第15話 冒険

「とりあえず、これを見て下さい。」


「これは?」


 部下にそう言われて、俺は渡された資料を見た。


「これは・・・・・・島か?」


「はい、ユリウス様が指揮する第一艦隊が、地図に無い新しい島を発見致しました。これは、その略図です。」


 作戦が予想以上に上手くいった事もあり、俺は今まで別室で仮眠を取っていた。そして翌朝目を覚ますと、作戦行動中の第一艦隊が予定していた航路を外れたとの報告が入った。

 何事かと思って聞いてみると、どうやら第一艦隊が新たな島を発見したらしい。俺が仮眠中だったという事で、参謀本部にいた参謀達の判断でその島に上陸する事になった。

 まぁ、俺が起きていたとしても同じ結果になったと思うので、そこは関係ない。

 問題は、新たな島の大きさだ。


「ずいぶんと大きいな・・・・・・」


「はい、ハワフ島と同じか、少し大きいぐらいだと考えられます。既に上陸には成功しており、現在調査中ではありますが無人島だと考えられております。」


「なるほど・・・・・・新たな前線基地にするつもりということか。」


「はい、そうなります。具体的な整備は戦後に行うとして、現在その島を拠点にした新たな作戦の準備を行っております。」


「そうか・・・・・・」


 新たな島の発見、それは願ってもいない幸運な事だった。しかも、艦隊が停泊できる湾もあった。天が俺に味方しているとしか思えない。


「現在、ファルティオン州を経由した物資の搬入計画の準備が行われております。」


「これで、例の作戦を実現できそうだな。」


「はい、我々ものそのつもりでした。」


 コンストリア帝国の海軍は全員降伏し、現在は捕虜としてハワフ島内に囚われているが、俺はその事をまだ世間に公表していなかった。つまり、コンストリア帝国は現在、もう既に作戦は失敗し、全員降伏したとも知らずに天に祈っている状態だ。

 無線通信という、他の国には無いハーンブルク連邦だけが使える特権を利用しない手は無いという事だ。

 戦争は相手の立場になって考える事が重要であり、相手が恐れている事を浮き彫りにし、弱点をつく事は基本とも言える。そして、コンストリア帝国が最も恐れている事はおそらく・・・・・・


【世界からの孤立、ですね。】


 あぁ、俺も同意見だ。


 以前までは当たり前であった、同じ亜人だから、人間に対抗するため、と言った考え方による亜人国家同士の仲間意識は、ハーンブルク連邦の世界統一同盟によって崩れようとしていた。それにより、ある国は周辺国でまとまろうとし、またある国は世界統一同盟への参加を希望した。コントラスト帝国は前者であった。


【ハーンブルク連邦ならともかく、コンストリア帝国は孤立すれば、かなり大変な状況に追い込まれます。そこで彼らは、今回の奇襲攻撃を通して世界における自国の地位を確固たるものにしようと動いたのだと考えられます。】


 となれば、今回の海を越えた奇襲攻撃で、終わりなわけがない。具体的には、作戦行動が可能な海軍は全て遠征に出てしまっているので、陸軍による世界統一同盟への奇襲攻撃だ。

 まだ何処が次の目標になるか、正確な情報は掴んでいないが、海軍と同等かそれ以上の規模での攻撃になるはずだ。しかも、今度はコンストリア帝国だけでなく、第二第三の国が出て来てしまうかもしれない。できる事ならば、そんな事になる前に肩をつけたいと考えていた。


【そこで、本来ならば橋頭堡を確保してから行おうとしていた作戦を、新島を利用して実行しようという事ですね。】


 そういう事になるな・・・・・・

 駒は全て揃っている。あとは、実行に移すだけだ。


「例の部隊を全て、ファルティオン州からその前線基地へと移動させてくれ。それと、コンストリア帝国海軍がハーンブルク連邦のハワフ島に奇襲攻撃を行った事と、ハーンブルク連邦軍がそれを返り討ちにし、撃滅させた事を全世界に公表してくれ。」


「全世界に、ですか?」


「あぁ、そっちの方が都合が良い。」


「なるほど、そういう事でしたか、了解致しました。」


 俺の真意を汲み取った彼は、すぐさま外へと飛び出していった。同時に俺は、ある一人の男を呼び出した。


「お呼びでしょうか・・・・・・」


「あぁ、お前の出番だシェリング。連邦警察を使って、コンストリア帝国内の軍事拠点や政府関係施設がある場所を調べてくれ。それと、ハーンブルク連邦軍は報復攻撃として、海からの上陸作戦を近いうちに行うかもしれないという噂を流せ。」


「了解致しました。必ずや、レオルド様の期待に応えれるよう、最善を尽くします。」


「頼んだ。」


 久しぶりに、俺から直接重要な命令を受けた彼は、少し嬉しそうな顔をしていた。深く頭を下げたシェリングは、音もなくその場から去った。

 あとは、彼からの報告を待つとしよう。


【成功すれば、この世界で最も鮮やかな侵略戦争になるかもしれないですね、マスター】


 いやいや、別に侵略とかしないから。


【マスターにそのつもりが無くても、世間からはそう映るって事ですよ。】


 はぁ・・・・・・

 国王になってから、余計に面倒事が増えた気がする。


【気のせいですね。】


 ______________________________

 どうでもいい話

 昔は2日に1本12時投稿をしていました。

 その頃の私を知っている人は超古参です。


 ちなみに、毎日投稿の頃からの方は古参です。

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