第8話 sideユリア6

『縁の下の力持ち』という言葉がある。

 これはレオルド様がよく使っていた結果、国民にの間で広まった言葉の一つで、見えない所で物事を支えてくれている人や存在の事をさす。

 私は今まで、この言葉に一番似合っているのは自分自身だと思っていた。


「レオルド様、こちらのサッカー関係の書類のチェックをお願いします。」


「ありがとうユリア、いつも助かっているよ。」


 レオルド様やヘレナ、イレーナなんかは、ハーンブルク領と共に育ってきており、よそ者に分類される私は他のみんなに比べてあまり人気がなかった。もちろん、人気があれば良いという話ではないが、国家を運営する上では人気の高さは支持率の高さに繋がり、同時に仲間の多さに繋がる。レオルド様なんかは様々な業界の人々と交流があり、顔が広い。そのため仲間が多く、何かを計画すれば、勝手に人が集まってきて、どんな事でも実現させてしまう。それはつまり一緒に仕事をしたくなるほど信頼されているという事だ。

 これは、ヘレナやイレーナについても同様だ。2人ともファッション雑誌やスポーツ雑誌のインタビューの依頼がよく来るし、ヘレナ様はハーンブルク連邦だけでなくサーマルディア王国からもよく仕事の依頼が来たりする。

 一方、私のところにそのような話が来るのはかなり稀だ。私の生まれはリトア王国という辺境の小さな国であり、人口よりも家畜の方が多いような国だ。しかも私は、世間的に見れば敗戦国の姫であり、あまり信頼されていないという事は嫌でも感じている。だからその分、レオルド様に貢献しよう、と強く思った。表舞台に立たなくてもいい、自分は日陰の人間でもいい、私の事を認めてくれる存在がいればそれで・・・・・・


「ユリア、ちょっといいか?」


「はい、何でしょうか・・・・・・」


 それは、突然の話だった。

 日はとっくに沈んでおり、照明が無ければまともに政務をする事もできなくなった頃、レオルド様に1人だけ呼び出された。


「再来週の休日、今やっている作業が終われば、久しぶりに休みが確保できそうなんだが、何処か行きたい所はあるか?」


「え?再来週ですか?」


「あぁ、再来週の休日だ。」


 突然の事ですぐには理解できなかったが、だんだんとレオルド様言わんとしている事の意味がわかった。

 でも、確か・・・・・・


「ですが確か、再来週はクルト様との会談があるんじゃ・・・・・・」


「最近はユリアとの時間を取れていなかったからな、ヘレナにお願いして、時間を作ってもらった。」


「ヘレナさんが・・・・・・」


 この時私は、自分の考えが少し間違っていた事を思い出した。私は確かに『縁の下のの力持ち』だ。しかし決して、支えてばかりではない。

 人は皆、支え合いながら生きている。私を含め人々は、『縁の下の力持ち』であり、人生の主人公なのだ。


「仕事の事は一切忘れて楽しもうな。」


「はい!」


 そして、私にとっての幸せはレオルド様に愛される事なのだ。他人がどう思うと関係ない、私には私の幸せがあるのだ。


「それじゃあ、私はサラにできたというスイーツ店に行ってみたいです。」


「サラか・・・・・・。分かった、準備しておくよ。」


「わかりました。楽しみにしていますね。」



 *



 楽しみにしている事があると、人はそれ以外の事を考えられなくなるもので、私はここ数日政務に集中できない時が多々あった。

 理由はもちろん、今日のデートを楽しみにしていたからだ。

 鉄道から降りると、外は少し暑かった。ハーンブルク連邦王国は全体的に夏は涼しく、冬は寒い気候だが、海に近いここサラは他の都市よりもジメジメとした気候であった。


「鉄道網は構築できたけど、都市間の移動に時間がかかり過ぎるのがネックだな・・・・・・」


「レオルド様、仕事の話は帰ってからにしましょう。」


「あ、あぁ、すまんな。」


 レオルド様は、時々こういう事がある。仕事人間だからか、プライベートでも仕事の事を考えてしまう人だ。まぁその思考力によって世界は平和になっているので、必要な事ではあると思うが・・・・・・


「着いたぞ、ここだ。」


「ありがとうございます。」


 しばらく歩くと、目的地が見えて来た。私は初めて来た店であったが、ここはハーンブルク家との繋がりが強く、レオルド様は2回目だそうだ。

 先日レオルド様が発表したエアコンの涼しい風が私に当たった。このエアコンはまさに人類にとっての革命であり、まだ発売から1ヶ月ほどしか経っていないにも関わらず色々な場所で活躍していた。

 特に、ここサラのような気候の地域では、大活躍していた。


 私たちはそれぞれケーキと紅茶を注文して席に座った。今日はお忍びで来ていたが、レオルド様の髪色を隠す事はできず、おそらく周囲の人々にバレていたが、向こう側も察してくれたようで突っ込まないでいてくれた。


「では、食べようか・・・・・・」


「はいっ!」


 ______________________________

 どうでもいい話

 ケーキ、美味しかった・・・・・・

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