ss-ホワイトクリスマス


時系列的には、第1部と第2部の間辺りを想定しております。

なお、こちらはifストーリーなので本編にはあまり影響しません。

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「そうか、そう言えばもうクリスマスなのか・・・・・・」


そろそろ自宅に帰ろうと思って外に出ると、びっくりするぐらいの寒さが俺たちを襲った。

マフラーやミトン、コートなどの防寒具を大量生産し、領民に配るなどの対策はしているが、やはり寒い。

今日は、ミドールへの視察に来ていたのだが、思ったよりも長引いてしまい、帰りがかなり遅れてしまった。


「今日が終われば明日はクリスマスイブですから、頑張りましょ、レオルド様」


「あぁ、それもそうだな。」


クレアに引っ張られながら、ハーンブルク鉄道へと乗り込む。クリスマス休暇のためか、今日はいつもより混んでおり、どの車両もほぼ満員状態であった。

もちろん、クリスマスという文化は、もともとあったわけではなく、数年前から始まったイベントで、ハーンブルク領にしか存在しないお祭りの一つだ。

いつもの突然の思いつきから始まったクリスマスではあるが、今ではすっかり恒例行事となっていた。


「そう言えばなんですけど、今年は何かサプライズイベントは行うんですか?」


「いや〜実はまだ何にも考えて無いんだよな〜」


「確か去年は、ケーキを大量に配りましたよね。流石に全員というわけではなく、抽選でしたけど・・・・・・」


「今年はラジオがあるから、ビンゴ大会とかやっても面白そうだなー」


毎年、俺は何かしらのサプライズイベントをするようにしており、昨年はケーキを、一昨年は高級牛肉を領民全員参加の抽選会で配るというイベントをやった。

というわけで、今年も何かやりたいな〜とは思っているのだが、正直あまり思いつかない。

今のところの案としては、ビンゴ大会を行おうかな〜と思ってはいるが、一家に一台ラジオの受信機があるわけじゃないし、ビンゴカードを用意するのも一苦労だ。

そんな感じに、案はあるけどどうしようか、といった状況であった。


「ビンゴですか、確か以前みんなでやりましたよね、あの時は楽しかったです。それを領単位でやろうなんて、流石はレオルド様ですね。」


「そんなに考えている暇とか無いから、そろそろ決めなきゃいけないんだけど、なかなか思いつかなくてね・・・・・・」


明日にはクリスマスイブ、明後日はクリスマスなので、そろそろ決定したいところではある。


「イベントも楽しみですが、私としてはホワイトクリスマスを体感してみたいですね。今年で4年目のクリスマスですが、そろそろ雪が降ってくれないかな〜と。」


「ホワイトクリスマス、か・・・・・・」



✳︎



「魔法使いの人に頑張ってもらうとかしてさ、クリスマスに雪を降らせる事は可能だと思う?」


【難しい、というより不可能に近いですね。マスターもご存じの通り、この世界は魔法こそあるものの、その威力は低いです。】


「だよな〜」


ハーンブルク領にも数百人ほど魔法が扱える者がいるが、普通の領民と大して変わらない場合が多い。

一部、魔力から水を生成できる者はハーンブルク軍支援部隊を、魔力を使って電気を流す事ができる者を研究を手伝ってもらっているが、1人で都市を壊滅させたり、瞬間移動が可能だったりする者は存在しない。

ましてや、雪を降らせる事ができる者なんているわけがない。


「アイの予想だと、雪は降らないんでしょ?」


【はい、現時点での当日雪が降る可能性は1%未満です。天変地異でも起こらない限り不可能かと。】


「じゃあ諦めるしかないか〜」


打てる手はもう無いという事を悟り、俺は天を仰いだ。まぁ、インターネットすら無いこの世界で、そんな芸当が可能なわけがない。


【一つだけ、あまりおすすめはしませんし、可能性は低いですが心当たりが無い事もないです。】


「本当かっ?!」


【おすすめはしませんが・・・・・・】


「そんな事いいからさっさと教えてくれ。」


【あの方を頼ってみるのいかがでしょうか。】


「あいつか・・・・・・」


アイの言うあの方が誰なのかをすぐに理解した俺は、その人物のところへ明日訪ねる事にした。



✳︎



翌朝、寒さと怠さを交ぜつつ、俺は目的の人物が住んでいるところへと向かった。ハーンブルク鉄道に乗って一駅進み、下車した。

ここは遊戯の街『ラスベスタ』、ここにあいつがいるはずだ。


ラスベスタ駅から出ると、俺は正面にある建物の中へと入った。その施設を取り仕切っている者に軽く挨拶をしつつ、俺は目的の人物を探した。


するとすぐに、見つける事ができた。


「私もbet2000で〜」


どうやら勝っているらしく、ノリノリな様子で200万ベルという大金をbetした様子をみて、すぐさまそれが目的の人物である事がわかった。

俺は、そのままその人物の肩を叩くと、声を掛けた。


「久しぶりだな。」


「あ、あなたはっ!」


呑気な感じに振り向いたが、俺と目を合わせた直後、大いに驚いていた。


「悪いが急用だ。今すぐ時間を作ってくれ。」


「え、でも今200万betしたところなんだけど・・・・・・」


「知るかそんなもん。さっさと来い。」


「ちょ、ちょっと〜」


領主命令でゲームを中断してもらい、外へ連れ出すと、俺はご機嫌取りのために苺大福を奢りつつ、誰もいない公園に連れ出した。


「で?何の様なの?」


「実は、頼みがあってな。」


「ふむふむ、さっきの態度は人に物を頼む時の態度なのかな?まぁ私、人じゃなくて『どらごん』だけど。」


目の前に住むこの自称『どらごん』は、以前結婚式の日に俺の所へとやって来た、俺の前世を知っている数少ない人物の1人であり、未だに正体が掴めていない謎の存在だ。


俺は、すぐさま追放すべきという考えであったが、何故かアイはハーンブルク領で飼った方がいいと言ったため、こうしてハーンブルク領内で遊ばせていた。


確かに、天候を操るなどという芸当は、並の存在には無理だし、ハーンブルク領に存在する最大のイレギュラーであるこいつにしか不可能な気がした。


俺は早速、事情を説明した。無理難題ではあるが、アイも言った通りこいつが最後の希望だ。


「ふむふむ、なるほど〜クリスマスに雪を降らせる、か・・・・・・」


「できそうか?」


「無理かな。」


「おいっ!」


「いやいや、いくら私が『どらごん』でも、できる事とできない事があるんだよ〜そしてこれはできない事の方かな。」


「何だよ使えな。」


もの凄くできそうな雰囲気を醸し出していたので、もしかしたらとは思ったが、使えない事にできないらしい。


「まぁ、できそうな人を1人知っているけどね。」


「え?!知り合いにいるのか?」


「うん、凄い魔法使いが1人いるんだ。ちょっと優しすぎる所と愛妻家過ぎる所はあるけど、いい人だよ。」


俺は、得意げになってその凄い魔法使いの話をするサイに耳を傾けつつ、この自称どらごんの数メートル後ろから奇妙な違和感を感じとった。

何かはわからないが、何か変な感じであると言う事はわかった。

間違いなく、今までに見た事の無い物だ。


危険を感じ取ったのか、いつの間にか実体化したアイは、俺を守るようにそれと俺の間に立った。


「あ、アイ?どうしたの?そんな顔して。」


後ろにある明らかなイレギュラーに気がついていない目の前のどらごんは、呑気な声でそう言った。

だが、俺はそのイレギュラーが何なのか、知識としては知っていた。

ただそれは、今世ではなく、前世の知識ではあるが・・・・・・


「魔法陣・・・・・・」


【これまでに見た事のないほど膨大な魔力を感知しました。念のため私の後ろにお控え下さい。】


俺は何も感じ無かったが、アイは敏感に感じ取っているようで、目の前の白い魔法陣に対してもの凄い警戒心を表した。

直径3メートルぐらいの白い魔法陣で、魔力などは感じ無いものの、奇妙な存在感を放っていた。

そして、ゆっくりと白く輝き始めた。


「な、何だ?」


「も〜2人ともどうしたの?って、何でこれがここにっ!」


先程まで平然としていたサイであったが、背後に現れた白い魔法陣に気がつくと、驚きの声を上げた。


「知っているのか?」


「う、うん。もちろん、だってこれ、私がさっき説明した魔法使いの魔法陣なんだもん。」


サイがそう呟いた直後、目の前の白い魔法陣から声が聞こえて来た。

そして、うっすらと手を繋いだ男女がその場に顕現した。


「も〜こんな所にいたんだね、サイ。凄く探したよ。」

「ふふふ、私は結人さんと旅行ができて楽しかったですけどね。」


魔法陣が溶けるように消えると、20代前半ぐらいの美男美女が、手を繋いでそこにいた。

少なくとも俺は聞いた事のない声だし、見た事のない顔だ。だけど、その2人に何故か親近感を感じてしまった。


「結人に咲夜っ!2人とも会いたかったよ〜」


するとサイは、以前俺たちにしたように2人に抱きついた。

どうやら知り合いらしい。

アイも警戒を解いた。


「知り合いなのか?」


「うん、この2人が、さっき話していた超凄い魔法使いだよ。」


「なら、この2人なら、クリスマスに雪を降らす事だって可能なのか?」


「そんなの朝飯前だよっ!」


お前がやるわけじゃないだろ、と心の中でツッコミつつ、俺は結人と呼ばれた男の方を向いた。


「あの、頼みがあるんですが・・・・・・」


「クリスマスに雪を降らせてほしい、でしょ?いいよ。そのぐらいなら簡単だし。」


「それはありがたい。報酬がほしいなら何でも言ってくれ。」


夢のホワイトクリスマス実現が可能になったという事で、俺は心の中でガッツポーズをした。早速、交渉に入ろうとしたのだが、彼らからは意外かつ不思議な返答が返ってきた。


「う〜んと、報酬はいらないかな〜。君と僕たち、言わば兄弟のような物だから。気にしなくていいよ。」


「兄弟・・・・・・」

【・・・・・・】


兄弟というのが何を指しているのかよくわからないが、やってくれるという事はわかった。

彼らは、繋いでいる方の手を前に出すと、呪文のようなものを唱えた。何と言っているのかはわからなかったが、何処か懐かしい感じの言葉だった。


「「××××」」


直後、空を覆い尽くすほど巨大な魔法陣が空に現れた。

それは幻想的で、何か夢を見ている気さえした。


「ついでにおまけもしておくか。××××」

「ふふふ、流石結人さんですね。私も賛成です。××××」


彼はそう言うともう一つ、何か巨大な魔法陣を追加した。もちろん、何が起き何をしようとしているのかはわからない。

だけど、この2人から悪意は感じられなかった。


そして、しばらくすると・・・・・・


「すげぇ、雪だ・・・・・・」


【どうやら本物のようですね・・・・・・】


それは確かに雪であった。

魔法をかけ終えた彼らは、再び先程見たものと同じ魔法陣をその場に作り出した。


「明日の昼頃には止む様に調整しといたから、注意してね。それと、僕からのサプライズプレゼントも用意しておいたから、楽しみにね。」


「お、おう。ありがとな。」


「あぁそれと、サイは僕が責任持って家に送り届けるから安心してね。」


「わ、わかった。」


「じゃあまたね、後輩くんたち」


それだけ言い残すと、彼らはサイを連れて魔法陣の中へと帰って行った。彼らの姿が完全に見えなくなると、その場にあった魔法陣は静かに消えた。

おそらく、どこにあるかはわからないが彼らの世界へと帰ったのだろう。


「不思議な奴らだったな・・・・・・」


【少し、現実感がありませんでしたが、確かにそこにいましたよね。】


「ほんと、何だったんだろうな・・・・・・」


少し考えたが、俺には彼らが誰だったのかわからなかった。





宣言通り、クリスマス当日の昼頃まで雪は降った。

イブの夜のうちに雪が積もり、当日の朝は辺り一面真っ白になっていた。


そして不思議な事に、翌朝ハーンブルク領に住む全ての子供達の枕元にプレゼントが置かれていたらしい。


俺や俺のお嫁さんたちの所にもしっかりと届いており、中にはそれぞれが欲しかった物と、メリークリスマスと書かれた豪華なクリスマスカードが添えられていた。


そして差出人の所には、白と赤のサンタクロースより、と書かれていたという。




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どうでもいい話


結人&咲夜、誰の事なのか気になった方は、是非私の処女作『序列1位の最強魔法師に明日はあるのか』を読んでみて下さい!

(露骨な宣伝)

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