第6話 sideイレーナ7

「イレーナ様、本日の軽傷者20、重傷者は無しでした。どうやら敵の勢いはかなり落ちているようです。」


「そのようね・・・・・・」


イレーナ率いるハーンブルク軍は、連日パラス王国軍と激戦を繰り広げていた。素早く防衛ラインを築き終えたハーンブルク軍に対して、パラス王国軍は数の利を活かした攻撃を行った。

だが、ライフル銃の恐ろしさを十分に理解したからか、パラス王国軍の勢いは日に日に弱まっていった。亜人とはいえ、ライフル銃を前にして突っ込んでいける者は少ない。たいていの者は足がすくんで踏み出せなくなり、場合によっては逃げ出す者もいたほどであった、


「今日も死傷者は無し、戦果だけ見れば順調な結果ですな。ですが、数字の割に我が軍はあまり良く無い状況に陥っております。」


「えぇ、私も気付いているわ。」


元はトリアス教国軍将軍の娘であった少女セリカは、現在使えている主君である私に今日の出来事についてまとめた者を報告した。

死傷者をほとんど出さない、完勝と言える内容を毎日続けていたハーンブルク軍であったが、その分だけ弾薬と精神だけが擦り減る日々が続いていた。ハーンブルク軍の軍事介入からおよそ1ヶ月、シュヴェリーンから出た時から数えるとおよそ3ヶ月が経過しており、疲労が溜まるには十分な時間であった。

そしてこの、精神的なダメージというのが現在ハーンブルク軍にとって最大の脅威となっていた。


家族から離れて1人異国の地で戦争、想像以上にストレスだわ・・・・・・

これは、兵士への精神的なダメージを考慮すると、長期戦はなるべく避けた方がいいわね。でも、かと言って強引な手段に出るほどの余裕は無い、どうしようかしら・・・・・・


精神的なダメージの他にも、夜の寒さと野宿の辛さ、そして何より戦争をしているという事実が兵士達を苦しめていた。

今日の戦争が初めてという兵士も多く、圧倒的な武器の差があるとはいえ、油断はできない状況だ。


前線で直接指揮を取っている部下からも情報は入ってくる。


「想像通りの戦果、そして想像以上の苦戦を強いられております。慣れない土地へのストレスや、初陣故の苦戦が原因かと・・・・・・」


「なるほどね・・・・・・」


レオルドによるハーンブルク領大改革からおよそ10年、ハーンブルク領の特に4大都市やハーンブルク鉄道の駅がある都市は、見違えるほど発展していた。人々の生活は豊かになり、生活レベルは格段に上昇した。さらに、野宿や過酷な環境下での生活をした事が無い、という他の国であれば考えられない生活をする者の数がかなり増えた。その影響もあってか、想像以上に兵士達へのダメージが大きい。


そんな事を考えていると、私は昔の出来事がふと脳裏をよぎった。

あれは確かハーンブルク家にやって来た数ヶ月経った頃、レオルドがこんな事を言っていた事を思い出した。


「イレーナ、ハーンブルク領での生活は慣れた?」


「えぇ慣れたわ。どうしたの?そんな事聞いて・・・・・・」


私は当時、お父様からの命令に従って、レオルドとなるべく一緒にいるよう心掛けた。そこには、行動や発言などから、今や大注目の若き天才から少しでも技術が学べれば、という狙いがあった。

だけど、私は苦戦ばかりしていた。

彼の視野の広さや創造力の高さ、先見性はとても真似できるものじゃなかったからだ。


「俺も昔、住んでいる場所や生活が急に変わった事があってね。自分で言うのも何だけど、あの時は凄く苦労したよ。」


「何それ、あなた生まれはシュヴェリーンなんでしょ?」


「まぁ、そうなんだけどね・・・・・・」


私が冷静なツッコミを入れると、彼は苦笑しながら答えた。


「例えばほらあそこにある毛布、ここに来たばかりの時は、凄く気持ち良いって思ったでしょ?」


「えぇ、あれは革命的だったわ。」


「でも、今では当たり前のように使っているでしょ?そして、あれ以外で寝ると寝心地が悪いなって思うようになったはずだ。」


「っ!」


図星だった。

ついこないだ、私は船の上で一夜を過ごしたが、凄く寝心地が悪いなと思った。だが、考えて見れば私がここに来る前、私はあそこと同じレベルのベッドで寝ていたし、ハーンブルク領に来る時の船の上は、そんな事を全く思わなかった事を思い出した。


「人は、自分が思っている以上に、周囲の環境に敏感だ。美味しい物を食べたり、贅沢な暮らしをすればするほど、戻れなくなる。枕が違うと寝れない人だっているし、お酒を飲まないと働かない人もいるからね。」


「最後のやつはただのアルコール中毒者でしょ?」


「あはは、そうかもね。でもやっぱり、俺たち人間は、変化に凄く弱い生き物なんだ。だがら・・・・・・少しでも不安や不満、文句があったら言ってね。頑張って治すから。」


懐かしい記憶だ。

そして私は今、彼があの時言っていた事の大切さを痛いぐらいに痛感していた。


「だめね、私も相当精神的なダメージを受けているみたいだわ。」


「心中お察しいたします、イレーナ様。ですが、もう一踏ん張りでございます。」


「えぇ、わかっているわ。」


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どうでもいい話


尺稼ぎ〜

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