第7話 sideイレーナ8

「手を打つ事にするわ。」


「手、ですか?」


「えぇ、良い案を思いついたの。」


隣に立っていたセリカは、手元の資料を見ながら私に聞き返した。

ハーンブルク軍の兵達に疲労が見え始めた事をきっかけに、私はある作戦を考案した。

軍全体の作戦や指揮は私が取っているが、裏方、つまり食料や弾薬の計算などはセリカが行っていた。というわけで、今現在の戦況から作戦実行が可能かどうかを確かめるために、私はセリカに相談する事にした。

真の狙いを伝えつつ、それを行うための布石を伝える。


「なるほど・・・・・・面白い作戦ですね。レオルド様が好きそうです。」


「でしょ?私も考えていて思ったわ。この作戦は、私がレオルドと一緒にいたからこそ思いついた物だと思うわ。」


レオルドがいなかったら思いつかなかった事だな、と思いつつ、そもそもレオルドがいなかった今の自分は無かっただろうとも思う。

一番最初の戦争、旧サラージア王国と旧トリアス教国戦争は、ハーンブルク軍がサラージア王国軍を抑えたからこそ勝てた戦争だ。だから、レオルドがいなければ、彼がライフル銃を開発していなければ、負けたのはこちら側だったかもしれない。

だから私の人生は、いや私たちの人生は、彼から大きな影響を受けていると言える。


「きっと、長く一緒にいるうちに思考が似たのね。」


「最新の心理学によると、好きな方とは口癖や思考が似るらしいですよ。」


「そう・・・・・・じゃあ準備を始めるわよ。」


「了解ですっ!」


見落としはどこにも無いはず、私は心の中で作戦について再確認しつつ、やるべき事をやり始めた。





その日から、ハーンブルク軍はある行動に出た。パラス王国軍を一掃する事はおそらくできないが、大ダメージを与える作戦の準備を行う。

今のハーンブルク軍の目的は、パラス王国軍にこの防衛ラインを抜かれない事だ。突破されれば、せっかく行った補給船寸断作戦が水の泡となってしまう。もちろん、ハーンブルク軍の被害をできるだけ少なくする事が第一の目標だ。


「今回の作戦は、失敗したならば撤退すればいい内容だわ。何か質問はあるかしら。」


「「「・・・・・・」」」


落ち着いて周りを見渡す。私自身が、何か見落としている可能性もあるから、仲間の意見を聞く事は大事だ。

誰もいない事を確認した私は、作戦の最終確認を行うために設けた軍議を終わらせた。


「全員、命大事にでお願いするわ、それじゃあ行動を開始っ!」


「「「了解っ!」」」


私がそういうと、部下達は一斉に持ち場へと向かって行った。それぞれが、マニュアル化された詳細な作戦内容を頭に入れつつ、最終確認を行う。

準備は完了した。

作戦終了まではおそらく1ヶ月ほど、やるなら今だ。

部下達が出て行ったあとで、最後まで残ったセリカは心配そうに尋ねた。


「皆様の前では聞きにくかった事なのですが、失敗しても良いというのは本当なのですか?」


「えぇ、レオルドの計算では、例えガラシオル帝国が潰れても、ハーンブルク領及び西方統一同盟の国々が潰れる可能性はほとんど無いそうよ。まぁ、最悪の結果になれば苦労が増えるからガラシオル帝国は残す方向で行きたいとは言っていたわ。」


「そうなのですね。」


「えぇ、ハーンブルク領は今、ゼオン獣王国の完全な占領を優先しているわ。だから私達は、勝つ事より生き残る事を優先した方が良いの。」


「わかりました。では、それで行きましょう。」


「頼んだわよ。」


「はいっ!」


作戦の内容は、単純だった。

私が率いるハーンブルク軍別働隊は、確かに強力だ。だが、敵も少しずつハーンブルク軍のライフル銃に慣れ始めているし、何より疲労や弾薬の心配もある。

そこで私は、敵の心を折る作戦を立てた。


第一段階

南北に伸びる長い防衛ラインのうち、ハーンブルク軍が担当しているラインの南側で小規模な反抗作戦を行った。

同時に、パラス王国軍を挟んだ反対側に位置するガラシオル帝国軍に対しても支援要請をだし、合流を図った。


結果は成功、不意をつけたのもあったが、ハーンブルク軍とガラシオル帝国軍の急な反抗作戦に対応するプランを持っていなかったパラス王国軍は、すぐに対応に追われる事となった。


続いて第二段階

ガラシオル帝国軍の余剰戦力の一部をハーンブルク軍側に回してもらい、手の空いた精鋭部隊が、囲い込んだパラス王国軍を押し込んむ事を狙った。


これは失敗、戦争が長期化したからか、パラス王国軍は本拠地周辺に対ライフル銃用の塹壕や土塁を用意する事に成功した。これにより、ライフル銃を使った強引な突破はほぼ不可能となった。

まさかこれほど早くライフル銃の対策をされるとは思っていなかったが、まぁやられたのだから仕方ない。一応、手榴弾という対抗手段はあるが、この場で切るべきカードでは無いと判断した私は進軍を止めた。


悪くない。


この突然の攻撃によって、パラス王国軍は軍全体が大きく海側へと寄った。

そして、ハーンブルク軍の猛攻がひとまず止んだ今、パラス王国軍は現状の打開作戦を立てるため、敵は軍を休めているはずだ。

その上、より防御を固め、じっと時を伺うはずだ。


ここだ。


このタイミングで私達が動ければ・・・・・・


私は作戦の最終段階へと移ろうとしていた。


だけど、私達の行動は一歩遅れた。


「ほ、報告しますっ!後方から、ゼオン獣王国軍と思われる一団を発見っ!我々は、挟まれましたっ!」


「なっ・・・・・・」


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