第8話 sideイレーナ7

私は今、猛烈に緊張していた。


これから人生で初めて、私の・・・・・・一応ギリギリ夫という事になっていなくもない、レオルドと一緒に風呂に入る事になったかりだ。

2人っきりというわけではなく、エリナ様やヘレナなんかも一緒だが、先程から緊張しっぱなしだった。


「いつまで扉の前で睨めっこしているんですか、イレーナ」


「うっ・・・・・・仕方ないでしょ?私はその、初めてだし・・・・・・」


だってしょうがないじゃない。結婚しているとはいえ、相手はレオルドよ?

まぁ少しだけ、ほんの少しだけなら、一緒に入ってみたいな〜って思わなくはないけど、そんなものは緊張によってかき消されている。


「じゃ、じゃあいくわよ・・・・・・」


「お願いします。」

「はいっ!」


私は先程から緊張しっぱなしだが、この2人は妙に落ち着いている気がする。少し不思議に思って振り返ってみると、全然そんな事は無かった。

2人とも、今までに見た事が無いぐらい顔を真っ赤にしており、恥ずかしそうにタオルを握りしめていた。

私は、通算で100回以上ヘレナと一緒にお風呂にはいった事があるが、今までとは明らかに様子が違った。


ちなみに、水着は着ていない。エリナ様の命令によって、既に没収されており、私たちは入るしかなかった。

また、今日これから乱入することは、レオルドにも伝えていないらしい。


ようやく覚悟を決めた私は、恐る恐る扉を開けた。いつもと同じお風呂なはずなのに、その扉は重かった。


「入るわよ、レオルド。それと、こっちみたら殺す。」


突然入って来た事に驚いたレオルドが、こっちを見ないように、予め手をうっておく。


「は、入りますね、レオルド様。」

「うぅ〜お、お邪魔します。」

「失礼します。」


「あ、はい。」


私たちに背を向けたまま、レオルドは間抜けな返事をしていた。少し可愛い。

同時にほっとした。レオルドも、少なからず緊張してくれているようだ。

私たち3人+クレアの4人は、風呂場に入るとすぐにそれぞれシャワーの前に座る。こうすれば、レオルドから大事なところを見られないかるだ。まぁ背中は見られるけど。


レオルドに作ってもらったシャンプーやボディソープ、リンス、コンディショナー、トリートメントなんかをそれぞれお気に入りのやつを手に取り、丁寧に洗っていく。

昔は石鹸しか使っていなかった私たちであるが、レオルドが作ってきたこれらの素晴らしさを経験してからは、ほぼ毎日愛用している。

一体どのようにして作ったのかは知らないが、大量生産はできるものとできないものがあるようで、フルセットで使えるのは私たち家族か、一部の家臣の家族、大商人だけだ。


レオルドを好きになってからは、私はそういう今まで全く気にしてこなかったところにも目を向けるようになった気がする。

これが、ヘレナと一緒に昔読んだ本に書いてあった、好きな人ができると生活が変わるというやつなのだろうか。


しばらくして、身体を洗い終わると、私はレオルドから少し離れた位置にやって来た。

そして、入ろうとした直後に足が止まる。


湯船に浸かる時はタオルを取るのがマナーという話は、随分前にレオルドから教えてもらった。でも、タオルを取るという事はそういう事だ。

不意にレオルドがどうしているか気になった私は、彼の方を向いた。


「予想通り、新設したMYOHは優秀でした。ゆくゆくは、全員が、あの武器を装備できる段階まで進みたいですが、やはり弾丸の消費スピードが尋常じゃないので、当分はMYOHのみになりそうです。」


「強すぎる力は、あまり持たない方がいいという事ですね。」


何よっ!緊張しているのは私だけって事?


こちらをガン見しているんじゃないかと思っていたら、普通に今回の遠征についてエリナ様に報告していた。

ちょっと、いやだいぶムカつく。


それによって、私は恥ずかしさを忘れてお湯に浸かった。

久しぶりの風呂に、身体の疲れが一気に消えた。

私は、レオルドの事をほんの少しだけ意識しつつも、会話に参加した。


「でもレオルド、統一軍の本拠地をあんな何も無いところに置いて良かったの?確かに、アルバス河が近くにあるから、物資の搬入は簡単かもしれないけど・・・・・・」


「確かに、シュヴェリーンやジオルターンに置こうかなぁと考えた時期もあったんだけどね、テラトスタは軍港だし、シュヴェリーンは大陸西側最大の都市でしょ?出来るだけ、人が集まる所の近くに軍事施設を立てたくなかったんだよ。」


「確かに、他国の兵士がシュヴェリーンに駐留するのは少し困りますね。」


「それにほら、例え敵がシュヴェリーンを攻撃しようと思っても、テラトスタには大量の軍艦が待機しているから突破はほぼ不可能、陸路でもジオルターン、サックナ、ユトラ半島、トモタカの何処かが敵の襲来を察知して、すぐに行動に移せる。だから、主力をこの4つの都市の中心付近に待機させたかったんだよ。」


「なるほどね・・・・・・」


レオルドがサーマルディア王国の領土内に本部を置くと発表した時は、どうしてだろうと疑問に思ったが、これを聞いて納得した。

それと、統一軍を作った本当の目的も・・・・・・


レオルドは、誰よりもハーンブルク領の平和を望んだのだろう。

大陸西側が一つにまとまり、統一軍構想がしっかりと機能すれば、シュヴェリーン周辺には、完全な平和が訪れる。もし何かあっても、ハーンブルク家は武器を提供するだけで、後方支援に徹する事ができる。



遅れて、私は今更ながら気がついた。


レオルドの視線が、少なからず私の方に向いている事に。

きっと彼は、恥ずかしい気持ちを誤魔化すために、口を開いたのだろう。




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どうでもいい話


コンテストに参加していた事を完全に忘れていました。

ちなみに結果は落選。

まぁこの作品は、書籍化よりも読みやすさを優先したので、仕方ないですね。

言い訳じゃ無いですよ?ほんとですよ?

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