第19話 日誌
「レオルド、これ・・・・・・」
おいちょっと待て、いやだいぶ待て。
俺の日誌を掴みながら、涙を流がす俺の妻を見て、俺は全てを察した。
あの日誌は、俺がこの世界に誕生して文字が書けるようになった日から毎週、その週に起きた出来事を書いたやつだ。(最初の方は曜日という概念が無かったため、7、8日に1回)
最初は、この世界の文字を覚えるために書き始めたやつであったが、いつの間にか習慣となっていた。
あの日誌の中身は、家族にすら見せた事が無いやつで、見せられない内容がたくさんある。
「どこを見たんだ?」
俺は、声を震わせながら尋ねた。
まさか、転生の事がバレたか?
「ここよ。」
「・・・・・・よりにもよってそこか。」
イレーナが指したページは、俺が最も恥ずかしい内容を書いたページであった。
「私、昔の心境を思い出したわ。」
それは、去年俺がイレーナとの婚約を決めた時の事が書いてあるページだった。
俺の日誌を閉じ、自分の胸元で抱きしめたイレーナは、静かに自分の心境を呟いた。
「最初はライバル心だったの。お父様の紹介で貴方の存在を知ってから、会った事すらない貴方にライバル心を抱いていた。初めて会って、目の前でお父様と交渉している貴方を見て、すごいと思ったわ。」
俺もその時の事は覚えている。 貴族のルールやマナーなんかわからないし分かりたくも無かった俺は、無我夢中で交渉を頑張った。
俺もイレーナの存在は知っていたが、特に気にしてはいなかった。
「それで、お父様に言われてシュヴェリーンを訪れて、世界が変わったわ。思えばこれが、私の人生初めての旅行だったわね。」
イレーナは、ギュスターさんの英断というか決断によってハーンブルク領で預かる事となった。
お母様の手伝いをしながら、我武者羅(がむしゃら)に頑張っていた。
「大変な事も多かったけど、エリナ様に必死に付いていく日々が続いて、貴方と一緒に色々な所を回って、サッカーの監督をやって、戦争も体験して、それからだんだんと、貴方を好きになって・・・・・・」
言葉に表すとたったそれだけの内容だが、そこにはとても濃い内容がある。色々な人と出会い、色々な事に挑戦した月日がある。確かに俺は、人生の大半をこの少女と過ごして来たかもしれない。
「貴方の日記を読んで、貴方の心を知って・・・・・・」
俺は、この日誌に誰にも話せないような当時の心境を書いていた。
日々の苦労、戦争による心のダメージ、貴族としてのプレッシャー、そして何より家族や嫁達への感謝と愛を書けるだけ書いた。いわばこの日誌は、俺の本音であった。
きっと彼女は、それを読んだのだろう。
正直俺には文章を書く才能は全く無いと思うが、きっとこの言葉が彼女の心に響いたのだと思う。
「今幸せならいいじゃ無いか、泣くなよ。」
俺がイレーナを抱き寄せると、彼女は俺に身を委ねた。俺はとりあえず、イレーナの頭を撫でた。何というか、無性に撫でたくなったからだ。
「私もわからないのよっ!でも自然と、涙が出て来て。」
きっと、彼女も知らない間に擦り減っていた部分があったのだろう。
鈍い俺には、何処が悪かったのかわからない。だけど、これだけはアイに聞いてはいけない気がした。
それから数分後、イレーナは落ち着いたのか、涙を拭いて顔を整えた。
まだ少し涙の跡が残っていたが、本人としてはこれで満足らしい。
「はいっ!これで私の恥ずかしい話は終わりっ!さて、今回の件についての報告を聞くわ、言い訳があるなら今のうちよ。」
「うっ!」
お、おいアイ何とかならないか、この状況っ!
絶対に説教3時間コースだっ!
【・・・・・・自業自得ですね。】
「ですよね〜」
「楽しくなりそうね。思い返してみると、余計にイライラが溜まるわ。覚悟しておきなさい。」
その後、俺はイレーナにしっかりと絞られるのであった。
でも今日は、いつもより短かった気がする。
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どうでも良くない話
さて、これにて第6章『制覇編』は終了です。
全然制覇して無いじゃんってツッコミは置いといて、イレーナとの関係が深まった今回ですが、ちょっと変な展開にし過ぎた感が否めません。
う〜ん、難しい。
さて、次は『統一編』に進むわけですが、週一お休み宣言の存在を完全に忘れてました。
そのため、明日はお休みとなります。(暇があった『佐々木サイの独り言』を更新するかも。)
これからもよろしくお願いします。
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