第2話 義兄

「やぁ、会いたかったぞお義弟よ。」


ハーンブルクの中心、バビロン宮殿内にあるゲストルーム。ヘレナに会わせたい人がいるって言われたから来たんだが・・・・・・


「・・・・・・誰だよお前。」


「あれ?わからない?一応初対面じゃ無いはずだったんだけどねぇ。」


「いや知らんぞ。」


「まぁいいや。僕はクルト・フォン・サーマルディア、君の妻ヘレナ・フォン・サーマルディアの実の兄だよ。」


俺の向えに座った金髪青眼の男は、そう自己紹介した。


「ヘレナ、マジ?」


「はい、クルトお兄様は、正真正銘私の実の兄です。あまり交流はありませんでしたが、同じ母親でしたので兄妹の中では最も優しくしてもらえました。また、兄弟全体を見ると、上から3番目の男子という事もあり、現在王太子候補となっております。」


ヘレナがそう証言すると、横からアイが補足を入れた。


【マスターが以前参加した王都で行われた2つのパーティーにも、参加していました。声帯や骨格から考えて、間違いないと思われます。】


え?

じゃあマジで俺の義理の兄って事?


【そうなります。】


「理解してくれたかい?」


「あ、あぁ。だがだとしたら何でここに居るんだよ、王太子候補達はみんな戦場に行ったって聞いたぞ。」


「あぁ、確かに他の兄弟達は戦場に行ったよ。みんな手柄を立てたくて必死みたい。」


王太子の選考基準は、産まれた早さ、武勲、頭の良さの3つの基準を加味した上で、王族と公爵の話し合いによって決まる。

また、王太子候補になっていない王子も武勲をあげれば、成人後公爵に成れたり国の重要なポジションにつけたりする。


「あんたはいいのかよ。」


「僕は王様になんか成りたく無いからいいんだよ。」


「なら何でここに来たんだよ。」


「ん〜強いて言うなら暇つぶしかな〜王都に残っていると戦場に連れて行かれそうだったからな〜」


クルトは、少し視線をずらしながら呑気にそう言った。


【レオルド様・・・・・・】


大丈夫だアイ、何となくわかった。

こいつ絶対面倒な奴だ。

俺の中の全神経がそう言っている・・・・・


「はぁ・・・・・・何でここに来るかな〜」


「兄として、妹の夫に興味を持つのは当然の事だと思わないかい?」


・・・・・・ちょっとウザい。

まぁいいや、何となくコイツの思惑がわかったぞ。


「どうせ妹が嫁いだって事を口実にハーンブルク家に来たかっただけだろ。」


「バレたか。」


実は、結構同じような事を考える貴族は多い、ハーンブルク領の外に住む人々にとってハーンブルク領、特に4大都市は憧れの的であり、多くの貴族がハーンブルク領を訪問したいと喚いていた。

おそらくだが、都会に憧れる田舎民と同じ感覚だろう。何せ暮らしやすさが全然違う。


「はぁ・・・・・・義理とはいえこれが俺の兄か・・・・・・」


「おいおい、その言い方は無いだろ?」


「じゃあさっさと帰れよ。」 


「冷たい事言うなよ、弟〜」


クルトは立ち上がりながらそう言うと、俺の頭を撫で始めた。

俺はヘレナに助けを求める。


「ヘレナ、どうしてこんな奴の侵入を許したんだよ。」


「一応同じ母親を持つ兄妹でしたので・・・・・・」


ヘレナは、申し訳なさそうに答える。おそらく、しつこくアタックを続けて、何とか認めてもらったのだろう。

そこで俺は、名案を思いついた。


「じゃあこいつの婚約者を連れて来てくれ。そうすれば黙るはずだ。」


「シードラ様は既に音楽の街、ウィートンに行かれました・・・・・・」


うそん・・・・・・

自由人すぎるだろ。


「まぁいいや、いつまでいる予定なんだ?」


「ん〜終戦までかな〜」


「めっちゃ長いじゃねぇか。」


SHSが入手した情報によると、現在両戦線は膠着状態になっているそうだ。

一度は反撃に成功したものの、戦線はずるずると後退し、戦線は結局元通りになった。

ハーンブルク領はギャルドラン王国戦には一切兵士を派遣していない。代わりに、食料援助とSHS派遣を行なっている。

そして、俺(アイ)とSHSが判断した戦争の結末は、このまま何も起こらなければ数年後に停戦というものだった。 

ちなみに、この予想は結構当たっていると思う。


「さて、真面目な話をしようか。」


「何だ。」


「国防軍は、ハーンブルク家からの食糧援助によって何とか戦線を維持しているが、国民の生活はどんどん貧しくなっている。」


「まぁ当然だろうな。」


ハーンブルク家のように、戦争が起こったら税金が安くなる、などの対策が無いので、国民はどんどんと貧しくなっていくだろう。それどころか、税金を引き上げた貴族もいるそうだ。

戦争によって、一時的ではあるが人口が減り、人頭税による収入が減ったためその埋め合わせをしようと考えたのだろう。


「率直に聞かせてほしい。レオルド・フォン・ハーンブルク、天下の鬼才と呼ばれる君ならどうする?」


「それは、王家からの質問ですか?」


「いや、私の個人的な質問だ。真面目に答える必要はないし、何なら答えなくても良い。」


「アルバス河を封鎖する。」


「それは・・・・・・」


「戦争には、守りやすい地形というものがある。代表的なものは、山脈と高台と河だ。全兵力を投入して前線を一気に押し上げて、アルバス河よりも向こう側に追い出すのが最善手だろうな。もしくは、大量の船を使って封鎖するのも手だ。」


俺の説明に、クルトは驚きながら聞き入っていた。

達成可能かどうかは置いておいて、これができればおそらく敵を講和会議に引っ張り出せるだろう。

サーマルディア王国が辛い分、ギャルドラン王国も辛いはずだ。

彼らの物資はいつ底をついてもおかしくない。

それに対して、サーマルディア王国にはハーンブルク家というバックがいる。戦争に負ける事はないが、このまま戦争を続けても勝ち切れるかどうかは微妙なところだ。


何かを決意したクルトは、真っ直ぐ俺の方を向くと、ハーンブルク領を訪れた本当の目的を言った。


「王太子候補、クルト・フォン・サーマルディアとしてお願いする。どうか、援軍を派遣してもらえないだろうか。」


少しためを作ってから、俺は事前に決めていた答えを言った。


「お断りします。」



______________________________


どうでもいい話


この度は、誤って前作主人公を登場させてしまい、世間をお騒がせする可能性のある行いをしてしまったのではないかという事実、

もしくは雰囲気により、多くの方々に不快もしくは快的な感情を抱かせてしまい、私自身の至らぬところ、至りすぎるところによりまして、

たくさんの方々にご迷惑をかけ、迷惑をかけられたことをお詫びいたします。

申し訳ございませんでした。

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