でも大勝利を収めていた。
ハーンブルク軍の勢いは止まらず、海岸線の制圧とともに事前に情報を入手していた地図をもとに次々と要塞や都市を陥落させ、最大の目標であった王都あともう少しという距離まで迫っていた。
初めての亜人との戦いという事で警戒していた俺たちであったが、あまりの弱さに拍子抜けしていた。
だが、事はそう単純にはいかなかった。ハーンブルク軍の陣地に気になる情報が舞い込んで来た。
「報告しますっ!気になる情報を入手しましたっ!」
「なんだ?」
「はい、現在潜入中のエルフ部隊から緊急連絡です、我々が警戒していた『特異体』が獣王国を出発し、ガラシオル帝国を目指して進軍中との事です。」
「な、何だと・・・・・・」
それは、このままいけば、ハーンブルク軍が、大打撃を受けるという報告であった。
俺とアイが、ほぼあり得ないだろうという事で捨てた可能性。
それは、ハーンブルク軍にとって最大の懸念材料であった『特異体』がゼオン獣王国の防御を放棄して、ガラシオル帝国戦に参加する事だった。
この選択は、俺もアイも流石にあり得ないと考えられていた。理由はもちろん、国内の防御力がほぼ0になるからだ。ハーンブルク軍のライフル銃に対抗しうる武器が無い以上、わざわざ自国領を開け渡すのは合理的ではない。
「それどころではありません、ゼオン獣王国は王国内の90%以上の兵力を注ぎ込んでガラシオル帝国へと進軍しているとの事です。」
「なるほど、俺たちは見誤ったということか・・・・・・」
ハーンブルク軍は、この『特異体』を何よりも警戒していた。これ1つで戦況がひっくり返る可能性があり、唯一ハーンブルク軍のライフル銃に対抗し得るかも知れない存在であった。このような理由から、こいつを止めるために俺とイレーナが前線に出る作戦が立案されていたほどだ。
ハーンブルク軍にゼオン獣王国を攻撃される事を考えて、最大戦力である『特異体』は温存しておくのが当たり前なはずだった。だが彼らは、自国の防御力を捨てて、全力で攻撃していた。少なくとも、俺やアイが絶対に取らない判断だ。
「と、なると・・・・・・」
【マスター、急いでガラシオル帝国へと向かいましょう。このままでは、挟まれる形となります。そうなれば、ハーンブルク軍はかなりの確率で大きなダメージを負う事になります。】
そうだな。
アイ、先行して船の準備をしてくれ。
【了解です。現時点での最速艦である『春雨』を使って、大返しといきましょうか。】
あぁ。
俺は、アイに指示を出すと周りにいた部下達に対しても命令を出した。
「全員聞いてくれっ!これより、第一艦隊に乗っていた者は全員、戦線を放棄して撤退する。行動開始っ!」
「「「了解っ!」」」
俺の指示で、部下達は一斉に動き出した。
俺は指揮権を本国に待機している作戦司令部へと移行すると、およそ1万の兵を連れて撤退を行った。
燃料を気にせず、全速力でガラシオル帝国を目指す。
間に合ってくれ・・・・・・
________________________________
どうでもいい話
難しい・・・・・・
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