第16話 布告

「・・・・・・それは確かな情報なのか?」


「はい、ハーンブルク連邦は、我が国の海軍の撃滅に成功したと正式に発表しました。もちろん、各国にもその情報は行き渡っているそうです。」


 それは、最悪の知らせであった。送り出した海軍が作戦に成功したかどうかを知るためには、敵国であるハーンブルク連邦の発表を待つしかなかったコンストリア帝国は、ハーンブルク連邦が発する様々な情報に敏感であった。

 そのため、世界統一同盟に加盟していない国の中では最も早くその情報を得ていた。


「今すぐに、それはデタラメだと各国に連絡しろっ!」


「降伏して、捕虜になった者も多くいるという情報が入っておりますが、そこはどのように対応すれば・・・・・・」


「無視だ無視!相手はあのハーンブルク連邦だ!捕虜など、無事なわけがないだろ!」


「しかし・・・・・・」


 男は、その場で怒鳴り散らかした。もしかしたら、奇襲攻撃は失敗してしまったのでは?という不安はもちろんあった。だが、その失態を世界中に公表された上で、無様に捕虜という弱みまで握られてしまった。

 もちろん、敗北の事も捕虜の事も、完全に信じている訳ではない。だが、それが事実かどうか調べる手段はない。こちらからわかる事と言えば、残りの食料を計算するぐらいだろう。コンストリア帝国の将軍は、今回の奇襲攻撃は片道25日と試算し、往復分+予備で55日分の水と食料を船に積んだ。そして今日は49日目、本当ならそろそろ海軍からの連絡が来てもおかしくはない頃だ。

 不意に、頭の中で『破滅』の2文字が浮かび上がった。


「仮に、捕虜の件が本当だったとしても、我々はそれを認めるわけにはいかないんだっ!もし認めてしまえば、帝国は世界の敵になる・・・・・・」


「殿下・・・・・・」


 男は、震えながら答えた。彼には見えてしまった、誰からも相手にしてもらえず、孤独の国となり緩やかに衰退していく未来が・・・・・・

 同時に、こうも考えていた。


「少しの犠牲よりも、国の事を第一に考える。帝国の民なら、喜んで受け入れてくれるはずだ。」


「それは・・・・・・」


 部下の男は、主君の言葉に思わず耳を疑った。理屈は理解できないこともない、だがその道を選んでしまえばズルズルと悪い方向に転がっていくことは明白であった。むしろ彼は、この場でハーンブルク連邦に降伏してしまった方がマシな未来が訪れるとさえ思った。嘘を嘘で塗り固めた先にあるのは、破滅しかないのだから・・・・・・


「とにかく、今すぐ声明を発表しろっ!もちろん、同胞達への通達も忘れずになっ!」


「は、はいっ!」


 この時、両者は同じ破滅についての危機感を持ったが、両者がわかりあうことはなかった。



 *



「何故だ!どうしてどの国も、我が国の主張を信じない!」


 男の命令通りに各国に通達を送ったわけだが、返ってきた返答はどれも期待していたモノではなかった。中には、今後一切取引しないと、絶縁宣言をしてくる国もいたほどだ。軒並み評判は低く、入ってくる報告は全て最低なモノだった。


「おそらくは、どこの国もすでにハーンブルク領から手を回されているのだと思われます。」


「くそっ!人間風情が!」


 怒り狂った男は、目の前の椅子を蹴り飛ばした。その場で数回バウンドして、壁に激突して止まった。なんとか冷静さを取り戻そうと試みるが、上手くいかない。


「300隻もの大軍を送ったのに、何故こんなに呆気なく負けたんだっ!」


「・・・・・・」


 男は喚くが、その場に問いに答えられる者は一人もいなかった。ハーンブルク連邦に人一倍注目していたコンストリア帝国だが、残念ながらハーンブルク海軍の具体的な強さを知る者はいなかった。

 そもそも、まともな海戦をしたのは対トリアス教国戦と対ギャルドラン王国戦の2回だけであり、ただ単に強いらしいと言った情報しか持ち合わせていなかった。


「ありえない、そんなはずはない。私の作戦は、完璧だったはずだ・・・・・・」


 自信はあった。だが、蓋を開けてみれば、奇襲攻撃は大失敗に終わり、世界中の国々から信用を失いつつあった。このままでは世界から孤立し、行く先には破滅しか待っていない。

 そんな彼の元に、次なる知らせが飛んで来た。


「会議中失礼致しますっ!ハーンブルク連邦が、我が国に対して宣戦布告を行いましたっ!」


「なっ!」


「既に、王都中にその噂が広がっており、王都は大混乱ですっ!」


「どういう事だっ!」


 それは、場の空気を一瞬にして変えた。ある者は恐怖し、またある者は危機感を募らせた。

 宣戦布告、それは以前コンストリア帝国の上層部が馬鹿にした、世界統一同盟所属国が守らなければならない条約の一つだ。世界統一同盟加盟国は、自国内を除く国家間における戦争を行う場合は、予め正当な理由の提示と降伏勧告を行った上で民間人が逃げるため猶予を与えなければならない。

 初めてこれを聞いた時、こんなアホなルールを守る者などいないと笑った。

 だが、このルールの真の目的は相手国に恐怖心を与える事、ハーンブルク連邦の宣戦布告は、それを十分に満たしていた。


「国内に残っている全兵士に通達だっ!敵はおそらく海の方からやってくるっ!だから、海岸線を死ぬ気で守るぞっ!」


「「「了解っ!」」」


 それが、ハーンブルク連邦の作り出した巧妙な罠だとは気付かずに・・・・・・


 _________________________________

 どうでもいい話

 今日は本当に書く内容が無かった・・・・・・

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