第9話 母艦

「訓練の方はどんな感じだ?」


「全員が一通り発着艦できるようになりました。最近は反復練習を行い、精度と効率を高めております。」


その日俺は、ある程度俺に見せられる状況になったという報告を信じて、テラトスタへとやって来た。ここには軍港があり、軍港に停泊中の軍艦の中で一際大きく、少し特殊な兵器を積んだ軍艦に乗艦した。


「発艦はともかく、着艦はかなりの技量が必要だと聞いたが、実戦投入はできそうか?」


「はいっ!レオルド様の命令によって組織されたこの第一航空隊は、我が軍の中でも腕の良い者が集められた先鋭部隊でございます。飛行長として、私は実戦投入は可能だと判断いたします。」


「そうか・・・・・・」


旧日本軍の代表的な戦闘機ゼロセンの正式名称は、零式艦上戦闘機と言うらしい。つまり何が言いたいかというと、陸上ではなく船の上で運用してこそのゼロセンというわけだ。

航空母艦、通称空母とも呼ばれるこの大型艦は、主砲や副砲の代わりに航空機が発着艦できる滑走路が搭載されており、現代でも主力部隊として活躍している軍艦の一種だ。

まぁ、活躍の場なんて本当は来ない方がいいわけだが、せっかくゼロセンがあるなら空母も作りたいという事で、輸送艦の一つを改良して空母を作った。本当は、巨大な正規空母を作りたかったが、流石に時間がかかりすぎるという事で妥協した。


「乗り心地はどんな感じだ?」


「はい、全く問題はございません。良好でございます。」


「不便な所があればすぐに言ってくれ、現地の人たちの要望ほど明確な改良点は他にない。」


訓練の様子を眺めながら、俺は第一航隊の部隊長に改善案を求めた。普段なら、海のど真ん中で、実戦を想定した訓練が行われるが、今日は俺の視察と並行して国民の見学も行っているため、停泊した状態で訓練が行われた。


「そうですね。強いて言うならば、夜間での着艦はかなり難易度が高く、腕に自信がある者でも1回での着艦は難しいと言っております。何かしらの対策をしていただけると嬉しいです。」


「わかった、研究部門に指示しておこう。他にも、要望があれば遠慮なく行ってくれ。前にも伝えたと思うが君たちは期待の先鋭部隊だ、諸君らの奮闘を期待する。」


「ありがとうございますっ!」


航空機の夜間運用における対策の必要性を再認識した俺は、その脚でハーンブルク研究所へと向かう事にした。





俺がハーンブルク研究所にて、世界中の海を支配するための最強部隊を作るという空母打撃群計画に改良をしていた時、大陸の東の果てでは、歴史が動こうとしていた。


「ハーンブルク連邦王国か、国力、軍事力、人口、技術力どれをとっても我が国の上をいっているようだな・・・・・・」


近頃噂されていた最悪な予想は、現実のものとなった。ハーンブルク連邦王国の誕生は、世界におけるパワーバランスをほぼ決定付けるものであり、各国の反抗する気を失くす内容であった。

ファルティオン王国が解体されて、ハーンブルク連邦王国の下に付いたという発表は亜人達にとって、それまで極西の野蛮人と馬鹿にしていた人間が自分たちの生存圏を脅かすかも知れない明確な脅威である事を認識させられ、対抗か服従かの選択を迫られた。


「はい、今はまだ建国したばかりですので色々と内部に不安を抱えていますが、あと数年経てば間違いなく世界一の大国になるでしょう。それも、2番手である我が国と大きな差をつけて・・・・・・」


「あの男の目的は何だと思うか?」


「世界征服、もしくはそれに準ずるものだと考えられます。事実、彼は世界統一同盟という枠組みを作り、世界のコントロールを試みております。」


「我が『亜人連合』が巻き込まれる可能性は?」


「1年中雨が降り続ける可能性の方が高いかと。」


明確に対抗を表明した亜人国家のうち、最も国力があるコンストリア帝国帝都にある総督府では、緊張が走っていた。

亜人の団結力を高めるために作った『亜人連合』ではあるが、それは明確なハーンブルク連邦王国への抵抗でもあった。世界統一同盟の国と一部国境を接している部分があり、ハーンブルク連邦軍が攻め込んでくるのではないかという不安が皇帝や貴族を襲った。


「ハーンブルク連邦王国との交渉はどうなっている。」


「向こう側の要求は、一貫して世界統一同盟への加入のみです。少なくとも今すぐ武力行使をしようといった風には見えませんでした。」


今の話を聞いて、少し引っかかった部分を尋ねてみることにした。だが、返ってきた言葉ひ曖昧なものだった。


「内部で割れていると言うことか?」


「いえ、仲違いの類いをしている可能性はかなり低いかと。あるとしたら、攻撃する事を躊躇しているんだと思います。」


「躊躇だと?」


「はい、現在ハーンブルク連邦王国は誕生したばかりで非常に不安定な状況でございます。3つの国が合併して1つの国となったわけですから、様々な点で歯車が上手く噛み合っていないのだと思われます。」


「なるほど・・・・・・。ならばなおさら、こちらから早めに行動を起こさなければならないな、奴らの準備が整い矛先をこちらに向ける前に。」


「はい、それが最も合理的な判断かと。」


「そうか・・・・・・」



数日後、コンストリア帝国は、ハーンブルク連邦王国への攻撃を決断した。長期戦となれば圧倒的に不利な状況に立たされることを理解している彼らは、全兵力の集中運用による一点突破を目標に作戦を立案した。


そしてその作戦の、第一目標は・・・・・・


________________________

どうでもいい話


吉と出るか、凶と出るか、大凶と出るか。

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