第3話 亜人
亜人
人間でありながら、人間とは違う部位を持つ者達の総称。
この世界には、ドワーフやオーガのような亜人がいる。とは言ってもドラゴンのような単体で強力な戦力となるような存在はいないし、亜人の身体能力も人間とそれほど変わらない。
魔力持ちや魔法式持ちが生まれる可能性もそれほど変わらないので、ほぼ一緒だ。
だが、人間と亜人の間には大きな心の溝がある。現に今も、大陸の中央部では争いが絶えないそうだ。
✳︎
「レオルド様、危険ですのでお下がり下さい。」
懐から特殊なナイフを2本取り出したクレアは、俺を守るように前に立った。
報告にあった集落に部下十数名を連れて向かっていると、近くにあった木の下で1人の少女が寝ているのを発見した。
警戒するのも無理はない、彼女の耳には亜人の象徴でもある少しとんがった耳が付いている。
【俗に言うところのエルフだと思われます。】
おーまじか。エルフがいる事は知っていたけど、まさか本物に出会えるとはな。
【おそらく、近くに集落があるのでしょう。案内してもらう事を推奨します。】
まぁたしかに、ここを占領するなら仲良くしなきゃだと思うしな。
「大丈夫だよ、寝ているみたいだし。」
「そうよクレア。それに向かうは1人こっちは20人、負けるはずがないわ。」
「わかりました。」
取り出した2本のナイフをスカートの中に仕舞う。
さて、どうするか。変に刺激したら面倒な事になるぞ・・・。
【とりあえずその子を連れて集落の方へ向かいましょう。何もしていない事を証明するためです。】
わかった、そうしよう。
「しょうがないからこの子を起こす事にするよ。」
「そんな、危険ですっ!」
「放置する方が危険だ。攫われたと勘違いされたら面倒だし。」
俺は、彼女に近づくと少ししゃがみ、彼女を起こそうと試みる。
2、3度身体を揺らすとすぐに目を覚ました。
「ん・・・・・・ん?ん?ん?」(亜人語)
「よ、元気か?ってこれじゃわかんないか。」
やはり亜人なので亜人語でないと通じないようだ。幸い俺は、実家で散々亜人語を叩き込まれたのでまあまあ話せる。
「何か寝ていたみたいだけど大丈夫か?」(亜人語)
「に、人間ーー?!嘘・・・・・・それに、私たちと同じ言葉?」(亜人語)
「そこは気にするな。それより集落に案内してくれないか?」(亜人語)
「集落・・・・・・まぁいいよ。案内してあげる。」(亜人語)
「どうやら案内してくれるみたいだ、A大隊は俺と一緒に集落に顔を出す。B大隊は付近の捜索を続行してくれ。」
「「「了解」」」
どうやらこの島の住人は警戒心が無いらしい。普通余所者を村には案内しないだろ。
まぁ、案内してくれるならこれほど楽な事はない。
「そういえば君、名前は?」(亜人語)
「私はスピカ、よろしくね〜」(亜人語)
「俺はレオルドだ。こちらこそよろしく頼む。」(亜人語)
歩き続ける事10分ほど、報告にあった集落が見えて来た。
✳︎
「お客さん達、ここが私たちの街だよ〜」(亜人語)
先ほどの少女は嬉しそうに、俺たちを街に案内してくれた。
しかし、どうやらお気楽なのは、俺が出会ったこの子だけらしく、集落にいた住民達は俺たちを明らかに敵視していた。
俺を先頭に、ゾロゾロと集落の真ん中を歩く。集落と説明したが、その大きさはかなり大きく、大人から子供まで合わせればざっと3万人以上は暮らしていると思われる。
どのようにしてこのような集落ができたのかは知らないが、ここまで発展していると言う事は、長い間ここで暮らしていたのだろう。
エルフなら、森に住んでいるというイメージがあったが、彼らが住んでいるのは普通に山間の平野であった。
やがて、数十名の武器を持った兵隊を連れた1人の老人が俺の前に現れた。
「何しに来た、人間。」
驚いた事に、この集落のリーダーと思われる老人は、人類の共通語で話かけて来た。俺は一応、亜人語で答える。
「この島と国交を結ぼうと思ってここに来た。あなたがここの代表か?」(亜人語)
「ほう、我らの言葉がわかるのか。いかにもわしがこの集落の代表だ。皆には村長と呼ばれている。」(亜人語)
「そうか、なら話し合いの場を設けてくれないか?ここだと話しづらい。」(亜人語)
俺は、あくまで対話を試みる。武力による占領の方が楽そうだが、これほどの労働力を捨てるのはもったいないと思ったからだ。
「いいだろう、付いて来い。ただし、部下は2人までだ。」(亜人語)
【了解しても大丈夫です。むしろ好都合なまであります。】
アイからの連絡があったので、俺はすぐさま応じる事にした。
「わかった。」(亜人語)
そして、俺の護衛として来てくれたSHSのメンバー達に、別の命令を下す。
「イレーナとクレアだけ付いて来てくれ。他のみんなは、拠点の建設を手伝いに行け。」
「よろしいのですか?」
中隊の隊長が、心配そうに俺に尋ねる。だが、正直全く問題ない。
「あぁ大丈夫だ。これでも俺は結構戦える、最悪イレーナを囮にして逃げてくるさ。」
「ちょっと!私を囮にするってどう言う事よっ!」
部下は、俺の冗談に苦笑いしながら、敬礼した。
「わかりました、くれぐれも危険な事はしないで下さい。」
「わかっている。それと、例の物も見つけておいてくれ。今後のハーンブルク領発展に欠かせない物だ。」
「承知しております。では、失礼します。」
そう頭を下げると、来た道を引き返していった。
最悪、『アイ』に身体の支配権を預けて逃げれば問題ないだろう。
例え毒を混ぜられても、『アイ』であれば解毒も可能だ。俺は、細心の注意を払いながら、会談へと臨んだ。
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どうでもいい話
『アイ』優秀すぎる問題発生
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