おまけ9 暇な時こそ行動すべし2

 首都シュヴェリーンから高速鉄道に乗って1時間半ほどの山奥で、とある計画が実行に移されていた。


「・・・・・・なんかデカ過ぎじゃね?」


「???レオルド様の注文に従って作成致しましたが?」


「そんな注文したっけ。」


「はい、とにかく大きなレース場が欲しいと、具体的な設計図と共に命令書を受け取ったと記憶しておりますが・・・・・・」


 ・・・・・・確かに言った気がしないでもないが、俺はおそらく言っていないと思う。何故なら、同封されていたという具体的な設計図を書いた覚えが無かったからだ。となると、誰かが俺の名前を使って現場に命令書を送ったという線が濃厚だ、では、犯人は誰なのだろか、俺には1人だけ心当たりがあった。


「まあまあ、いいではありませんか、レオルド。大は小を兼ねるとも言いますし、問題点は何処にも無いですよね。」


「やはり、お母様の仕業でしたか・・・・・・」


「ふふっ、何のことでしょうか。」


 この反応は、おそらく十中八九彼女の仕業で間違いないだろう。普通なら大問題となる行動だが、相手がお母様とあれば俺は責めることができない。それにお母様であれば、俺が指摘した場合を想定した対応策を既に用意しているだろう。要するに、責めるだけ無駄ということだ。むしろ、咎めるのではなく、このことを利用する方がずっといい。


「じゃあ、そういうことしておきます。」


「ふふっ、ありがと、レオルド。」


「それじゃあ改めて、サーキットの説明をしてくれるかな?」


「はい、名称が未定のこのサーキットは全長約10km、高低差約200m、コーナーの数は200弱という、バリエーションが豊富かつ複雑なコースとなっております。また、指示通りいくつかのセクションを観戦できるように整えました。ざっと20万人ほどの観客が観戦可能となっております。」


「素晴らしいな・・・・・・」


 俺が出した計画書の方は、全長3km、最大観客動員数6万人だったはずなので、お母様の修正によって規模が3倍超となったようだ。大は小を兼ねるとは言うが、世界初のサーキットとしては十分過ぎる出来となっていた。一体どれだけの予算が注ぎ込まれたのかは考えたくないが、自動車の存在を認知、普及させるにはちょうど良いかもしれない。


「確か完成は1ヶ月後だったよな。」


「はい、コースや建物自体は完成しているのですが、まだ電気や水が通っておらず、内装もできておりません。実際にレースイベントを開催できるのは、最短でも1ヶ月後でございます。」


「なら、1ヶ月後の休日にレースイベントを開催するから、それまでに全てを完璧にしろよ。」


「承知致しました。」


「ところで、コース自体はできているんだったよな?試走はしたのか?」


「はい、コースが完成した2週間前に、視察に来られたエリナ様が・・・・・・。」


「お母様に先を越されていたか・・・・・・」


 そう言えば2週間前、お母様が珍しくウキウキ顔でクレアと共に何処かに出掛けていたことを思い出す。おそらく、あの日がそうであったのだろう。もちろん文句を言いたいところだが、俺もお母様が羨ましがるようなアイテムを持っていた。


「なら、アレの試走をするか。」


「れ、レオルド様?!もしかしてですけど、アレの試走をするのですか?!」


「あぁ、せっかく持ってきたんだ。普通に考えて、走らせない手はないだろ。」


「で、ですが、危険では?」


「大丈夫だ、問題ない。やるのはレースではなく試走だ、俺が運転すれば危険はない。」


「ですが・・・・・・」


 周囲の反対を押し切って、俺は早速自慢のマシーンへと乗り込んだ。ここまで持ってくるのにはそれなりに苦労したが、その分楽しむつもりなので良しとしよう。早速、俺はマシーンの最終メンテナンスを行なった。こんなところでクラッシュして死ぬつもりは全くないので、アイと共に念入りにだ。


「よし、こんなところかな〜」


【まだ肝心の燃料を入れていませんよ、マスター。】


「やべ、忘れてた。」


 燃料の方も、通常の工程ではなくこのマシン用に特別製のものを用意した。面倒ではあったが、最高のマシンを作るための追求であると考えれば、俺は努力を惜しまなかった。持っている力を全て集結させ、使えるものは全て使い、俺は最高のマシンを作り出した。ちなみに、費用は全てポケットマネーから出した。ロマンのわからない人間からは、無駄遣いと罵られたが、俺は自分の信じた道を進んだ。


「よし、これでコンプリート。」


【では早速、試走と参りましょうか。】


「あぁ。」


 準備を終えた俺は、スタートラインへと向かった。観客席に座るヘレナから、心配の目線を受けながらも、俺は全ての準備を終わらせた。そして・・・・・・


「レディー、ゴー!」



 *



 観客が1人もいないことは少し勿体無いと思うが、この最高のサーキットで最高のマシンを走らせることは、これ以上ない快感であった。おそらく現時点で世界最速の俺のマシンは、颯爽とサーキットを駆け回った。


「いつか、このマシンで市街地を回って見たいな〜」


【運転に集中して下さい、マスター。それとも、運転を代わりますか?】


「いや、大丈夫だ。このままいく。アイは引き続き、サポートに専念してくれ。」


【了解。】


 その後、俺は自分のできる最善を尽くしつつ、サーキットを3周した。

 最速を目指すなら、身体の主導権をアイに譲った上で最速の走りをしてもらうのが最も簡単な手段ではあるが、俺はそれを選ばずにアイには俺の安全装置としての役割に専念するように言った。ここで俺が、理論値に近いタイムを出してしまったら、改善の余地が無くなってしまう。

 そのため、素人の俺の力だけで走ったタイムを記録して貰った。お母様の記録を大きく塗り替えることは出来たが、理論値から程遠い記録となった。世界最速のマシンであることを考えれば、少し勿体無い気もしたが、いずれ俺の記録が破られたら、また挑戦してみるとしよう。


「来月のイベントが楽しみだな・・・・・・」


【そうですね。】


 マシンから降りた俺は、ホッとした顔のヘレナの元へ戻ることにした。


「何処に行くのですか、レオルド。」


「お母様?!その格好は、まさかっ!」


「次は私の番です、燃料はあと何割残っておりますか?」


「まだ半分以上ありますけど・・・・・・」


「では、借りますね。」


 その後、お母様によるタイムアタックが行われ、最初の一周で、俺の世界記録は塗り替えられてしまった。

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