第12話 遊戯

 パーティー会場にやって来た俺たち家族は、俺とお母様と筋肉、お父様とユリウスとフィリアの2つのグループに分かれて挨拶回りを行っていた。ちなみに、クレアは参加させるわけにはいかないのでお留守番だ。

 まぁこれに関して仕方がない。王城でのパーティーでは、使用人は参加しないのがマナーらしい。


 マジかよ、筋肉だるまと一緒かよ、っと残念に思っていたが、本当に俺を悩ませた問題はそこではなかった。


「これはこれはエリナ殿、是非我が娘をご子息の妻に・・・・・・」

「いや、私の娘を・・・・・・」

「私の妹を・・・・・・」


【人気者ですね、マスター。】


 そうなのだ、今まで忘れていたが、俺は一応優良貴族の長男なのだ。

 そして、この屈辱を受けたことがない諸君らにはわからないかもしれないが、まぁうざいのよ。

 しかも最後のやつなんて、自分の妹を薦めてきたぞ?一体どれだけ年齢差があると思っている!軽く30はあるだろうが!

 なんて、普段の口調で突っぱねる事ができたらどんなに楽だろうか。

 特に、爵位が俺たちよりも上だと、さらにやりにくい。

 公爵?侯爵?紛らわしいんじゃぼけっ!

 と、俺ならこうするだろうな、と考えていると、お母様はさらに上の回答を行った。


「申し訳ございません、レオルドは我が伯爵家を継ぐ立場ですので簡単には決められません。どうしてもというなら長女のスワンナはいかがでしょうか。」 


 と、笑顔で尋ねるお母様。それを聞いた貴族達は蜘蛛の子を散らすように逃げていくのだ。


「申し訳ない、少々用事を思い出して・・・」

「私も・・・」

「私も・・・」


 なんと、筋肉だるまを盾に使ったのだ。まさしく天才的である。筋肉だるまの年齢は現在12歳、貴族は普通10歳までに婚約者を選ぶのが普通とされている。

 ようは行き遅れである。

 剣の腕は申し分なく、魔力持ちであるのにも関わらずこの人気の無さである。これには思わず笑ってしまいそうになったが、グッと堪えた。

 当の本人はと言うと、隣でつまみ食いをしていた。


 そんなこんなで、休憩を挟みながら挨拶回りをしていると、会場が再び盛り上がったのがわかった。

 見ると、遠くからでも目立つ赤毛の親子がパーティー会場へと入ってきた。その直後、多くの人々が彼らを囲む。


【聞こえて来た音声から推測すると、先頭にいる男性はサーマルディア王国宰相のギュスター=イルフェルンだと思われます。】


 宰相って確か、王宮のトップだよね。って事はすごい人?


【はい、彼はその実力を買われ、平民であるにも関わらず宰相という地位まで上り詰めた天才です。中でも、人を見抜く力がすごく高いそうです。】


 って事は、あの人が犯人かもな。


【はい、現段階での、最有力候補です。】


 もちろん俺も、ただこのダンスパーティーに参加したわけではない。うちの警備システムを掻い潜り、製鉄技術を盗み取ろうとした者達がいたと報告があったのだ。

 幸いにも、コークスの製造方法をわからないように偽装しておいたから大丈夫だと思ったら、王都でハーンブルク家が革新的な製鉄技術を編み出したのではないか、という噂が広まってしまった。

 これは、非常にまずい展開だ。この国の王宮などに知られるならばまだ何とかなるが、大国がその技術を求めて侵略してくるかもしれないというからだ。

 今のハーンブルク領では、圧倒的な物量によって瞬殺されてしまう事は目に見えている。


 ハーンブルク領の北側にあるサラージア王国、東側にあるトリアス教国、ギャルドラン王国、そして海を挟んだ向こう側にはガラシオル帝国とパラス王国がある。


 幸い、どの国とも戦争状態ではないものの、友好的国はなく緊張が高まっている。

 結託され、同時に攻撃されれば滅びるかもしれない状況である。

 実際、俺が生まれてから今日に至るまでに、何国か滅んだ国もあるらしい。


 そのため、犯人を是非とも突き止めて、報復をしたいと思っていたところであった。


 すると、例の赤毛の親子がこちらに歩いて来た。どうやら、お母様に話したい事があるらしい。


「お久しぶりです、エリナ殿。相変わらずお元気そうですね。」


「こんにちは、宰相様。元気なのは確かですが、あなたが流した妙な噂に苦しめられているのも確かです。」


「それはそれは、何の事かわからないですね。」


 何か心当たりがあるような含みを持たせながら、このおじさんは答える。

 俺でもわかる、こいつだ。こいつがやっている。


「おや、この子が噂のレオルド君ですか?」


「はい、レオルド・フォン・ハーンブルクです。」


「ほーほー君がか、報告では聞いていたが本当に6歳なんだな。私の娘の一つ下じゃないか。どうだろうか、隣の部屋で一つ語り合いたい事があるのだが・・・・・・」


「いいでしょう、レオルドもいいですね。」


「はい、お母様。私も一つ聞きたい事がありましたので。」


「っ!!!ではついて来て下さい。」


 お母様は、スワンナにお父様の所へと戻るように言うと、俺たちは宰相さんに案内されて、小さな個室に座った。

 部屋には、俺とお母様そして宰相さんとその娘の4人しかおらず、張り詰めた空気となっていた。


「今回お2人と話し合いの席を設けたいと思った理由は簡単です。製鉄技術を公布してほしいからです。王国としては、全体的に鉄不足に悩まされております。どうしても、軍部に鉄を優先されてしまい、あなた方の領地のように道具に鉄を使えないのです。」


 彼らの要求は予想通りのものであった。

 お母様が何て回答するのか気になり、お母様の方に顔を向けると、黙ったまま俺に合図をしてきた。

 どうやら俺が答えなきゃらしい。


「もし仮に、我々が画期的な製鉄技術を編み出したとしたら、その技術を真似すればいいんじゃないですか?」


「真似というのはどういう事ですか?」


「鉄はご存知の通り、鉄鉱石を熱する事によって作ります。」


「そうですね。」


「それは私達も一緒です。私は新たに製鉄所を作っただけで、特別な物は使用しておりません。なら普通に、私達の物と同じ物を作ってみればいいじゃないですか?」


 これは、製鉄技術が既に王国に渡っているかどうかを調べるための茶番だ。この国に、還元という考え方はない。鉄を熱して不純物は取り除く、という作業を繰り返して純度を高めていくのが基本だ。

 コークスの存在を知らないのか、知っているけど作れないのかをはっきりさせたいからだ。

 視界の端で、全てを知っているお母様が笑っているのが見える。


「王国は既に実証実験を行いましたが、純度の高い鉄を生成する事が出来ませんでした。ここから、ハーンブルク家独自の方法があると判断しています。」


 どうやら知らないらしい。

 なら話は早い。


「という事は、ハーンブルク領の涼しい気候が原因なのではないですか?同じ方法を試してみて出来ないという事は、別に原因があるはずです。」


 俺は、隠蔽工作を施した。

 コークスの存在を知られないようにするために。

 だが、俺はこの選択によって、自分にどのような災いが訪れるのか知らなかった。



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 どうでもいい話


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