第5話 sideエリナ5

「レオルド様から手紙を預かっております。」


「ご苦労様です。他に何か言っていましたか?」


レオルドがデルミアン要塞攻略戦を開始してから一週間後、ハーンブルク軍2万、ジア連邦共和国軍3万、サーマルディア王国国防軍2000の合計5万2000の大軍を率いて、エリナは連邦国の南東の端に陣地を築いた。

拠点の設営が完了し、一息ついた頃、私の下に1人のSHSメンバーがやって来た。

彼は、私に一通の手紙を渡すと、とんでもない事を口走った。


「その手紙にも同様の事が書いてありますが、デルミアン要塞が陥落しました。」


「っ!!!本当ですか?」


「はい、間違いありません。レオルド様は、わずか3日足らずでラトシア王国のデルミアン要塞を攻略しました。」


「すごいじゃ無いか、あいつっ!」


諜報部隊からの報告を隣で聞いていた私の夫であるジルバートは驚きの声をあげた。例によって裏取引により、ジルバートは、サーマルディア王国軍から派遣された特殊部隊の一員という位置付けになっていた。


「え、えぇそうね。」


息子の活躍を上機嫌に喜ぶ夫とは反対に、私は驚きで言葉を失っていた。


デルミアン要塞、どうやら私の夫は知らないようだが私はもちろん知っていた。


「本当にあのデルミアン要塞なのですか?」


「はい、エリナ様が想像しているデルミアン要塞で間違いありません。」


デルミアン要塞、国立学校の文献で読んだ事がある。ヴィスラ河の向こう側にある、大陸西側五本の指にも入るとも言われるほど強固な要塞で、記録が残っている時代よりも前からこの場所を巡って何度も争いが起きたほど有名な場所だ。

一体どのようにして攻略したのだろうか。レオルドが率いているのハーンブルク軍はおそらく1万5000程度、だったはずだ。

しかも、要塞攻略に要した時間は、わずか3日足らず。

この短時間で、要塞攻略を成功させたという事は、アレしか無い。


「という事はやはり、『L-1』ですか?」


「はい。レオルド様が考案した、砲撃による波状攻撃を3日間浴びせ続けた上での東西からの同時攻撃によって、敵は手も足も出さずに降伏しました。自分もこの目でその様子を見ましたが、はっきり言って我が軍の圧勝でした。」


「そうですか・・・・・・」


「さらに、我が軍の損害は百名ほどのみだと聞いております。今回の戦闘は、まさしく歴史を動かすものだったでしょう。」


男は、少し興奮気味に話した。

そして、私は遅れながらにして気づいた。私は今の今まで、デルミアン要塞の存在に気が付かなかった。

つまりレオルドは、あえてデルミアン要塞の存在が私の耳に入らないように立ち回っていたという事だ。

おそらく、私に聞かれたら止められるかもしれないと考えたのだろう。


「レオルドの今度の動向について、何か聞いていますか?」


「いえ、特には・・・・・・」


「では、今すぐ戻って、レオルドに伝えておいて下さい。『引き続き頑張って下さい』、と・・・・・・」


「了解っ。」


私がそれだけ伝えると、男は走って帰っていった。

私は、ほっと一息入れた。

実は、黙ったままでいるのはレオルドだけでなく自分もであった。


「敵の予想兵力はどれほどですか?」


私は、近くに立っていたエルフの少女スピカに尋ねた。

すると、知っていた答えが返ってくる。


「ポラド王国5万とリトア王国3万の合計8万です。両軍とも、3000mほど離れた場所で準備を進めております。」


レオルドがエラリア王国とラトシア王国を同時に相手している頃、母であるエリナはリトア王国とポラド王国を同時に相手していた。


既に、何度か小規模の争いは起きており、両軍に死傷者は発生していた。

騎馬隊がメインのリトア、ポラド連合軍に対して『M-2』を装備した歩兵部隊がメインのハーンブルク軍は善戦していた。

敵の攻撃手段は、基本的に弓を射るか騎馬隊を使って無理やり渡ろうとするかの2択である。それに対して、ハーンブルク軍は、銃撃による一方的な攻撃が可能であった。


このままでは突破は不可能だと判断した連合軍は、数の勝負に持ち込むために大規模攻勢による強行突破作戦を立案していた。


「ではやはり、そろそろですか?」


「はい、SHSの情報によると、本日の日が落ち始めた頃に総攻撃を行うとの事です。夜間の銃撃がほぼ不可能に近いため両軍に多数の死傷者が出る激しい戦闘が予想されます。」


「このまま何もしなければ、ですよね。」


「はい。」



事前にその情報を得ていたエリナには、しっかりとした作戦があった。それは・・・・・・


「ほ、報告します。敵の総攻撃が開始されました。」


「数はどれぐらいですか?」


「はい、およそ6万かと。今まで温存してあったものが一斉にやってきました。中には、敵の将軍と思われる人物も混ざっているとの事です。」


「では、手はず通りにお願いします。」


「了解しました。」


「あなた、どうかご武運を・・・・・・」


「おうよ。」




国境付近で睨み合いを続けていた両軍であったが、痺れを切らした連合軍がついに大規模攻勢を開始した。


それに対して、ハーンブルク軍は落ち着いて対処をしながら後退していった。

そして、殿(最後に残って味方が撤退する時間を稼ぐ事)を任された部隊は数々の新兵器を乱発した。簡易版スモークや簡易版ナパームなどの化学兵器や、落とし穴や馬防柵のような古典的な物までを乱用し、さらに砲弾と銃撃のおまけ付きである。


そしてそれを抜けた先には・・・・・・


「敵は弱っている、銃を握りしめ、撃ち続けろっ!」


500門の機関銃を含む、簡易要塞が作られていた。

そして、敵部隊はなすすべもなく散っていった。


______________________________


どうでもいい話


皆さん、台風には十分気をつけて下さい。

こういう時は、家でゆっくり私の作品を周回しましょう。


昔、私の前作(200話)を5周した猛者がいました。



あ、それと今回で100話目です。応援ありがとうございます😊

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