第15話 弱音

「もう一度確認するぞ、俺を中心とした第一艦隊と第四艦隊はこのまま東に向かい、ゼオン獣王国の西海岸に上陸を目指す。そして、イレーナを中心とした第二艦隊と第三艦隊は周辺の海上封鎖をしつつ、敵A集団との戦闘を始めてくれ。第五艦隊とジア連邦艦隊は本土周辺の防衛に努めてもらう。そんで、作戦は、以前説明した通りだ。何か質問がある者はいるか?」


俺は、確かめるように周りを見た。すると、もう全員作戦や注意事項は頭の中に入ってあるようで、質問や心配事を言う者はいなかった。それぞれが、自分のやるべき事をしっかりと認識していた。

彼らなら、そして彼女らなら間違える事は無いだろう。


チーム・レオルド

第一艦隊全5隻

第四艦隊全6隻

+人員輸送用黒船

ハーンブルク陸軍4万人


チーム・イレーナ

第ニ艦隊全6隻

第三艦隊全7隻

+人員輸送用黒船

ハーンブルク陸軍及びジア連邦軍5万人



ジア連邦軍の兵士を含む全兵士はそれぞれ高度な訓練を受けており、ハーンブルク領の工場ミドールで既に量産体制となっている『M-3』それぞれを装備している。

獣王国軍は約25万の兵士を送ると予想しており、ハーンブルク軍は5倍の兵士を相手にする事になる予定だ。もちろん、勝てる見込みがあって送り出している。

防御に専念できるという点と、地形防御がしやすいという点、圧倒的な武器の差、負ける要因は何処にも見当たらなかった。


「じゃあチーム・イレーナのメンバーはここでお別れだ。何か問題が発生したらすぐに電信を使って知らせてくれ、健闘を祈る。」


「「「了解っ!」」」


ハーンブルク軍の最前線、作戦司令部が置かれている『トモタカ』にて、俺は軍議を行った。作戦の最終確認を終えた将校達は、それぞれ敬礼し考えをまとめると覚悟を決めた表情で1人ずつ会議室から出て行った。

一般の将校達全員が出て行った後で、最後に残ったイレーナは俺の方へと近付いて来た。


「レオルド・・・・・・」


いつもなら気合いを入れて出ていく彼女だが、今回は珍しくその足が止まっていた。不思議に思った俺は、今は妻でもある彼女に尋ねた。


「どうしたんだ、イレーナ、浮かない顔をして。」


「・・・・・・」


何かして欲しそうな表情をしながら、彼女は目と鼻の先までやって来た。何と声を掛けるべきか考えて、俺は彼女の精神状態を察した。


「もしかしてアレか?ちょっと緊張しているとか?」


「・・・・・・うん。」


異国の地での遠征、兵力差があり勝てるだろうと考えられているが、彼女とて不安が全く無いわけでは無い。

今回の戦争では、どうしても部隊を2つに分ける必要があったので、俺と別のチームのリーダーは俺の中で1番頼りになる存在である、イレーナに任せた。

彼女なら安心できるだろうと考えていた。

普段は冷静で、行動力のある彼女だが、時々弱くて本音を言えない一面もある。テラトスタを出る時は、堂々としていたヘレナの前もあったからか、同じように堂々としていた彼女であったが、今は別人かと思うぐらい弱っているように感じた。

きっと、今この瞬間が彼女の中で1番弱いタイミングなのだろう。


今ここで、俺は何をすべきなのか。それは一つしか無かった。


「イレーナ、ありがとう。いつだってイレーナには感謝しているし、信じている。イレーナならきっとできるよ。」


「・・・・・・だったら、ちゅーして」


「わかった。」


俺は彼女の気持ちを汲み取ると、勇気付け、エネルギーを与えた。

俺は少しだけ体を離すと、ゆっくりとイレーナの唇に自らの唇を重ね合わせた。

ゆっくりと味わうような表面だけのキス。

まるで彼女を包み込むようにしながら、安心感を与えた。


「他には?」


「ん〜と、好きか、愛してるって言ってほしい・・・・・・」


「愛してるよ、イレーナ」


「・・・・・・やっぱり好きも。」


「好きだよ、イレーナ」


「ありがと、私も大好き。」


顔が赤くなっている事を隠したいのか、いつもよりも強く抱きついた彼女は、隠すように頭を俺の胸板にぐりぐりと擦り付けた。

俺は、彼女の気持ちを受け止めつつ、しっかりと抱きしめた。落ち着いた事を確認した俺は、ゆっくりと身体を離すと、優しい口調で言った。


「じゃあ、行ってくる。」


「行ってらっしゃい。」


「気をつけてな。」


「うん、あなたも気をつけてね。」


もう一度、優しくキスをした俺たちは、それぞれ背を向けてお互いの進むべき道を見つめながら歩き出した。


第一艦隊所属一番艦"春雨"へと乗り込んだ俺は、艦橋にある自分の席に座った。

周囲には、ハーンブルク海軍を代表する5つの艦隊中4つの艦隊が参戦を予定している。

つまり、今世界最強の海軍と言っても過言ではないハーンブルク海軍主力艦のほとんどが『トモタカ』へと集まっていた。

その姿は圧巻であり、ハーンブルク領の強さの象徴でもあった。


【先程はいい判断でしたね、マスター】


一生を共に歩むと誓った相手だからな、この選択は当然だ。


【立派な心意気だと思います。ですがマスター、先程のイレーナ様の行動、まるでよくある死亡フラグのような発言でしたね。】


なわけねーだろ。

って言いたいところだけど、後々考えてみると確かにそうかもだな。


【ふふふ、ではマスター、イレーナ様のお言葉が死亡フラグにならないよう、フラグをへし折りましょうか。】


当たり前だ。


俺は、力強くそう頷いた。


______________________________

どうでもいい話


今年最後の更新という事で、どうせならデレデレねイレーナを書こうかなって思ったら死亡フラグみたいになっちゃいましたw


今年一年、応援していただきありがとうございました。来年もよろしくお願いしますっ!


P.S.主人公周辺キャラは基本死なないのでご安心下さい。

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