第19話 連鎖
「さて、これがどういう事か説明していただけますか?ドウグスさん。」
俺は、先ほど休憩を薦めた男を指差して言った。
会議室にいた全員の視線が、彼1人に集まる。指を刺された男は、慌てながら首を横に振った。
「私は毒なんか入れていない、私は知らないぞっ!」
「既に我々は、貴方が犯人であるという証拠をいくつか掴んでおります。」
「なっ!」
俺は、あえてハッタリをかました。
毒殺未遂の犯人であるという物的証拠は、実は無い。というのも、実際に毒を入れているシーンを誰も目撃していないからだ。拷問すれば使用人の誰かが自白するかもしれないが、見込みは薄い。
現在俺たちが持っている証拠になり得る物は、ユリアさんからの手紙と、俺が紅茶を飲んだ際の挙動不審な動きをしていたという2つのみだ。しかし、両方とも証拠としてはだいぶ薄い。
だが、この男が裏で色々と悪さをしているという証拠は既に掴んでいた。
「あなたが私を暗殺しようとしているという密告を受けております。さらに、貴方の部下が何人か共和国内でスパイ活動をしているという報告は受けています。」
「で、デタラメだっ!」
実際、リトア王国に潜入していたSHSメンバーの1人が、ドウグスがリトア王国の貴族と何度か謎の密会をしているところを目撃していた。
正確な会話の内容は掴めていないが、何やら怪しい動きがあるという事は確かだ。
しかもそれだけではなく・・・・・・
「他にも、連邦共和国のある貴族と繋がりがある事も判明しています。」
「それは・・・・・・」
「既に、繋がりを作った貴族には罰を与え、その上であなたを泳がすように命令しました。」
こっちは本当だ。
新たに組織した連邦共和国のハーンブルク家代表、つまりユリウス直属の諜報機関『TKSET』が、証拠を掴んでいた。
その際、その代の当主よりも前の代から交流があった事を考慮した上で、これを利用しない手は無いと判断した俺は、黙認する代わりにリトア王国の情報を連邦議会に伝えさせた上で、リトア王国に偽情報を流すように命令した。
元々は、リトア王国の内部分裂を狙って行った撹乱工作であったが、まさかこのように作用するとは思わなかった。
「あなたの計画はこうです。まずは毒を使って私を殺害し、怒ったハーンブルク軍がリトア王国の王族を皆殺しにする。そうすれば、属国になった際に連邦の貴族と繋がりがあるあなたの手元に権力が転がり込んで来る。そう考えたんじゃ無いですか?」
「そんな事は・・・・・・」
「無いとは言い切れないでしょ?ハーンブルク家がサラージア王国を滅ぼしたあと、そこに傀儡政権を立てて統治したという情報を嗅ぎつけて、同じような事をしようと考えたのでしょうから。」
完璧とまではいかないが、多分大筋は合っている。
予定とは違ったが、いい感じに自分から自滅してくれた感じだ。
また、当初はこの男に傀儡政権のトップを任せようという案もあったのも事実だ。実際、この男をトップにしなくて良かったと思う。
「本当に、お前が犯人なのか?」
俺の正面に座る王太子は、弱々しい声で親友に尋ねた。
もう既に、ドウグスが犯人である事は誰の目から見ても明らかであった。しかしただ1人、王太子だけは最後までドウグスを信じていた。
それに対して、ドウグスは視線を逸らしながら答えた。
「あぁその通りだ・・・・・・」
「どうしてこんなに馬鹿な事をしたんだっ!」
「仕方無かったのだっ!だから私はっ!」
後ろを振り向いた王太子に向けて、ドウグスは怒鳴り声を上げた。
それに対して、王太子は冷静に言葉を返す。
「ではあの時、一緒にこの国を立て直そうと話したのは、嘘だったのか?私が国王になった時は協力して、他国の言いなりにならない強い国を作ろうと話したのは嘘だったのか?」
「もうこの国はもう終わりだっ!ハーンブルク家に敵対した時から、どっちにしろ滅ぶ運命だったのだっ!」
「だが・・・・・・」
「こんな国、滅んでしまえっ!」
我慢の限界を感じたのか、何かが切れてしまったドウグスは、腰にさしていた剣を手に取った。
もちろん狙うのは俺の首、正直もう今ここで俺を殺したところで何も変わらない気がするが、思考が停止しているのだろう。
その様子を見た俺は、静かに呟いた。
「撃て。」
パンッ!
「ぐっ!」
ドウグスが机の上に登ろうと、足をかけた直後、銃声が鳴った。
ドウグスの右足を貫通し、その場に崩れる。もちろん致命傷にはならないが、動きを止めるには十分だ。
「無力化しろ。」
「はっ。」
俺の命令を聞いたクレアは、机の上に飛び上がるとそのまま空中で発砲、剣を握っていた右手の甲を貫通した。
ドウグスが、自身の右手を襲った強烈な痛みによって剣を離した事を確認したクレアは、そのまま足を使って剣を蹴って横にどかす。
もちろん、人のいない方向へ。
そのままドウグスの背中を、全体重をかけて肘で突き刺す。身体強化魔法が施されているので、かなり大ダメージが入るはずだ。
「がぁっ!」
ドウグスは、たまらず声を上げた。
そしてそのままドウグスの上に乗ると、関節技を決めた。
「うぅ・・・・・・」
「終わりです。」
最後にトドメとして、首筋に手刀を打ち込んだ。
うわっ!痛そー
【色々と教えたかいがありましたね、マスター】
ドラマや映画でよく観る首筋への手刀って効果あるんだな。
【パワーとスピードと、ちょっとしたコツがあれば十分可能です。彼女の場合は、身体強化でそれを補っております。】
へぇー
【レオルド様も食らってみますか?】
いや、遠慮しとくよ。
【わかりました、食らいたくなったら是非お声かけ下さい。】
おいおい。
「さて、この状況をどうする処理する?王太子。」
「それはっ・・・・・・」
その場にいた、リトア王国側の誰もが言葉を失っていた。あまりに美しく、あまりに圧倒的で、もはやリトア王国に勝ち目が無い事は明らかであった。
レオルドは既に、この会談の終着点は決めていた。ここまで来れば、もはやリトア王国の滅亡と、王族の皆殺しは避けられないだろう。場合によっては貴族も全員処刑されるかもしれない。
その上で、ハーンブルク家が1番得をする会話の誘導の仕方が、案としては浮かんでいた。
しかしそれと同時に、俺はある事に期待をしていた。
この状況を上手い具合に自分の方向へ持っていく存在を。
与えられた駒を使って、ゲームをコントロールする存在を。
「レオルド様、発言してもよろしいでしょうか。」
意外な方向から、声が上がった。
その場にいた全員の視線が、1人の少女の下に集まる。
「どうぞ、ユリアさん。」
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どうでもいい話
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