第20話 停戦

「と、言うわけでこの辺りで停戦にしませんか?このまま持久戦に持ち込んで泥沼化していただいても全然いいですが、『ジオルターン』を落としたので王都陥落も時間の問題ですよ?」


ハーンブルク側の代表が、少し目を逸らしながら相手側の反応を窺うなか、

サラージア側の代表達は大慌てであった。


この話出席しているサラージア側の代表は、多少は軍人もいるが、ほとんど貴族だ。

つまり、自分達の家が現在進行形で狙われているという事だ。当然自宅には、彼らの家族や財宝があるだろう。


実際には800名の兵士しか投入していない上、強襲上陸分の武器や弾薬、食料しか渡していないので、王都の占拠は不可能だし、俺もそもそもまだ『ジオルターン』が陥落したかどうかも正確には知らない。

だが、『ジオルターン』陥落というインパクトは大きい。彼らの脳内では自分達の身に襲いかかるかも知れない恐怖をどうすればいいかを必死に考えているだろう。


もちろん、情報網を遮断し、外部の情報は一切手に入らない状態にしていたので、彼らはこの話の信憑性を疑った。


だが実際、ハーンブルク軍本隊を見たという者はサラージア王国側には1人もいないし、サラージアの兵士の間では、サラージア王国軍が連敗している事と『ジオルターン』が陥落したという噂が出回っており、当然貴族達の耳にもその情報は入っていた。

王は弱々しい声で聞いた。


「だが、その話、嘘かも知れぬではないか。」


想定通り。


「確かに、我々が嘘をついていません、と提示できる物は何もありません。ならどうぞ、戦争継続の道を選んで下さい。決めるのはあなた方ですよ。」


「ぐっ!」


正直なところ、今ここで停戦になっても、ならなくてもどっちでもいい。

どっちにしろ、サラージア王国内の多くの利権を確保できるだろうし、勝利する事は変わらない。


だが、戦争継続の道を選ばれると、他国が介入してくる可能性がある。正直それは避けたい。


そこで、最後の一撃を加える。


「ではこうしましょう。今停戦していただけるなら、賠償金はなし、一部割譲で手を打ちましょう。ですが、停戦を渋るなら、賠償金ありで現在占領中の地域を全土併合します。」


どこかのセールスマンのような口調で提案する。もはや勝利を確信していたレオルドは、高らかに宣言したのだ。

そして、敵軍の中に敵の国王がいる事が、こちらにとって有利に働いた。


「わ、わかった・・・・・・」


「陛下、よろしいのてすか?」


「この戦争、ほとんど我々の負けのようなものだ。終戦しよう。」


「賢明な判断をありがとうございます。では、具体的な割譲地についての話し合いに移りましょうか。」


まだサラージア王国側には、色々な不満点や文句がおるようだが、国王が停戦を宣言した以上、戦争は終わりだ。

貴族社会において、王の発言は絶対だ。


国王が終戦を決断するまでの時間は案外短かった。そして、講和会議はその3倍ほどの時間がかかった。

最終的には、こちら側が折れる形で合意し、ハーンブルク側は欲しかった3つの湾岸都市と4つの資源地帯を予定通り獲得した。


それ以外の都市に関しては、少し細工をした上で撤退した。うまくいけば『ジオルターン』を獲得できたかも知れないが、遠くいざという時に守れない上、王都から近いためサラージア王国側が断固として拒否したため、手を引いた。


また、何故終戦ではなく停戦なのかというと、戦争が完全に終わってしまうと、トリアス教国側の戦争に参加しろと言われるかも知れないからだ。

いつ攻めてくるかわからないから、援軍は送れないと言い訳ができる。


その後、その他諸々の戦後処理を終えると、SHSメンバーを連れてシュヴェリーンへと帰還した。



「レオルド、お疲れ様でした。」

「レオルド様、お疲れ様でした。」


家に着くと、真っ先にお母様とヘレナが出迎えた。およそ2ヶ月ぶりの再会になるわけだが、2人とも変わった様子はなかった。


「ただいま、お母様、ヘレナ様」


「今日はもう疲れたでしょうから、部屋に戻って寝て構わないわ。明日報告を聞きます。」


「わかりました、ありがとうございます。」


「よかったらヘレナさんも付けますがどうしますか?」


「エレナ様っ!!!」

「だ、大丈夫です。」


お母様め、相変わらず俺を子供扱いしてくる。

まぁ実際子供だけど・・・・・・


「ふふふ、なら別の機会にしましょうか。では明日、元気な顔を見せて下さい。」


「はい、おやすみなさい。」


そう告げると、俺は自分の部屋に入った。当然中には誰も居らず、沈み始めた光が差し込む。

いや、正確には俺ともう1人いる。


【お疲れ様でした、マスター】


あぁ、ほんと疲れたよ。

講和会議の時なんか、いつ剣を抜くかヒヤヒヤしたし。


【ですが、結果的に上手くいったのですからよかったのでは?】


上手くいった事に関してはよかったけどさー

ふと考えちゃったんだ。

俺は何者なんだろうって。

前世の記憶はあるけど、肝心な所がいくつも抜けている。

名前や顔は思い出せないのに年齢は覚えているし、友人や家族は覚えていないのに俺は日本という国で暮らした記憶が鮮明に残っている。


【・・・】


おまけに『アイ』という頼れる相棒もいるし。

天使なのか悪魔なのかは知らないけど、俺をこの世界に送った理由がわからないんだよなー

何かの使命をもらっているわけでもないし。


【確かに私にも、記憶を授けた存在の意図や狙いはわかりません。ですが、私にとってあなたは間違いなく必要な人です。この先どうなっても、マスターとともに歩み続けます。】


あぁ、それもそうだな。

じゃあまぁ今日はとりあえず寝て、明日に備えますか。


【おやすみなさい】



そして、俺は知らないうちに眠りについていた。

その日は、いつもに増してぐっすりと眠れた。


________________________


どうでもいい話


少し中途半端ですが、流れ的にちょうどいいと思ったので、第二章終了です。


明日から第3章『家族編』に入ります(間に合えば)

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