第14話 手順

 ハーンブルク海軍の主力は、初めての近代艦である『レインシリーズ』や、輸送や強襲揚陸艦として活躍『マウントシリーズ』だ。この2艦はすでに量産体制に移行されており、1年で1隻ほどのペースで軍拡と改修を行っていた。そして、今回の作戦の要である航空母艦、まだ1艦しか建造されていないが、いずれは各艦隊に1隻以上は配備する予定でいる。

 この3つに加えて、ハーンブルク海軍にはもう一枚切り札があった。


「レーダーに反応あり!前方10km先、敵艦隊を捉えました!」


「第一種戦闘配備!これより我が艦隊は、敵艦隊との交戦に入いる。全員、戦闘用意!」


「了解、第一種戦闘配備発令、乗組員は持ち場について下さい。」


「「「了解」」」


 僕の指示で、第一艦隊は作戦開始した。僕たちの目標は敵の戦力を確実に削ぐ事であり、できるだけ少ない犠牲で敵を降伏させる事だ。

 この際注意すべき事は2つ、それはナパーム弾のような大量破壊兵器を使わない事と、敵の船を沈め過ぎない事だ。

 この2つのタブーを犯せば、戦争の激化は防げない。兄さんがわざわざより危険度が高い艦隊決戦を選んだ意味が無くなってしまう。兄さんの期待に応えるためにも、僕は慎重に戦わなければならない。


「カレン、敵の兵装は側面に砲門が8つずつの16門だったよね。」


「えぇ、観測機に乗っていたパイロットはそう証言していたわ。それと、指揮官が乗っていると思われる少し豪華な艦が10隻あって、そのうちの8隻を大破させたそうよ。」


「聞いている。敵の指揮系統を破壊するためにそう命令したのは僕だからね。」


「最初に、敵の指揮官から潰すのは戦争の基本だわ。私は、この判断は間違いじゃなかったと思っているわよ。」


「僕も最初はそう思っていたんだけどね。」


 兄さんが出したのは、敵艦隊への先制攻撃命令であり、その具体的な内容や作戦を考えたのは僕だ。そのため、どの部隊がどのような攻撃を担当するかは僕の役目であり、責任も僕が負担していた。

 そして、僕はその判断に、今さらながら後悔していた。第一次攻撃後、敵が襲撃を受けた位置からさらに前進している事を考えると、敵は攻撃を諦めるつもりは無いようであった。既に、半数以上の戦艦に壊滅的なダメージを与え、その多くを沈めたが敵は一向に止まる気配はない。

 敵の戦力を削ぐ事には成功したが、戦意を削ぐ事には失敗したようであった。


「敵の戦意を削ぐならむしろ、機関銃で船穴だらけにすべきだったと思ってね。今僕たちがすべき事は、敵に圧倒的な実力差を見せつける事だから、手段をしっかりと選ぶ必要がある。」


「今から後悔してもしょうがないわ、今はどうすれば敵が降伏するかだけを考えましょ。」


「うん、そうだね。」


 僕は同意しつつ、この先の展開の予想を始めた。敵の船は動力すら積んでいない旧式の船、多少の海戦もできるようだが、ハーンブルク海軍のレインシリーズのような動きにはついて来られないはずだ。

 だから・・・・・・


「我が軍の兵器の質は圧倒的だ。この事を利用しない手は無い、完勝を目指すぞ。」


「「「了解っ!」」」


 敵艦隊がレインシリーズの射程圏内に入った直後から、艦砲射撃を開始した。ハーンブルク海軍の砲撃部隊の修正率は驚異的であり、初弾こそ命中しなかったものの次弾からは命中弾が多く出た。


「凄いな兄さんは、これを一人で全部こなしていたのか・・・・・・」


 兄さんは艦隊に指示を送りつつ、艦隊全体の砲撃の着弾修正を行っていたと聞いた。もちろん、もの凄く高レベルかつ普通の人には真似できない芸当だ。一番近くにいる僕だからこそ、兄さんの偉大さと凄さは無限に伝わってくる。


 直後、ハーンブルク海軍の秘密兵器が火を吹いた、兄さんとアインさんが設計したもう一つの隠し球が。


「凄いわね、あれ・・・・・・」


「うん・・・・・・兄さんは失敗作って言っていたけどね。」


 特別に作られた高速戦闘艦『梶木』は、敵の側面に回り込むと、すぐさま敵艦の腹に鉄の塊をぶち込んだ。まるで、海の槍のような姿のそれは、当然敵にとって初めての体験であった。


「あれが、魚雷ね・・・・・・」


「うん・・・・・・」


 魚雷、水中をカジキのように突き進み、敵の船に大穴をあける、戦艦にとっての天敵だ。

 直撃すれば、ほぼ確実に敵の船を海の底へと沈める、まさに切り札であった。


 だが、レオルドはせっかく作った魚雷を、失敗作と位置付けた。

 理由は、戦闘機と同じで、強すぎて出番がほとんど無いからだ。それに、コストの問題もある。戦闘機や魚雷は強すぎるが故に、コストパフォーマンスが圧倒的に悪いのだ。

 故に失敗作、だが逆に言えば、敵を確実に葬る無敵の一撃とも言えた。



 *



 魚雷の活躍もあり、敵はすぐに壊滅した。魚雷には火薬を積んでいなかったため、大きな爆発などは無く、作戦は大成功と言える内容であった。

 敵艦が残り30隻ほどとなったところで、敵は白旗を揚げた。

 戦争の終わりは、呆気ないものであった。


______________________________

 どうでもいい話

 新兵器とは、高速艦と魚雷でしたー。

 予想は当たりましたかね。

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