第5話 偶然

「ほ、報告しますっ!後方に、ハーンブルク軍の軍艦を多数確認っ!」


「なっ・・・・・・」


長く延びた戦線の内の北側、ラインラド地方の防御力が他の戦線に比べて弱いと予想したパラス王国軍は、動員可能な全戦力を集中させた。

兵士の数が多かったため想像以上に時間がかかったが、何とか全部隊を一箇所に集める事に成功し総攻撃を仕掛けようとした矢先、恐ろしい知らせがパラス王国軍本陣へと飛び込んで来た。報告は続く。


「後詰めとして待機していた補給部隊が接敵し、大打撃を受けておりますっ!」


「そんな・・・・・・」


「現在、生き残った者は少量の食料を抱えてこちらに向かっておりますっ!」


「ハーンブルク軍はどうなった。」


「目下調査中ではありますが、部隊を複数に分けつつ、こちらに向かっておりますっ!」


もちろん、ハーンブルク軍の強さは知っているし、パラス王国軍は彼らに対して最大限の警戒をしていた。

だが、背後を突かれる危険性を、全く考慮できていなかった。数十万人分の食料を運んでいる最中であった補給部隊には、ハーンブルク軍のライフル銃に対抗できる手段は一切なく、大打撃を被る結果となった。


例え100万の兵士を揃えても、食料が無ければ人は戦えない。それどころか、大量の餓死者を出してしまう事になる。


そして、悪夢は続く。


「ほ、報告しますっ!」


「今度は何だっ!」


ただでさえ、先ほどの報告によって混乱が広がっていたパラス王国軍の本陣に、更なるニュースが飛び込んで来た。


「前線の偵察部隊からの報告です、ガラシオル帝国軍主力部隊を確認、迎撃体制を整えながら我々を待ち構えております。」


「そんな馬鹿な・・・・・・我々は、誘い込まれたとでも言うのか・・・・・・」


パラス王国軍の総大将である大王は、現実を直視できないほどの慌てようであった。力を失った大王に代わって側近の1人が声を振るわせながら尋ねた。


「それは、確かなのか?」


「はい、間違いありません。さらに、とても数日では作れない規模の要塞が複数確認されました。どうやら敵は、最初から計画通りだったようです。」


「終わりだ・・・・・・」


せめて、ガラシオル帝国軍か、ハーンブルク軍のどちらかが、十分な戦力を揃えていない状態であったならば、強引な手段を使ってハーンブルク軍を突破できるかもしれない。

だが、後方にガラシオル帝国軍がいるとなると、話は変わってくる。背中を見せれば背後を突かれるし、現状維持のままでも背後を突かれる形となる。

それだけでは無い。

聞けば、襲撃された補給部隊の残党が散り散りになってこちらに向かって来ているとの事だ。もし万が一、この情報が兵士達の中で噂になれば、士気の急落は避けられないだろう。

場合によっては、内部反乱もあり得る。亜人同士は、比較的争いが少なく、同じ亜人を尊重する性格をしている者が多いが、当然例外も存在する。そのような者達が不満を爆発させ反乱を起こせば、どれだけの被害が出るか想像がつかない。

つまり、どの道を選んだとしても、パラス王国には苦しむ運命が待っていた。


「ガラシオル帝国軍本隊とハーンブルク軍、果たしてどちらがより脆弱なのだろうか・・・・・・」


部下達は、頭を悩ませた。

より生存率が高い選択を必死に考える。

長考の末、ある結論に至った、それは・・・・・・


「撤退だ・・・・・・」


「「「え?」」」


「今回の一件で我々は補給線を完全に絶たれた形となった。援軍を呼ぼうにも、援軍がここにたどり着くまでの間ここで待機するのは不可能だ。ならば、撤退しかあるまい。」


「「「・・・・・・」」」


誰も、反論は出来なかった。

彼らの頭の中には、仲間を見捨てて突撃させるという考え方は無かった。

大きな変化は無くていい、自分達が生き残る事を第一に考えた判断であった。


「これより、全軍を持ってハーンブルク軍の防衛ラインを突破するっ!突破できなければ、我が軍は修復不可能なレベルの被害を被る事となる。故に、これは絶対に負けられない戦いだ、全員気合いを入れろっ!」


「「「おうっ!」」」


彼らは、ハーンブルク軍に挑む道を選んだ。

冷静に考えれば、南方にあるガラシオル帝国の防衛部隊を攻撃する道が一番の最善手だったのかもしれない。

だが、結果的にこの選択は、ハーンブルク軍の痛い所を突く形となった。

人々の予想を裏切って・・・・・・





「・・・・・・これが噂に聞くハーンブルク軍の銃というものか、想像以上だな。」


「これでは、兵達の足が止まるのも納得ですな・・・・・・」


数万の兵士を殿とし、ゼオン獣王国の大王を含めたゼオン獣王国軍本隊はハーンブルク軍の防衛部隊と正面からぶつかりあっていた。

最初の方は、順調に進んでいた彼らであったが、ある時を界に兵士達の動きが止まった。

彼らは、ライフル銃という初めて見た武器に恐怖していた。

剣や槍のような手に持つ武器での殴り合いしか経験が無かった彼らにとって、ハーンブルク軍の武器は大きな脅威であった。

兵達は混乱に包まれ、犠牲者の数は日に日に増えていった。


そんな中、ハーンブルク軍が脅威と位置付けた『特異体』が、前線に到着しようとしていた。


______________________________

どうでもいい話


今さらだけど、『特異体』って言い方ちょっと微妙な気がする。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る